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つくづくやなタイトルだなぁ


御霊、帰りて恵み降る


  8月の13日は迎え盆で、例年通り提灯を持っててくてくと墓へ歩いて行った。
  墓の近いのはそもそも田舎に住んでいる者の特権で、なにも電車や飛行機に乗らなくとも草鞋で行ける。(色とりどりの余り紐で編まれた草鞋で歩いてみたのである)
  三々五々、祖霊迎えから返ってくるご近所と挨拶を交わしてジジババを提灯に迎えてくるが、近頃は手抜きをして墓前まで行かず、墓地の下の坂で迎えを済ませてしまう。ジジババ(の霊)には、坂の下まで自分で来てネ、というセルフサービス体制なのである。
  しかし同じ手抜きでもこれはまだマシな方で、ひどいのになると車で墓地の下まで乗りつけ、助手席に乗ったまま提灯に火を灯して即座にユーターン、1分もかからずに迎え盆を済ませてしまうという強者がいるのだから世の中というものは油断がならない。あれでは迎えに来られた方もアクロバット並の提灯乗りをやらかさなければとても帰れたものではない。近頃では、先祖の霊も楽では済まないのだ。体力と反射神経が要る。
  盆とはいえ酷暑の中を出歩くのは健康に悪そうだから、いつもの通り親戚が来て線香を上げ、こちらも線香を上げに行ってはビールを空にして帰る田舎の盆を一通りこなすと、あとはひたすら眠っていた。なにしろ居ても立っても寝ても大粒の汗をかくのだからたまらない。他は知らないが、この辺りは近頃ひたすら雨が降らないので、ニンゲンもぐったりなら野菜もぐったりで死にかけている。農家の話題といえば、どこの家でも雨が降らないから今年はダメだ、の一点張りで、かくいう我が家の小さな畑の茄子達も、水を撒くくらいでは焼け石に水でひたすら小粒に育っている。
  わたしは半年ぶりに会った甥っ子達と花火で遊べて大満足のお盆であったが、話題といえばやっぱり雨が降らなくて、でそこらの農家と大差ない。庭のトマトも死にそうなのだ。
  雨が降らないかねぇ、と愚痴る声は線香の立ち上る仏壇の前でもかまびすしかったのだが、祖霊を送った翌朝には空がうっすら翳り、ぽつり、ぽつり、と降り出した天気雨がやがて大粒になって乾ききった畑に降り注いだ。
  これはきっと、愚痴を聞いたジジババの霊が雨の恵みをくれたのに違いない、と思うと嬉しくて、雨の中を少し庭に出てみたりした。夜になっても雨は続々と降り続け、乾燥しきった隣の畑も、ウチの畑も、しっとりと薄く濡れている。庭に出てみると、蝉の幼虫は思わぬところで羽化を終えたらしく、抜け殻だけが紫陽花の葉の裏に残されていた。蝉の声はするが、暑くなく、空気も乾いていない。蚊の飛び回る羽音だけが夏らしいような、Tシャツ一枚では薄ら寒い曇り空である。
  ここ一月ばかりも続いた太陽ぎらぎらの酷暑に心底火照っていた身にも、ジジババの恵みの雨は飢えていた潤いをくれて、川の畔にいるような水気が心地良く、爛れるほど暑かったのが嘘のよう。ありがたく、溜まっていた所用を済ませて一息つけた。
  この静けさが一時のものなのか、それとももう、酷く暑い夏が死に、初秋がずいずいとお出ましになったのかはなんともいえないけれど、久方ぶりに、たくさんのものがハレからケに戻ってきたような、そんな静けさにほこっと灰色になっている。

(2008/08/17)



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