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第八十二話「哀愁のエディ物語」
1999年8月9日17:00 日本 七尾其の灸
「だいじょうぶか?headsちゃん」静かなので心配になって問い掛けてみる。
「あぃあぃ(=^.^=)/、大丈夫楽勝、クロネコさんも後ろに来ています」
「警官に見つからないようになぁ」
道はなだらかな市街を抜けるといきなり急坂に差し掛かっていった。
その時、後ろから一声クラクションが鳴った。
クロネコの車はここから山を越えずにバイパスを使って金沢に抜けるのだと言っていたのを思い出す。
止ってウインカーを出しているRX-7のフロントガラス越しにクロネコの手を振る姿が見えた。
皆が手を振ると笑顔のままクロネコは新道の方に曲がっていった。
「うわ、結構キツい坂っすね(@_@;)」アクセルを強く踏むとゼンソン号が唸りを上げた。
「6人乗ってるからなぁ、けっこう居心地良さそうじゃん、つぎ替わって」後部座席に小さくなって座っているMBXが荷台を振り返った。
「そそ、けっこう快適♪」headsの半ば荷物に埋まった体からくぐもった声が聞こえてきた。
「あ、Maroさんに道聞くの忘れた・・・( ̄◇ ̄ ;」峠の頂あたりで急に団長がすっとんきょな声を出した。
ちょっと前に出たこのアイデア、サクっと忘れてこの時まで気がつかなかったのであった。
「ガビョーム、そゆやそうだねぇ」ミケくんが頭を掻いた。
「まぁ、なんとかなるっしょ、取りあえず小杉まで出ましょう、そこから高速に乗って」
「で、高速に乗るのはいいが、どっち?」すかさずミケくんが突っ込む。
「いあ、どっちって言われても・・・小松ですよ」
「そんな都合良く小松はこっちだよって出てるかなぁ( ̄▽ ̄;)」あつこが心配そうに時計を見た。
海岸通りに出たのか山間から青い海が顔を出す。
「距離はどのくらいなんだろう?」MBXが一番詳しそうな団長に尋ねた。
「さあ、そんなに遠くは無いと思いますよ」涼しい応えが返ってくる。
「えーと、バスで三時間くらいだったかな珠洲まで、わりと早かったよぉ」Hirokoが思い出そうとしていた。
目の前に海が開けて潮の香が車内に入ってくると議論は一時中断された。
「おお、もう海いいやいらねえー(笑」勝手なことを言い出すミケくん。
「地図無しに場所もわからない所に向かうのって無理じゃないの?反対方向だし」
あつこはカニカニ団のあまりのいい加減さにほとほと疲れていた。
「どこかで駅に降ろしてくれれば、電車で帰ってもいい(=^.^=)」Hirokoが申し訳け無さそうに呟いた。
「Hirokoさん、キャンセルってできるんでしょうか?」団長は運転に調整役にと忙しかった。
「出来ると思うよ、時間前だし。」時計の針は18時を過ぎており、とうてい小松空港まで定刻に辿り着けるわけもなかった。
「でも今の時間からだと今日中に東京は電車じゃ無理ですよね」団長が去年の副団長の件を思い出さずにはいられない。
海岸線を彩る松林の景色は壮観だった。天高くトンビの舞う夕日に得も言われぬ美しさに満ち溢れていた。
「携帯で聞いてみたらどう?」MBXが思考の止りかけたカニカニ団の中で良いアイデアを弾き出した。
「うん、ちょっと聞いてみる」荷台のバッグをheadsに探してもらって受け取ると、Hirokoは小松空港に尋ねてみることにした。
「・・・はい、じゃぁわかりました検討して、駄目そうだったらキャンセルのお電話を差し上げます」
Hirokoは電話を切るとバッグに戻して、落ち着いて皆に経過を報告した。
「あのね、キャンセルできるんだけど、今からだとキャンセル料がかかるんだって」
「まだ代金は払っていないんでしょ?キャンセル料っていくらなんですか?」団長がルームミラーでHirokoを見る。
「一万円くらいかな、ほぼ全額」Hirokoは半ば諦めたようにそう言った。
「直前のキャンセルはやっぱキツいからなぁ」荷台からheadsのくぐもった声が聞こえてきた。
「このまま東京まで行っちゃおうかな、ガソリン代のお金払いますから」
「それがいいかも、こっちはOKですよ、headsちゃんに聞かないとならないけど(笑」
「全然オッッケー、荷台もけっこう楽しいしぃ♪」すぐに返事が返ってきた。
「じゃぁ乗っけてってもらおうかな、一人で帰るよりもこっちの方が楽しいし」
「まったくいきあたりばったりでしょうがないわね(-_- )」カニカニ団のあまりの無計画ぶりに呆れたあつこが思わずそう漏らした。
カニカニ団の最後の良識といわれるあつのしんにとっては、とても堪えられない破天荒な行動ぶりだったのだ。
ある程度、事態を予測できる普通の能力が備わっていれば、このような瀬戸際の混乱は起きない。
しかしカニカニ団はその常識からしてぶっ飛んでおり、常人の想像を遥か越えた世界に君臨していたのだった!!!
やばい、あつのしんがゴゲキン斜めだ、ミケくんは、すぐ横の団長を見た。
団長はまっすぐ前を見据え、まるで日焼けが嘘のように引いて真っ白な顔になっていた。
「(・・お・・・おい、何とかしろギャグとかよ、団長(<●> <●>;)」そっと小声で団長の腕を突いた。
「・・・・えー、本日はお日柄も宜しく楽しい旅行ではありますが・・・えー(そんなすぐにうかびませんよ( ̄◇ ̄ ;)」
「(なんじゃそりゃ?!・・なんかオモロいこと喋れよゴルァ!(`o´#))」更に激しく団長の腕をつついた。
「(ミケくんこそ何かギャグ飛ばしてくださいよ、ボクは運転だけで精いっぱいですYO(* ̄∀ ̄)」
氷見市にはいると海岸線は一層深みを増し、黄昏に金色に染め上げられた虹ヶ島を一望のもと、
遥か立山連邦の雄大な頂の連なりに大自然の美しさを堪能していただろうと思う。
「えー、つまりなんだよな・・・・次は俺が荷台に乗るから(笑ヽ(^◇^)」
なんの解決にもならない意見に一人で笑うミケくんの姿は余計寒い沈黙を悪戯に招いただけだった。
MBXを振り返るとハリネズミのように背筋がピンと伸びてかしこまり、目紛しく眼球だけが動いていた。
「あのその・・そうと決まればとりあえず早くキャンセルの電話した方がいいんじゃないかな、やっぱ(;^_^A 」
「そうですよ、早く電話でキャンセルした方がいいですよ」大きくカーヴを切りながら団長が激しく同意した。
「うん、そうします」Hirokoは携帯で担当者にチケットの番号を告げキャンセルを申し出た。
「そうと決まれば楽しく皆さん御一緒に帰りましょう!ヘ(^^ヘ) (ノ^^)ノ」
場違いなフイイキを余計深みに嵌めるようなミケくんの浮いた言葉が飛び交った。
「(いい雰囲気になってきたんだから、ミケくん余計な事言わないでくださいYO( ̄▽ ̄)」団長の小声が聞こえてきた。
宵闇も迫ってきて左手に大きな海に少しずつ薄紫色のベールが降りてきた。
遠くの海上には早くも灯を煌々とつけた漁船が誇らしげに遊弋している。
ポツポツと、まるで星のように瞬いては重なっては、また離れていった。


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