「週末の過ごし方」より
『The world is drawing to an W/end.』
作者:武陵桃源
―――次に週末には人類は滅亡だ。
人の終焉の報が、人類を騒乱の渦へと導いて7週間がたった。
「日本」という国を存続させるため様々な政治的措置がとられたが、
はたしてどれほどまでの意味があるだろう?
世界中の国々、学者、研究機関が滅亡という意見を一致させた
というのに、この国の政治家達は諦めきれなかったらしい。
人のいない国を国として存続させつづけようなんてお笑いぐさだ。
もし生き延びる人達がいたとしてもそれはほんの一握りだ。その
人達がいままで国を望むのかどうかすらもわからないのに。
この1ヵ月の間に様々な人の有り様を見た。
まじめだと噂のサラリーマンが演じた狂気の殺人劇。
おしどり夫婦と言われていた男女の憎しみ罵倒しあう姿。
暴力団の人が老人に手を貸し助ける姿。
札付きの悪といわれた人間が悔恨の涙を流す姿。
人が多くの場面で驚くほど残酷になれる事は歴史が証明している
が、人の心は本当に様々だ。
そんな中にもまだ希望を捨てず、未来という美しい旋律に想いを
託す人達は少なくない。
彼らはその旋律に耳を傾け、忙しく働いている。
でも……
結局、あと一週間で何が出来る?
銀行強盗?
お金がそれほど意味もないのに?
殺人?
皆ほど無く死んでいくのに?
何もできやしない。
逃げるといっても肝心の逃げる場所が無いのだ。
シェルターなんてものは一部のエリートと言われる人達が占領して
しまっている。
選民意識というものはたとえ自由の国といえども存在するらしい。
だが世界規模の災害の前に、生き延びてどうするんだろう。
それならいっそ、苦しまずに死ねたほうが幸せだ。
それゆえにだろうか、混乱の1ヵ月を過ぎたあとは、何処も比較的
静かになった。
いくつかの国では宗教、民族紛争が激しくもなったが、どうやら核
の火による、終末前の人類滅亡という事にはならない様子。
各地で暴動が頻発し、世界は混乱を極めたけれども……。
結局、人々の生活は徐々に元に戻っていった。
ただ静かに、人の世界が死を迎える。
まぁそれでも生にしがみつくのが人間というか、生物の本能という
か、いじましい根性というか。
お笑い種ではあるが緊急用のサバイバルキットやミネラルウォータ、
カンヅメの類は飛ぶように売れているらしい。
生物の、人の本能バンザイ。
奪い合い殺し合う、本末転倒な連中までいるのだ。
それは誰もが生き残る術を諦め、生き残った時の事を心配している
ように見える。
死者の復活を信じた古代文明は幾つもあり、大抵は蘇ったあとの生
活が困らぬよう金銀財宝をとも埋葬したようだが……。
果たして本当に備えあれば憂いは無いのだろうか。
結局……死者は蘇らなかったのに?
あとには盗掘者に荒らされ、古びた棺が残されただけ。
死者すら晒され、墓標だけ虚しく残されただけのモノもある。
――それと如何ほどの違いがあるだろう。人々の行為は?
交通機関もほとんどが死んだ。
テクノロジーというものは、支えるべきが人間がいなければ驚くほど
脆い。
原子力発電なんてものは真っ先に停止したが、そうなると電気自体
がいつまで使えるのかも怪しい。
環境団体の人は喜んでいるだろか?
それでも電車は動いていたりする。
山手線でも2〜30分待たなければ乗れはしないが、なんでも国鉄
とかいう時代に電車を動かしていた人達の有志で、動かしているとか。
鉄道マンの誇り? 国鉄?
……よくは知らないがバンザイ。
テレビもワリと普通にやってる。
最後の最後まで放送は止めないと、スタッフの人達みんながテレビ
に出て泣いていた。
そういえば一時期どこかの番組スタッフで作られた音楽グループの
人達の顔も、その中にはあった気がする。
全てが終わる前日に再結成するとしないとか……。
その話が本当かどうか、ちょっとだけ気になる。
ラジオは無法者のおもちゃ箱と化している。
このご時勢に、音声だけのメディアというのは厳しいのか。
それでも国営放送は頑張っている。ある放送局はとある宗教団体に
買収され、神の愛を一日中説いている。このご時勢にはお似合いなの
か、ちゃんちゃらオカシイのか。別の放送局では受信コードネームを
『F・U・C・K放送』とかに変え一日中ロックを流してたりする。
そんなこんなで緊張感はあまり無い。
警察も完全に機能していないから犯罪は増えているが、一部の警察
官はそれでも交番にいてくれているし、なんのかんので終末まで1週
間の今の状態では、かえって凶悪事件は起きづらいのかもしれない。
それでも当然事件は増えているが、まだマシな状態だ。
一部の責任感が強い人達のおかげで、思ったよりも日常が動いてる。
でもそれは責任感などという上等のものではなく、現実から逃避し安
易な「かつての日々」を模倣しているだけなのかもしれない。
現実から目を背け、かつての日常にしがみつく。
底無しの沼に、黙々と石を積み上げる行為にすぎないのかもしれな
い。
そんな行為に何の意味がある?
バベルの塔?
神の怒りに触れ打ち壊された?
賽の河原の小石の塔?
鬼達に打ち壊されるのに?
結局、人はあんまり進歩していないのだろう――
そんな、滅びを迎える、終末という黄昏を迎える人類に……。
いや、僕に。
見つけられるだろうか?
僕らしい、終末の―――過ごし方が。
この世界でする――最後の約束が。
【end】
|