パラダイス・パフェ




1 〜アイドル・タイム〜

 果たして自分という人間は、何者であるのか?
 疲労と空腹に苛まれた彼の頭は、どこか哲学的なことを頭の中でこねくり回し始めていた。ふらふら、あるいは、とぼとぼとした頼りない足つきで街路を彷徨いながら。
 もともと本来の彼という人物は、さして深く考えるタイプの人物ではない。もし深く熟慮する性質であったなら、何の気なしに目の当たりにした芸能プロダクションの人員募集広告などに反応して、応募するような真似はしなかったことだろう。

 求むプロデューサー 未経験者可 まずは下記の連絡先まで

 無論、『プロデューサー』と呼ばれる諸氏すべてが、このような人物だということではない。であるはずもない。しかし、ここに彷徨っている『彼』は、そのような人物だった―というだけのことである。
 しかし、である。踏み出した一歩の勇気、あるいは蛮勇が何故だか広告主の目に留まることになり、そのまま入社という運びになった。
 そして研修と称した雑役を数週間ほどこなした後、その指示は下された。

『アイドル候補生となる人物をスカウトし、そのプロデュースに当たること』―と。

 かくしてここに、未だに担当アイドルを持たない『プロデューサー候補生』とでも呼ぶべき男が産まれることになったのである。
 そう、現在時点では、何者とも呼べない男が、一人。
 先の自問は、焦燥と自嘲に満ちた逃避の一種だったというわけである。
 そんな彼の運命は、程なく変わることになる。
 疲労と空腹が導いた運命、即ち必然に従って……。



 日の入りもそう遠くない頃、夕焼け空に雲まで赤く染まっている。
 何者でもない男の目には、ただただすべてが虚しく映る。今日という一日に、何の形も与えることができなかったという虚脱感があるだけだ。
 すべては無意味だったか、と。
 しかし、それでも、どんなひどい一日でも―腹は減る。
 歩き回り、探し回った結果が徒労とはいえ、費やした労力は時間は確かにあったのだ。
 その代価として支払われた労力に対して、身体は確かに求めているのだ。
 食事という行為を、可及的速やかに。
 そんなときに、目に入ったのは。
「あれは、ファミレスか……」
 その言葉には、何の感情も込められていない。
 要求に対しての、条件を満たす場としては充分。
 取り立てて食事を楽しもうという気分でもないので、特に何を食べたいという腹具合でもない。あれこれと探し回るのも割とエネルギーを使う行為であることを思うと、早々に妥協することが賢明のように思われた。
 というわけで、避ける理由もない。
「うん」
 一度ノドを鳴らしてから、明確に目的地をファミレスに定めて歩いて行く。今までの気落ちして力なく歩を進めていた姿よりは、いくらも力強く。
 そこにあると思われるもの―メニューの数々を思い浮かべた時、自然と力が入ったのだ。 そこには些細な喜びがあることを、身体が覚えているからだろうか。
 近付くにつれ見えてきた店の大きな窓からは、賑わっている店内の様子が窺えた。もしかしたらすぐには席に着けないかも知れないか、この時間でスカスカな店というのはそれはそれで入る気が失せてしまう。どうせ一人の身、少々待てばどうとでもなると割り切って入り口から飛び込んだ。

