「すかとろシスターズ」 "twelve years ago..." それぞれの家で夕餉の支度が始まる頃、ここ柏木家では、四姉妹が仲良く一 緒に入浴していた。 「ふぃ〜…」 白い湯気が煙るなか、湯舟の縁にもたれ掛かってくつろいでいるのは次女の 梓(6歳)。 「……」 その隣、肩までしっかりとお湯に浸かっているのは三女の楓(4歳)。 「あははは! おねーちゃん、くすぐったいよぉ〜」 「こら初音、そんなに動かないの」 洗い場にて、全身を泡で覆われた姿で身をくねらせているのは末っ子の初音 (3歳)。 泡にまみれた彼女の背中を、片膝付いて洗っているのは長女であり、最年長 の千鶴(11歳)。 何処かほのぼのとした四姉妹の入浴風景。 「はい、後ろはお終い。それじゃ、こっちむいて」 初音の背中を洗い終えた千鶴が、妹の身体をクルリと180度回転させる。 そんな何気ない事が楽しいのか、「きゃっきゃっ!」とはしゃぐ初音。 「は〜い、前もキレイにしようね〜」 洗面器に張ったお湯でタオルを濯ぎ、軽く絞ってから初音の首筋を擦っていく。 「ふぃ〜…」 「……」 梓と楓は身体の芯からリラックスした表情で、二人のやりとりを眺めていた。 「ふんふんふ〜ん♪」 鼻歌を口ずさみながら、初音の身体を洗っていく千鶴。 姉の口からこぼれるメロディーに合わせ、首をメトロノームのように揺らす 初音――だったが、千鶴の手が自分の臍の辺りに差し掛かったとき、「あ…」 と急に深刻そうな顔になった。 「おねーちゃん」 「ん? どうしたの、初音」 手を休めずに、顔を上げて聴く千鶴。 「おしっこ…」 「え!?」 千鶴の手が止まった。 彼女の顔が引きつると同時に、「ぷしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」と初音の腿 の間から暖かい水が噴き出し、千鶴の顔に吹きかかる。 「きっ! きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 突然の出来事に慌てふためく千鶴。 一方の初音はというと、特に悪びれた様子もなく、「えへへぇ」と無邪気に 笑っていた。 「あははは!」 湯舟の縁にもたれ掛かったまま梓が笑う――が、自分の横にいる楓が笑 いもせず、真面目な顔になっているのに気付き、「楓?」と彼女は妹の顔を 覗き込んだ。 「……」 楓は、まるでなにかに集中しているかのように身動き一つしなかった。 まなじりを決し、口を真一文字に結んでいた。 「お、おい楓?」 のぼせたのか? と梓が思った瞬間、楓の表情が「ほぅ」と緩んだ。 「楓?」 梓が妹の表情の変化を理解できず首を傾げていると、湯舟のお湯の中に 「ぷかり、ぷかり」と細長い物が何個か浮かんできた。 「なんだ? これ…」 浮かんできた物の一つを、掌ですくい上げる梓。 その双眸が驚愕に見開かれる。 「っ!?」 それは細長く、柔らかく、茶色で、仄かに暖かかった。 それは正に(ピー)だった――。 「んきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」 "twelve years later..." それぞれの家で夕餉の支度が始まる頃、ここ柏木家では、四姉妹が仲良 く一緒に入浴していた。 子供の頃はあんなに広く感じた風呂場も、今では四人一緒だとさすがに 狭い。 洗い場では初音と千鶴がお互いに身体を洗いあい、湯舟の中では梓と楓 がお湯に浸りながらくつろいでいた。 何処かほのぼのとした四姉妹の入浴風景。 きっと、この姉妹達は何年経っても仲が良いままなのだろう。 その時不意に、湯舟の縁にもたれ掛かって、初音と千鶴の洗い合う姿をボ ンヤリと眺めていた梓が「ぷっ!」と吹き出した。 「梓?」 「梓姉さん…」 「梓お姉ちゃん?」 残りの三人が不思議そうな顔で梓を見る。 梓は、たくさんの思い出が詰まったアルバムを見るような感じで目を細める と、血を分けた姉妹達に向かって静かに話し始めた。 「そう言えばさ、昔……」 |