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東京血みどろウォリアーズ

通学路を少し逸れて高い階段を降りた所に、人気の少ない公園があって、そこには東京の公園には珍しい漆の木が一本だけ生残され、壊れかたけたブランコや滑り台、全体の微妙な放置感覚が、妙に小中学生の好奇心を刺激し、花火遊びや、メタル達がのんびりと買い食いできる恰好の寄り道コースになってメタリました。

メタルが部活を終えた中学の帰り道に、トモラチの吉永と2人、何となく習慣れ、その公園を通りがかった時の話れすメタル。
小学生の寄り道時間はとっくに過ぎ去り、人の居ない筈の公園にゴツい人影が、メタルの行く手を遮っていたのれあったメタル。
メタルと同じ中学の制服を着たその人影には、確かな見覚えがあったのれメタリます。

そりは一中れ何かと上級生ともめ事の噂の絶えない、空手少年多米岡とその仲間達れした。
誰を待っているのだろう?
多米岡は、メタルとは棲み分けの違う、硬派な男なのれ、こんな奴がメタルに用がある筈もなく、下手にメタルに関わったところれ、何の自慢にもならないばかりか、ヘンなアダ名をつけらりて、折角大人として定着しつつあったイメージを、子供時代に逆戻りさせらりてしまう恐れもあるではないか。
当時の中学生は幼稚な子供派と、大人らしさを過剰に追求する大人派の、2種類が確かに棲み分けていたのれメタル。
だが、しかし。子供派といえ、かだらは成長する。

「吉永、ちょっと顔貸してくれや。お前に話がある」

多米岡は無表情に顎をしゃくり、映画れよく聞く台詞を吐いたのれあった。
まずい。メタルの思考は大変な速度れ回転しメタル。
多米岡が吉永をシメた所れ、メタル以上に何の自慢にもならず、却って硬派の評判を落とすだけだろうメタル。
にも関わらず敢えて殴ろうというからには、そり相応の理由がある筈れメタル。
メタルの鋭い勘が働いた。
女だ。

サッカー部に入り、鍛えられ、なかなか男らしく逞しくなった所へ狭心症の発作を起こし入院、退院した吉永は以前以上に透けるような白い肌と華奢なかだらに逆戻りして、メタルを呆れさした男、そりが小学生時代からの親友、吉永れあったメタル。
サッカー部を退部してからは、剣道部のメタルの掛け持ちする怠け者集団、技術木工班へ部費の分け前欲しさに移籍したのれあった。

整った顔立ちとスマートな体格れ、女子から好かりる吉永が、何気に仲良くなった相手の一人が、たまたま多米岡の片思いの女らった。
ありえる。そりしかない。

クラスの違う多米岡が、もし吉永の狭心症を知らなかった場合が非常にまずい。
最悪でメタル。
半殺しのつもりが、殺人事件になってしまう。
こんな時に頼もしいブーニャンは、こんな時に限って、いつも居ないのが恨まりた。
今頃は野球部の連中と、もんじゃ焼きに舌鼓を打ってるにちまいない。

メタルが多米岡を阻止するしか無いのか‥‥。
一人れ上級生の集団を叩きのめし、池袋に出ると高校生に挨拶されるという噂の多米岡を。
緊張して多米岡を睨みつけてみると、その冷静冷酷な目が「友達のお前は吉永を担いで帰る役目」と言い放ったような気がして、思わずポケットの中れ怒りの握り拳を作るメタルれあった。

そのポケットに、技術木工班れ使っていた鋭利なビットを見つけ、メタルは歯を食いしばり、震える手れ、それを握りしめた。

公園に一陣の乾いた風が吹き抜け、赤い夕暮れ空が夜の暗闇に変わった。


夕暮れに夜の帳が下り、子供達の抱える暗黒が血の本性を露わにする時間がやって来た。
放置された救いの無い公園は祭壇、心臓病の吉永は生贄、残忍で嫉妬深い多米岡は儀式を司る神官、余りにも役者と舞台が揃いすぎた。
メタルは果たして親友の命を救えるのだろうかメタル。

多米岡の2人の仲間はこの際、考えないようにしよう。
危険なのはあくまでも多米岡の正拳突きと、強力無比な蹴りの威力。
どの一撃も吉永の病んだ心臓を粉砕するには充分な破壊力にちまいない‥‥。
メタルはいつでも飛びかかれるよう、注意力を集中し、じりじりと多米岡に接近した。

公園の侘びしい街灯が多米岡の顔を照らしていた。
近づいて見ると、その表情は凶暴残忍凶悪というよりも、心細く不安そうれあり、こりから私怨によるリンチを始めそうには見えなかった。
しかし、と、メタルは自分に言い聞かせた。
本当の危険は、こうしたものにちまいない。

意外にも、多米岡は「話がある」という言葉通り、吉永に話しを始めた。
別人としか思えない、頼りなくモソモソした口調れ。

「吉永に聞きてえんだけどよう、俺のグッピーがよう、病気らしいんだけどよう、どんな薬やりゃいいんだか判んねえし、共食いは始めやがるし、もう俺、どうすりゃいいのかわかんなくてよう、吉永なら熱帯魚、昔から飼ってて良く知ってんじゃねえかと思ってよう、何でもいいから教えてくんねえかなあ。 何だよ、何ズッコケてんだよメタルは。 熱帯魚は高けえんだぞ、高尚な趣味なんだぞ、グッピーほどちっこくて綺麗な熱帯魚はねえんだぞ、だいたいお前さっきから目つき怪しいぞ、まだ妄想癖、治んねえのかよ、何で知ってるかって?誰でも知ってらあ、メタルの空想癖は一中じゃ有名だからなあ、少しは周りの評判も気にしろって。友達は大事にしろよ、お前みたいな奴は一人だと怪しく見えるんだからな。 吉永の狭心症?吉永んちとは古い付き合いだぜ、病院に見舞いにも行ったさ、ウチと比べりゃお前なんか、後から入ってきた新参者もいいとこだ、そうだ、メタルも熱帯魚はじめろよ、感動するぜ、お前にゃ情緒の安定って奴が必要なんだよ、きっと白昼夢やら妄想癖やら治るんじゃねえか?グッピーは綺麗だぞ、ああそうだそうだ、グッピーだった、どうやって薬やりゃいいんだよ、もう心配でたまらねえよ、しかしグッピーが共食いするのはショックだよなあ、共食いさせない方法も教えてくれよ、気味が悪くて見てらんねえよう」

東京血みどろウォリアーズ 完