 店に。
 そして、運命に。

「いらっしゃいませ! お一人様でよろしいでしょうか?」
 彼を出迎えたのは、ウェイトレス。
「え、あっ、ハイ、一人です」
「おタバコはお吸いになりますか?」
「いえ、すいません」
「わかりました。現在店内は大変混み合っていますので、申し訳ありませんがしばらくお待ちいただけますか?」
「大丈夫です」
「ありがとうございます! それでは、そちらにお掛けになってお待ちくださいませ!」
 それはどこででも見受けられる、マニュアル通りの接客応対でしかなかった。別段変わっていたところもない。実際彼女は、決められたとおりの確認を済ませると、そのまま店の中へと戻っていってしまった。当たり前のことだが。
 ただ、笑顔だった。
 それも、とびきりの。 
「……ふぅ」
 いつからか分からないが緊張してしまっていたのか、身体のあちこちに無駄に入れてしまっていた力を抜くかのように大きく息を吐いた。不意打ちと何が違うというのか、あの可愛さは。
 そういった店……例えばメイドカフェや制服が可愛いことで有名なチェーン店等でなら、理解しなくもない光景だった。往々にしてそういった店は時給もよく倍率が高いため、よくよく可愛い子が揃っていたりするものだから。彼自身、飲食よりそういった姿を目当てに足を運んだ経験がないこともない。会いに行けるアイドルを標榜するユニットが巷にはあったりするが、そういったものが普及する前は正に、彼女たちこそが会いに行けるアイドルだったのではなかったか。
 決して触れられるわけでもない。ただ一瞬の逢瀬とも呼べぬ、飲食物の提供を軸にした交差に楽しみを見出す―そんな時代が。
 彼はそんな時代を想起させた彼女のことを、目で追うことにした。
「……うん!」
 誰向けというわけでもない言葉を、力強く吐き出しながら。



 席に案内されるまでの間、彼は彼女をずっと見ていた。その姿を、動きを、何一つ見逃すまいと熱の籠もった目で、つぶさに。恐らくだがその姿は、混み合っている時間帯でもなければ相当異様な雰囲気を放っているように見えたことであろう。
 真剣すぎるその姿は、場に不釣り合いとしか言い様がない。
 さておき、それだけの熱意を傾けただけあって、色々と見えてきたものがあった。
 顔、良し。
 直接の接客中は勿論のこと、デシャップ(料理を運ぶ)やバッシング(食器を下げる)の最中であっても笑顔を絶やさない在り方は、特に特筆に値するだろう。
 なりが良いというだけではない、総じて良いということ。
 身体、良し。
 控えめに言っても、もの凄い。
 メリハリが利いている。出ていて欲しいところは出ていて、引っ込んでいた方がいいと世間一般的に思われているところは、しっかりと引っ込んでいる。少々野暮ったい制服(そういった系統の店ではないので当然なのだが)で覆い隠そうとしても、隠しきれないだけのアピールを放っていると言えよう。
 ここまでは、外見的な評価の話である。アイドルを探している身の上のこと、まず当然の成り行きではあるだろう。
 また別に、直接アイドルであることと結びつくかは分からないが、それ以外にも見所は大いにあった。
 まずはデシャップやバッシングの際の、手際の良さ。手のひらだけでなく上腕や前腕を余すことなく使い、もの凄い早さで料理を並べては、また空いた器を片付けていく。傍から見ている分には、曲芸に近い領域にまで達しているように感じられた。少なくとも身の熟し―身体を動かすことには慣れているし、相当に器用な部類だと判断してもいいだろう。
 次に、声。大声を出している訳でもないのに、しっかり通っている。それでいて人の会話を遮るような圧もなければ、邪魔になる耳障りな騒音にもなっていない。実に自然。
 極めつけは、目配りだ。人が必要とされている場にスッと入っていき、滞りなく回しているのが見えたのだが、その様が実に自然だったのだ。こんな時、テキパキとしているなんて表現を用いるものだろうが、それだけでは物足りない。この表現には、流麗なさまを表す言葉が欠けているから。そんな気持ちにさせたのだ……眺めていた、彼をして。

