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つくづくやなタイトルだなぁ


さらば親不知


  1.親不知ですネ、末期です。  2005年6月6日

  ある日のことである。
  歯の奥に、奇妙な感覚があった。
  虫歯が、これから痛み出すような、歯が抜けそうなような、浮ついたような、ヘンな感じだ。
  即座に、「これは虫歯の予兆では」と思った。痛み出したら叶わない。これは早速歯医者に行くのが吉と亀卜にも出たから、早速、夜遅くまで開いているありがたい歯医者サンへ駆け込んで、かくかくしかじかと直訴してみた。
  歯医者サンはさんざんまずい歯並びを眺め回した末に、う〜ん、虫歯も無いですし、抜けかかってる歯もないですネェ、ちょっとレントゲン撮ってみましょ、てなもんで不可思議な御様子である。ところがレントゲンを撮ってみると、晴れやかな顔で説明を始めた。
  これですねぇ、これが原因でしょうねぇ、この奥のところにですねぇ、と見せてくれたレントゲン写真には、左(向かって右)の奥に、どでーん、と寝そべって、下へ向かって潜り込んでいる巨大な親不知が映っていた。
  奥歯よりでかい、良く育ったデッカイ親不知である。
  ただし、下顎の骨に向かってすくすくと伸びている。
  これが、奥歯の根っこにギュウギュウとアタマをめり込ませているのだった!
  奥歯の根っこは。斜め下向きに伸びる親知らずのアタマに押されて、ぐにゃりと変形していた。
  どうも私の歯並びはメチャクチャだ、とは以前から思っていたけれど、この親不知にグイグイ押されて、成長途中の歯が横へ飛び出して伸びきっていたり、右へ左へ歪んでいたりと、それは凄まじい惨状を呈していたものらしい。親不知に押されて、奥歯の根っこは、まるで満員電車でぐにゃりと「く」の字に押されたまま身動きが取れなくなったサラリーマンの如くに曲がって耐えている。
  これはヒドイ。
  歯医者サンは、これは痛みがあるだろうし、歯が抜けそうな感じがするのもわかりますよねぇ、と同情してくれたが、しかし同時に、この歯は抜くのがヤバ過ぎて、ウチでは抜けません、とも宣言なさった。
  この親不知は先端が顎の骨に近すぎて、すべての歯の神経の大本になる神経のすぐ上に位置しており、これを抜くことは神経を傷つけることになりかねない。専門の大学病院でなくてはとても無理だろう、とおっしゃる。
  ・・・大学病院?
  大学病院ですくわ?  親不知で?
  田舎モンには、大学病院などというものは縁遠い世界である。都会に勤めに来ているクセに、大学病院というのは都会の話だから関係ない、などと思っていたりする(実際、田舎にいる限りは、それは関係ない話であるし、大学病院を紹介するような酔狂な医者は田舎にはいない)。
  ところが、抜くのが困難な親不知を大学病院で抜くというのは、珍しいコトではないんだそうである。親不知は治療が難しい歯で、一歩間違うと非常に危険なのだそうだ。どこで訊いてもおそらく大学病院を薦められますよ、とて御茶ノ水の東京医科歯科大学宛てに紹介状を書いてくれたので、歯も痛い、というか浮ついた奇妙な感じに困ってもいるし、せっかくだから紹介状を携えて行ってみることにした。

