■『デザイア』原案となった私の見た不思議な夢■

 

 今でもハッキリと覚えているのですが、それはとても不思議な感覚の夢でした。

 私は、中学1年生。綺麗でおいしい水と、豊かな緑に囲まれた、自然いっぱいの農村で育った少年です。ある日、東京から同い年の少女が遊びにやってきました。彼女の名はアキコ。母がこの村の出身だとかで、たまたま夏の休暇を利用してやってきたのだそうです。
 私は村でも有名なガキ大将。そのくせ田舎暮らししか知りません。そんな私は、都会からやってきたスマートな少女に、一目で恋心を抱いてしまいました。彼女もまた、初めての田舎暮らしに戸惑いお覚えつつも、いつしかその自然に心引かれていきます。彼女をお下がりの自転車の後ろに乗せ、野山を駆け回る日々。楽しい時間はあっという間に過ぎていきました。
 彼女が夏休みを終え東京に戻っても、私の心はずっと彼女に夢中でした。いつしか私は上京を夢に見、ついにそれをムリヤリ叶えてしまいます。
 彼女と同じ学校に転入した私は、そこで田舎にいた時と同じように彼女に接触しました。ところが、彼女はすでに田舎暮らしから離れ、もとの都会暮らしの住人へと戻ってしまっていたのです。田舎者丸出しの私を、さりげなく避ける彼女。それでも私はめげずに彼女へのアプローチを続けます。
 そんなある日、事件は起こりました。明るくてクラスの人気者だった彼女に想いを寄せていた別の少年から、喧嘩をふっかけられたのです。少年たちはグループになって私を責めてきました。必死で応戦する私。その戦いに、当事者である彼女が止めにやってきました。しかしもちろん、その戦いを終わらせるわけにはいきません。正々堂々の殴り合いの戦いに、いつしか相手が武器を持ち出しました。「おまえみたいな田舎モンに寄られたら、アキコが迷惑すんだろーが!」そうののしりながら、少年はナイフを突き出します。彼女はそれを慌てて止めにかかりますが、私は左腕を切られ、その瞬間、頭に血が逆流したのを感じました。私は落ちていた石を拾い上げ、振り向きざま少年の頭に向かい振り下ろしたのです。
 鈍い音と共に、少年がゆっくりと倒れます。その少年の向こうには、恐怖に顔を引き攣らせた彼女の姿が―――。倒れた少年に駆け寄る仲間の声が、やけにハッキリと私の耳に届きました。
 「死んでる・・・!」
 彼女は左腕から血を流している私を見つめ、ゆっくりと首を振りました。ガクガクと震える膝で一歩ずつ退いていく彼女に、私は慌てて手を伸ばします。ところが。
 「いや!寄らないで!」
 強い拒絶。
 どうしてでしょう。
 私が戦って勝ったというのに。
 彼女の為にやったことだというのに。
 不思議に思う私の耳に、今度はパトカーと救急車のサイレンが聞こえてきました。その途端に、自分のしでかしたことの重大さに気付いた私は、慌ててその場から逃げ去ります。
 執拗なほど耳に響くパトカーのサイレンに、いつしか自分は学校の屋上のフェンスを乗り越えました。あとを追いかけてきた少年の仲間と彼女が、私を険しい表情で睨みつけます。
 「人殺し!」
 少年の仲間が叫びます。
 どうしてでしょう。
 私は彼に腕を切りつけられたのです。
 アレは正当防衛ではないのですか?
 しかし、そこにいた全員は、私を「人殺し」とみなしているようです。それはもちろん、彼女も―――。その時彼女の目には、私が恐怖の対象とでしか映っていませんでした。
 ボクは彼女に嫌われた。
 そう思った瞬間、私の手はゆっくりとフェンスから離れました。身体が徐々に後ろへと引っ張られていきます。
 ボクは彼女に嫌われた。
 落ちていく私は、その思いに包まれたまま鳴り響くサイレンを聞いていました。
 遠くで、彼女の泣き叫ぶ声が聞こえたような気がしました。

 その瞬間、私は目が覚めたのです。いやはや不思議な夢でした。何が不思議って、私がまず少年だったということ。そしてそのアキコという少女が、私の好みからまったく外れた子だったということ(笑)。目付きの涼やかな美少女系で、成績優秀、運動神経バッチリ!という完璧な女の子だったんですが、自分がモテるということを自覚していた子だったんです。悪いけど、私はそういう人は苦手です・・・。友達としてもありえないというか(苦笑)。それがなぜあそこまで「私」がゾッコン(死語)だったのか、今でも理解に苦しむところであります。

 しかし、その一途な想いがあまりにも純粋で、そして恐ろしくて。これは面白いネタだな〜と直感しまして、それをモチーフに書こうと思ったわけであります。あの時の「彼女」の恐怖に引き攣った顔は、今でも私の中に鮮烈に残ってるんですよ。あの時ばかりは、拒絶されたショックがすごく大きかったのを覚えていますがね。