 いよいよ、その時はやってきた。
 空いた席―数分前までは所狭しと空いた容器が置かれていたとはとても思えないほどに、綺麗に整えられた―に案内され、腰を下ろした。
「お待たせしました! ご注文はお決まりでしょうか? お食事ということでしたら、こちらのセットメニューがオススメです! それと当店では、現在スイーツフェアを実施しています! フルーツパフェやチョコパフェ、チーズケーキやショートケーキもおいしいですよ! ……って、初めてのお客さんに色々言ったら逆に迷っちゃいますかね?」
 矢継ぎ早だったが決して聞き取りづらくはなかったセールストークに耳を傾けつつも、彼の心は既に決まっていた。
 無駄に大きくならぬよう、かと言って聞き取れないほど小さくもならぬよう、冗談と思われないように真摯な表情で、それでいて過度に警戒されないように柔和な笑顔を浮かべながら、誤解を招かないように端的な言い回しになるように努めて告げた。
「アイドルを一つ。いえ、一人」
 名前も知らない―名字はネームプレートから『槙原』と分かったが―相手に。
「はい、アイドルお一つですね……って、あのーお客様、アイドルという商品は取り扱っていませんが……?」
 マニュアルから外れた言葉を、彼女から引きだした。しかしそれは当然のことながら、困惑と疑念とで彩られている。
 まるで予想していなかったわけでもない相手の態度をよそに、彼は懐から名刺を取り出すと、重ねて告げたのだった。
「なりませんか、アイドルに」
 そこに込められていたのは、相手―この『槙原さん』を擁して『プロデューサー』になってみせると決めた、彼の覚悟そのものであった。
「ええーっ!? 私がですか!?」
 それはそれは広い店内の隅々まで響き渡る、良い声だった。



「お待たせしました!」
 彼が席に案内されてから、早数時間。
 このように言いながら彼女―槙原志保はやってきた。
 服は先程までの店の制服ではなく、私服。
「ありがとうございます。仕事明けに無理を聞いていただいて恐縮です」
 彼―プロデューサーになってみせると腹を括った男―は、深々と頭を下げた。



 先程のスカウトのあと、店はちょっとした騒ぎになった。
 それはそうだろう、ウェイトレスが普段は上げないような大声を上げたのだ。他の客ばかりでなく、店員たちの耳目まで何事かと集めることになってしまったのだから。
 集まってきた有象無象(プロデューサー視点)を前に、自分が怪しいものではないことを説明し、その証明のために可能なありとあらゆるプレゼンテーションを実施。
 一通り理解を得たところで、今度は別ベクトルの問題を見るに至る。
 それは時間帯が、丁度夕食時の多忙な頃合いだったということ。
 つい先程まで志保の手際の良さに見惚れておきながら、なぜその手際が求められている状態にあったかということを、完全に失念していたのである。
 というわけで彼女が上がりになるまでの間、店内で飲食を続けて待っていたのである。
 忙しい時間帯に迷惑な客とならないように、コンスタントに料理のオーダーを繰り返しながら……。
 彼は目には見えない何者かに感謝した。
 この身体がただひたすら、空腹だったことに。



 対面のイスに腰を下ろすや否や、志保は出し抜けに質問した。
「お料理、どうでしたか?」
「え?」
 既に志保は、彼が何者だかを知っているし、何用のためにここで待っているのかも勿論知っている。制服だって着ていない。
 それだというのに、出てきた質問がこれだったので、彼は面食らった。返事にもなっていない生返事を返してしまう。
「たくさん召し上がっていましたから、どうしても感想を聞いておきたくって」
 テーブル上の伝票入れには、オーダーごとに発行されたそれが窮屈に押し込まれていた。金額的にも量的にもそれなりに行っている。平均的な四人家族のオーダーを上回るくらいにはあるだろう。
「あ、どれもおいしかったです。特にオススメされたフルーツパフェは絶品でした」
 量的にかなりあったのに食べ続けることができたのは、味が相応に良かったからというのは間違いなくあったので、彼はその通りに答えてみせた。
 答えを聞いた瞬間から、志保の顔が華やぐのが見て取れた。
 それは間違いなく、先程までの仕事中の表情らと比べても、一番と言い切ってよい笑顔だ。
「本当ですか!? よかったー! それじゃ、またのご注文をよろしくお願いしますね♪」
 その様子に、彼は一層の確信を深めた。
 是が非でもこの子を、アイドルにしなければならないと。
「それです、その表情です!」
「……はい?」
 今度はプロデューサーが出し抜けに、彼女を驚かせる番だった。
「先程ざっくりと説明しましたが、なってみませんか。アイドルに」
「え、えーと……」
「今から、じっくりと説明させていただきますね」
 テーブル上に確保した空きスペースに資料を並べて、プロデューサーは語り始めた。
 先程彼女が饗応してくれたことに対して、同じだけの熱量を感じてもらえるようにと、その意を込めながら……。