  2.水漏れだ〜っ!  2005年06月16日


  御茶ノ水の駅へは実は何度も来ている。田舎モンのくせに神田明神に初詣をするので、都合がよいのである。いつもは聖橋の方へ降りて、テクテクと湯島聖堂の脇を歩いてゆくのだが、今日はお医者サンであるから、御茶ノ水橋の方へ向かってテクテクとホームを歩き、御茶ノ水橋口から橋を渡ってみた。
  橋を渡りきると、なんのことはない、目の前にどーんと東京医科歯科大学がそびえている。
  いくらか迷って入り口をくぐると、右手に新患受付があって、娘さん達が座っている。そのなかに、今まで一度も見たことが無いような 綺麗な娘さんがいて、心臓が止まるほど驚いた。
  スゴイな東京医科歯科大学(←意味が違うやろ>俺)。
  中年の分際でドキドキしながら紹介状を渡すと、口腔外科の階にあがるように云われたので、ホールを横切ってエレベータに乗ってみる。廊下を歩いてゆくと、なにか天井に、玩具のプラレールのようなミニサイズの金属レールが埋め込まれていて、モノレールのようにぶら下がったコンテナが、がったこん、ごー、と各部屋を行き交っていた。
  その辺のヒトをとっ捕まえて「アレはナンですくわ?」とよほど訊きたかったのだがなんとなく我慢して、じっと待つこと十数分。
  横に長〜い診察室に呼ばれてゆくと、若いひょろりとした歯医者サンがえらい高い位置にある頭をひょこんと下げて挨拶し、少しく話した後にレントゲンを撮ってくださいな、とおっしゃる。レントゲン写真というのはやり取りのできないものなんだそうで、各医院で保管するものだから前回撮った写真は手元にナイのだそうだ。
  今度は地下に降りて、なんだか、アメリカのSF映画でアーノルド・シュワルツネッガー氏がアタマの周りをぐるぐると巡らせて顔を変えていたような奇妙な装置にそっくりなレントゲン写真機に座らされ、ふぃーん、とアタマの周りを巡られてしまった。
  なんだかオカシくなって、噴出しそうになってしまった。(緊張すると笑い出すタチなのである)
  歯医者サンはレントゲン写真を眺めるなり、開口一番苦笑して
「う〜〜ん、こ〜れは・・・キビシイですねぇ(笑)」
  と笑顔である。笑うな。
  ヤッパリこの親不知は抜くのが相当に難しい位置にあるのだそうで、この親不知が、歯の抜けそうなような、痛み出すような感覚の原因であるとは断定できないが、もし抜くならば、左の歯の神経が麻痺する可能性がありマス、とのお言葉である。よく見ると、親不知はまったく表に出ておらず、歯肉の中に完全に埋もれている上、斜め下に横倒しになった歯の一部があごの骨と癒着をはじめている。
  もし将来、この親不知や、そのグイグイ押している奥歯の根っこが病気になった場合、この癒着がさらに進んだ段階で抜くのは一層危険であろうから、抜くなら今抜くのがいいかもしれない、と云う。
  抜くなら今だが、殴られてもわからないくらいの、強い麻痺が残る可能性はある、とくどいほど説明された。舌を巻き込んだ口全体の麻痺ではなく、歯の感覚の、左側だけの麻痺である。麻痺が少ない可能性もあるが、やってみないとワカラナイ、んだそうだ。抜いたら抜いたで、親不知の下部が長い間に下顎と癒着してしまっていて、顎の一部を形成してしまっているので、これを抜くと、下顎の骨が片側だけ細くなってしまうことにもなり、2年ほどは左の下顎が弱くなってしまうので気をつけなければならない。2年もあれば再生するのだそうだけど・・・。
  (ちょろちょろちょろちょろ)
  う〜〜〜ん。麻痺ですか。麻痺。神経が麻痺する。
  歯をコツコツと叩いても感覚がないくらいの麻痺、とおっしゃるから、まぁそれくらいなら、と思わぬでもないが、どうせなら麻痺は無いほうがよい。抜くのなら、麻痺が残る可能性を受諾する同意書を一筆書いてくださいネ、てな怖い話を交わしていたら

  天井から水漏れがっ!

