「こみっくパーティー」より
〜始まりの裏側〜 作者:武陵桃源
「……そうか楽しみにしているぞ。まいブラザー 」
静かに受話器を下ろす。
「くくくくっ! 」
不気味に笑う影一つ。
「そうっ。ついに、ついに我が野望が成就する時が来るのだっ 」
眼鏡が怪しく光を反射する。その光源は……不明だ。
暗い部屋の中で叫ぶ怪しい影、その名を……
九品仏 大志
その性、傲慢にして不遜、と称される男いや漢である。
世界征服の野望をその胸に抱く。
彼はその日、ついに魂の片割れともいえる男、いや彼が見込んだ漢を世界征服
の礎ともなる戦場へ引き出すことに成功した。
その戦場の名は「こみっくパーティ」略して『こみパ』 世界最大のそして最強の同
人即売会。そこには夢も希望もロマンもそしてあまねくオタクたちの野望もある。
群雄割拠乱立する欲望の世界。そんな苛烈極まる熾烈な世界に彼は魂の兄弟、
ソウルブラザーともいえる幼き頃からの友を引き入れ、共に世界に覇をとなえる決
心をした。
「機会は何度もあった。今回はまいブラザーにも良い契機であったろう」
そう思っているのはおそらく本人だけだろう。
「いや、こうなることは大宇宙万物創世のときより決定していたこと。予定調和の中で
の決まりごと。まいブラザーが漫画に生き、漫画で死ぬことそれは変えられぬ事実! 」
その顔を見るかぎり100%ホンキの言動。
幸か不幸か彼にその才能を、魂を見出された漢の名を……
千堂 和樹
その血潮の中に熱いものを秘め、心を燃やす何かを求める漢。
求めうる道を模索している青年。
ゆっくりと窓辺へと歩いていく。
「約束の日が、世界を制する日がついに来るのだっ 」
拳をグッと握る。
「いやいや、あせってはいかん 」
暗い部屋から窓の外を見る。
少しずれた眼鏡を人差し指で直す。
そとは暗く町の灯りが美しく輝いている。彼らの前途を祝す光のようだ。
時刻は23時過ぎ。人々はそろそろ眠りにつこうとする時間。
彼の思いを祝福するかのような町の光。
口元に不敵な笑み、瞳に確たる意思の光。
神託を受けた預言者のように、大志は言葉を発する。
「伝説の始まりだ、新たなる伝説の…… 」
いや彼ならば本当に神の声を聞いているのかもしれない。
しかしながら熱き魂の萌える予言者の言葉も今はまだ戯言にすぎない。
成就される予言はその時を待ちつつ静かに眠りにつく。
やがて始まる伝説の予兆につつまれて…
そして同人界に一人の同人作家がデビューをはたす。
「新たなる支配者…… 」
彼は一月毎にに開催される『こみっくパーティー』において着実にその才能を開花させていく。
「新たなる闘争…… 」
そして一年の後、同人界の頂点に立つこととなる。
「新たなる時代…… 」
しかし彼の傍らに、彼を支える女性がいたことを知る者は少ない。
「我が友、我が兄弟、我が永遠の同志の新たなる門出だ 」
そして彼をこの道に引き入れ、時に彼を困惑させ……
「くくく…… 」
そして、時に彼を助けた漢がいたことを知る者も。
実に本人とまったく関係の無いところから始まる伝説。
無責任な予言の果ての栄光。
伝説なんてこんなものなのかもしれない……
そして夜は更けていくなか、高笑いが響いていく。
【END】
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