「……という感じなのですが、いかがでしょうか?」
 プロデューサーはかなりの時間セールストークの枠を越えた熱弁を振るったのだが、志保からは答えらしい答えは何も受け取れずにいた。突っぱねられていないだけ、まだいいと言えばそうなのだが。
「私がアイドル……うーん……」
 何かを呟いては、首を捻っている。
 言葉の節々から感じられるのは、今までの言葉を現実のものとして受け止めてもらっていない節があることだった。そう、彼女自身のこととして。
 あるいはこの辺りには、自らの経験不足―まだ何の実績も持っていない、駆け出しのプロデューサーであることが影響している面があることも否定はできない。いかに熱弁とは言え、そこに実態が宿った瞬間は未だに存在しないのだから。
 つまり、大所高所から掛けうる言葉はない。
 いまここにあるのは、彼女をしてアイドルたらしめたいという熱意だけ。
 だから、次の言葉はこうだ。
「志保さんはここで働いていて、どんな時に嬉しいですか?」
「それはもちろん、運んだ料理を食べたお客様が『おいしい』って、笑顔になってくれた時です!」
 即答。
 何の迷いもない答えぶりから、彼女が今の仕事に満足していること。
 そして、人の笑顔に喜びを見出せる性格であることが窺えた。
「それでしたら、やっぱりあなたはアイドルになるべきです」
 ならば明確に、彼女に示すまでだ。
 アイドルとして得られるものが、同種の喜びでありながらも一層大きいものであることを。
「え……?」
「アイドルは、人を笑顔にできます。ファンだけではなく、その仕事を目にする多くの人たちさえも」
「でもそれって、私がやらなくても……」
「確かに今の世の中には、大勢のアイドルが存在します。その意味では、志保さんが言っていることも、あながち的外れというわけではありません」
「だったら、私じゃなくてもいいんじゃ?」
「それは断じて違います。例えばの話ですが……」
 プロデューサーはメニュー立てに納められていた、オススメメニューを取り出しては開いて見せた。
 そこには先程志保が彼に勧めた、スイーツのカラフルな写真が掲載されている。
「フルーツパフェもチーズケーキも美味しいスイーツですが、美味しさの中身は違います。それはどちらかが絶対的に美味しいとうことでもありません……そうですよね?」
「はい、みんな違ってみんなおいしい……それがスイーツです!」
「アイドルも、そういうものなんです。美味しいスイーツが色々あればあるだけ人を幸せにできるように、アイドルもいればいるだけ、より多くの人を幸せに……笑顔にできるんです」
「……あっ!」
 志保の驚いた表情に手応えを感じたプロデューサーは、この線で問題ないと確信して言葉を重ねていく。
「あなたには甘い甘い……大勢の人を笑顔にできるアイドルになれる資質があります、間違いなく。私はこの店に来てほんの何時間しかあなたのことを見ていませんが、だからこそ確信しました。美味しい料理が一口で食べた人を唸らせることがあるように、私も一目でそれと分かったんです」
「私がアイドル……甘いアイドル……」
 少し前の彼女の言葉に似てはいるが、イントネーションは大分違う。
 現在志保が志向している生き方と、アイドルになることとの間に、相通じるものを見出しつつある―そんな、思考を巡らせている風なのだ。
「私……いえ、私たちと一緒に、多くの人を笑顔にすることを仕事にしてみませんか?」
「私『たち』ですか?」
「そうです。この店が志保さんのようなホールのスタッフだけで成り立っているわけではなく、キッチンやオフィスで働いている人の力も合わせて成り立っているように、アイドルにも多くの人がその活動に関わっています。同僚のアイドルや私たちのような活動をサポートする者、歌やダンスを考える先生方……これら多くの人たちが力を合わせた結果がアイドル活動であって、その先にあるのがファンや、応援してくれる人たちの笑顔なんです。この形、何かに似ていると思いませんか?」