  ちょろちょろろ、と音がするので何かな?  とは思っていたが、ふと気がつくとウナギの寝床のような長い診察室の向こうで、じゃばー、と天井から滝が落ちている。
  全員、凝固である。マダム・タッソーの蝋人形館に展示されている人形のような状態で固まることしばし。
  あら?  あららら?
  とてパニックが起こるのに一分もかからなかった。
  水漏れはドンドンと範囲を広げてゆく。
  逃げる患者に、逃げる医者。あわてて書類をかき集める者、半口あけてまだ固まっている者、その脇を走り抜けて救助に向かうたくましい看護婦さん達、うろたえる男性医師達、と映画の場面より面白い(失礼)一幕が終わると、診察室は壊滅していた。
  みんなで驚いている間に、診察室は床から診療機器からなにから、水浸しである。微妙な刺激臭も少し。ただの水がこぼれてきたわけではないらしい。
  患者は廊下に締め出され、医師と看護婦達は戦場の兵士のごとく走り回り、階上からは保安要員のような制服をつけたおっさん達が、階下からは作業服を着た整備員のようなおっさん達が駆けつけてくる。
  ナンにもできない。大急ぎで逃げることもなさそうだが、手伝えることもなさそうだ。
  私はそっと廊下を抜け出して喫煙所まで行き、タバコを一服する。
  戻ってくると、びしょ濡れの廊下にあふれた患者達の間を医師達が巡回していた。スゴイのになると廊下に立った患者の口を開けさせて診察を続行している強者までいる。
  あっぱれ東京医科歯科大学。建物はともかく。
  私の担当医師はというと、とっさに抱えていたノートパソコンをまだ持っていて、私を見つけるなり書類を取りに云ってレントゲン写真を引っ張り出し、というわけなんですがどーしますか、とやっぱり診察を続けた。見事である。ただ、今日はもう診察が続行不能なので、また連絡を入れるから、そのときまでに考えといてネ、と云う。
  う〜〜ん。
  とりあえず痛み止めを出してくれる、ということだったのでフロアで会計を待ちながら悩んだ。
  麻痺が残る危険のある、しかもやっかいな手術が要るらしい。しかして歯はヘンな感じである。
  いずれ抜かなくてはならない病気が起きたとき、高齢では難しい手術。麻痺が残るのはコワイが、といって一生このままヘンな感じを奥歯に抱えて生きてゆくのもイヤだ。
  レントゲン写真に映っていた、歯肉に埋まった地下の親不知を思い出してみた。
  奥歯を歪ませ、その前の歯も、その前の歯もグイグイと押し込んで歪ませながら、顎の骨に向かって発達している、骨と癒着しかかった親不知。
  ・・・・・・。
  だんだん腹が立ってきた。よーするに、この親不知は、噛み合わせの役にはまったく立っていないどころか、歯並びと歯の発達、つまりは噛み合わせの邪魔にしかなっていないんジャンかっ!
  歯の噛み合わせは健康の要である、と聴いたことがある。だがこの親不知が下向きにグイグイと押している限り、噛み合わせが良くなろうはずはないんじゃないのか。いやそれ以前に、コイツのせいで、私の歯は健康に成長することができずに、長い間押し込められ、歪んだ形でやっと生き延びるほかは無かったんじゃないのか。まったく物を噛む役に立っていないのはもちろん、歯がうまく物を噛むのを阻害している親不知。親不知どころか、本人すら知らない歯である。しかも邪魔。
  翌日、仕事の合間に電話をかけた私は、抜いてくださいナ、と東京医科歯科大学の歯医者サンに頼んだ。
  麻痺なんか残ってもイイ。このクサレ親不知をぶっこ抜いてくれ。何十年も、形が歪むほど発達を邪魔され続けてきた奥歯達を救うために。
  かくして、私はたかだか親不知のために、大学病院などという、田舎モンには場違いな場所で少々危険な手術に臨むことになった。

  3.死ぬかと思いました  2005年7月6日


  一度診察を受けなおし、謎の新型レントゲン写真を(緊張のあまり笑ってしまうので)苦労して撮ってから、時を置いてついに手術の日がやってきた。
  麻痺が残るのがなんぼのもんじゃい、という勢いであるから問題はないが、
  ちょっとコワイ。
  てなもんで再び御茶ノ水へ。新患受付のこの世で一度も見たことがないような 綺麗な娘サンの前を素通りしてまっすぐ診察室へ。
  行ってみるとヒトがいっぱい。朝早くなのに混んでいるもんなんだネェ。
  さっそく呼ばれてゆくと、手術室へ行くのかと思いきや、診察室の治療台の上でフツーに手術が始まった。指示通り、抗生物質も嚥下済みである。
  AllReady。いつでもどーぞ〜。
  したら機械の調子が悪いとかで、いきなり治療台を変更。ノリがいまいち。
  ンガッと口を開けて、ストッパーで固定され、手術を開始してみると、なんでも私は口内が敏感で、ちょっと器具を奥に入れるだけで嘔吐の動きが現れる「嘔吐反射」と呼ばれる反応が激しい性質ナンだそうで、強力な麻酔薬をぶち込まれることに。
  クチがへろへろ。
  歯医者サンが4人がかりで(なんでやねん)あーでもない、こーでもない、と器具をとっかえひっかえの大手術が開始された。麻酔ががっちり効いているから痛みはないが、普段ほとんど口を開けない人間がンガッと口を開けたまま固定されているのだから割ときつい。そのうえ嘔吐反射でオエッとなりやすいので、手術は難航した>って俺のせいじゃねーか。医者も患者もどっちもタイヘンである。あまりに嘔吐反射が起きるので、歯医者サンは
「はい、おハナでゆっくり息してくださいねー」
  と何度も声をかけるのだったが、息をしているうちに重大なことに気がついた。自覚は無かったが、どうも風邪気味だったらしい。

