那須岳

2003年11月25日(火)〜26日>(水)
メンバー:L宮内、金田

〜行動記録〜
週末になかなか休みを取れない境遇を宮内さんにはからって頂き、今回平日に那須岳に行けることとなった。今の時期に山に行くのは生まれて初めてで、軽アイゼンや厚手のフリース等の装備は、山田さんにお借りして、アドバイスを頂きながら準備を整えた。
 初日は雨で、駐車場に着いた時も冷たい雨がしとしと降っていた。雨の中に出ていくのは少し憂鬱なのだが、いざ濡れてしまうと雨も良いもので、日常では味わえない開放感が心地良かった。峰の茶屋までの登りは緩やかで、私に合わせてゆっくりペースを作って頂いた配慮もあり、あっという間の行程だった。久しぶりの山歩きの緊張も少しずつほぐれていった。
 風が強ければ断念するかも知れないとのことだった茶臼岳にも登ることが出来た。展望はないものの、私達の他には誰もおらず、静かだった。茶臼岳は岩がごつごつしていて、夏に行った穂高を思い出しながら歩いた。
 峰の茶屋の小屋で雨風を避けて昼食を摂った後、樹林をくぐって三斗小屋温泉へ向かった。雨に濡れてすっかり冷えた中、「温泉」という温かい、魅惑的な響きに誘われるように歩いた。山行の時は決まって「もし、体力が尽きて歩けなくなったらどうしよう・・・」という心配が頭から離れないものだが、今回はそんな緊張から開放されて、落ち着いた気持ちで歩けることを嬉しく思った。
 煙草屋に到着すると、宿の方が栃木らしい独特のイントネーションで温かく迎えて下さった。人の気配にほっとした。おかみさんは、大自然の中で暮らせるから、という理由で、今は亡きご主人の顔も見ないまま結婚を決め、以来ずっと煙草屋を守ってきたそうだ。妊娠中も大きなお腹を抱えて登ってきたとのこと。ただただ、すごいなと敬服の思いだった。この会に入ってテントの味を覚えて以来、私はテントの暮らしが大好きになったが、小屋泊まりも負けず劣らず素敵だった。ストーブの蒸気に和み、布団では心置きなく寝返り打って、トイレの後に手を洗えて(しかもお湯!)、食事が出来ると太鼓で知らせてもらって・・・贅沢してるなぁと感謝した。極めつけは温泉で、露天風呂に長湯してお湯を堪能し、心身共に浄化され、3年は寿命が延びたと思った。

翌日は、朝食ぎりぎりまで寝呆けて、朝風呂まで入ったりして、ゆったりとした時間の流れをかみ締めながら二日目が始まった。分刻みで働く日常とは比べ物にならない位、優雅な時間の使い方だ。
ゆっくり荷をまとめて、三本槍岳へ向けて出発した。天気は快晴、空は青く高く、空気は冷たいが凛として清々しくて、私はそれが嬉しくてついにやにやしてしまった。大きな霜柱を踏みつけたのも久しぶりだった。途中の木々に真っ白に霜が降りたようになっていて、それはそれは美しく、幻想的だった。霧氷というのだと後になって教わった。宮内さんは松についた霧氷が、海老の尻尾に見えると言っていた。豊かな発想に楽しくなった。名残惜しく霧氷を後にすると、今度は道が一帯凍結していて、頭だけは打たないように祈りながら恐る恐る進んだ。私が一度しか転ばずに済んだのは奇跡的だった。必死の私を尻目に、宮内さんは楽しんでいたらしい。氷から解放されると三本槍岳は比較的すぐだった。さすがに風があって寒いが、陽射しは温かだった。昨日の雨が、太陽の素晴らしさを余計に感じさせてくれる。
朝日岳へ向かう途中、風を避けられる岩の陰で昼食を摂った。宮内さんのザックは玉手箱のようで、フライパンや餃子の皮等色々出てきた。豚汁と、大根やツナの入った餃子を作って美味しく頂いた。まさか那須岳で餃子を作れるなんて思わなかった。朝日岳へはすぐだった。東西南北もままならないので、どこに何が見えるのか分からないのだが、岩肌や断崖の迫力や、空の高さをただ味わった。那須岳の主要な3つの山を登りきれて、充実した思いと、安心と、淋しさと、色んな気持ちが混在していた。頂上を後にするのが惜しかった。
後は下りだから大丈夫とは言われたものの、鎖場があったり岩場だったりして、緊張が続いた。二日目は私が前を歩いていたが、どの道を選ぶか、判断の連続で目が回りそうだった。間違えたり後ずさりしたりで、あー、人生と同じだなあと思った。なんとか無事に駐車場まで歩き通せて、満ち足りた思いで終了した。
帰りの車では、山での歩き方やペースの作り方、地形図などなど、今回の山行も振り返りながら宮内さんにご教授頂いた。奥深い登山の科学に触れる度、もっと知りたい、もっと色んなことを吸収したいとわくわくする。山でより楽しく、そして安全に過ごすための方法をこれからも勉強していきたいと思った。

(記 金田)

〜行動時間〜
25日
駐車場9:00−峰の茶屋9:40〜50−茶臼岳往復―峰の茶屋10:50〜12:50
−三斗小屋温泉煙草屋13:50

26日
煙草屋8:20−隠居倉9:08〜20―三本槍岳11:03〜10−能見曽根付近12:20〜13:40
−駐車場15:20