「えーっと……分かりましたっ! このパフェをお客さんに出すとして、これを運ぶ私たちにの前にこれを作るキッチンのスタッフがいて、さらにその前に材料を発注しているマネージャーがいて、さらにさらにその前に材料を作ってくれる人たちがいて……こういうことですよね!?」
 一人の仕事は、一人だけで作り上げきれるものではない。
 そこに携わる人たちの、労力の総和があってこそ。
 サービスの最前線に立って、笑顔を配る役目にあることは同じ―プロデューサーは、そう訴えたかったのだ。志保が正しく理解してくれた通りに。
「その通りです。ですから……」
 プロデューサーはゆっくりと頭を下げた。テーブルと上体とが、平行スレスレになるくらい、深々と。
「お願いします、アイドルになって下さい。何万人かの……笑顔のために」
 今の彼に、彼女の表情を伺う術はない。目を開いても、見えるのはテーブルの模様だけ。
 そんな瞬間が、どれだけの間続いただろうか……。
「顔を上げてください、プロデューサー(・・・・・・・)さん」
 彼女の呼びかけに、跳ねるように顔を上げた。
「……いいんですよね、この呼び方で?」
 そこに見えたのは、真摯ながらも笑顔を絶やさない彼女の顔だった。
 つまりは、仕事に挑む顔。
「……はい!」
 それは確かに彼が、自他共に認める『プロデューサー』になった瞬間でもあった。
「それでは早速、ご注文を伺ってもいいですか? アイドルになる私への」
 この世界でそれを問われたなら、答えは一つしかありえない。
「―トップアイドル」
「ご注文繰り返します。トップアイドルを一つ、いえ、一人。以上でよろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
「かしこまりました。こうなったら、パーフェクトなアイドルになるしかないですね♪」
 互いに、同時に頷きあう。
 その心強さが、互いの内心に通じ合う。
「ところで、知っていますかプロデューサーさん? パフェの語源って、パーフェクトから来てるって説があるんですよ」
 これは実際の話である。フランス語で完璧を意味する『パルフェ(PARFAIT)』がそのまま英語の『パーフェクト(PERFECT)』として持ち込まれ、短縮されたのだ。
 意味するところは、そのまま『完璧なスイーツ』。
「いや、知らなかったですね」
 この瞬間まで知らなかったが、これから先忘れることもないだろうと彼は思った。
「というわけで……パーフェクトなアイドルにはパフェ、これですよ! 私の分注文してもいいですかプロデューサーさん!? 私、うちのパフェ大好きなんです!」
 いきなり志保がハイ&アッパーなテンションになったことに面食らったが、何が問題ということもない。
 若干、引っかかるところはあったが……。
「うん、ああいいよ、どうぞどうぞ」
 いずれにせよ一仕事終えた感がある彼にとっては些細にすぎることだった。
「ありがとうございます♪ それじゃあ食べながら教えてくださいね、アイドルのいろんなことを♪」
 志保が見せている、この満面の笑顔の前には。



 始まりは、偶然でしかない。
 それはお互いに、自ずから求めているものではなかったから。
 しかし、確たる意思が二人を呼びつけた。
 そして偶然に必然の衣を着せ、あたかも運命として振る舞わせるのだ。
 まず彼に、次に彼女に、プロデューサーとアイドルという形を与えることで。
 そのくせ注文通りに事が運ぶか否かは、誰にも分からせないままに。

 待機時間(IDLETIME)は終わり、二人三脚で頂点を目指す活動時間(IDOLTIME)が始まる。
 そう、この時、この場所から。



 (続く)



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