  ハナがつまっている(爆笑)

  イヤ笑ってる場合じゃない。あの、息できないんですけど。しかしクチは開けっ放しだ。手術はすでに始まっている。いまさら止めてもらいたくもない。歯肉も切開しちゃった後だし。
「はい、おハナでゆっくり息してくださいねー」
  すー(できない)。
「はい、おハナでゆっくり息してくださいねー」
  すー(できない)。
「はい、おハナでゆっくり息してくださいねー」
  す・・・・・
  こ、呼吸ができない(爆)  すいません死にます。酸素が入ってコナイ。
  しかしすでに歯の切断も終了している(歯肉を切開し、埋まっている横倒しの親不知を切断して、半分ずつ取り出す手術なのである)。歯医者サンはゴリッ、グリッと切断した歯を抜きにかかっている。
「う〜ん、抜けないなぁコレ・・・あ、まだ切れてないや(ンギョ〜〜ン)」
  ゴリッ、ガッ、ガッ、ゴッ。
「ちっくしょ〜。硬い歯だな〜。エイッ」
  ゴガリッ
「・・・・・(涙目)」
  イ、イキが・・・。あかん。もう死ぬ、酸素が、とて気が遠くなりかけた頃、自然に手が上がって「イキをさせて〜〜(涙)」と訴えていた。
「だいじょうぶですか〜」
「ハァ、なんとか(ぜーはー)」あんまり大丈夫じゃないんだけど。
「それじゃぁもう一回」
    ゴリッ、ガッ、ガッ、ゴッ、ゴガリッ。
「・・・(イ、イキが)」
  再び気絶しかけた頃に、ようやく手術が終わると、およそ1時間半が経っていた。
「タイヘンでしたねぇ」
「・・・(ゼーハー、ゼーハー)」
「すこし休んでてくださいねー」
「・・・ハイ(ゼーハー、ゼーハー)」
  休んでいると、呼吸ができる、という安心感に全身の力が抜けていくのがわかった。どっとイヤな汗をかいている。一生懸命イキをしてみた。まるで42.195kmをを走り終えたマラソンランナーのようである。
  ゼー、ハーとイキをしていると、なぜかだんだん手が痺れてきた。
  ・・・・?
  手の先に痺れがある。スイマセン、とて歯医者サンを呼んで症状を訴えると、ばたばたと歯科医師達がやってきて、診断の末に
「過呼吸症候群ですねー。ゆっくりとイキをしてください。ゆっくりと。脳に酸素が行き渡りすぎていますから、ちゃんとイキを吐いて、はい、ゆーっくり吸ってくださーい」
  というわけで呼吸をスローペースにしたら、すぐに手の痺れは取れた。
  なんでも緊張しすぎた場合に、焦って息を吸いすぎて酸素が多すぎる状態になることがあるのだそうである。そうなると手足の痺れが始まり、ひどいときには気分が悪くなって倒れることもあるのだそうだ。手術中にうまくイキができなかった恐怖心から、過剰にイキを吸いすぎてしまったらしい。少し横になりますかー、とのお言葉をいただいたので、ありがたく横にならせてもらうことにして、診察室の後ろに据え付けられたベッドでぐったりと寝てみた。20分も寝ていると具合がよくなったので、術後の注意点をしおしおと聞く。歯の感覚はどうですか、と訊かれたので頬の上から触ってみたが、別段普通に感覚がある。触ったのがわかるし、若干麻酔でヘロっているとはいえ、舌の先で押してみると歯茎に感覚がある。
  そういうと、歯医者サンはさも安心したように大丈夫そうですね、抜いたときに、神経が見えませんでしたから、これは傷ついていないのではと思っていましたがとうれしいことをおっしゃる。麻痺が残らなかったなら、あの苦しい手術も大成功と云える。ありがとう歯医者サン。ありがとう東京医科歯科大学、てなもんで礼を述べてみた。半分ヘロっているのでいまひとつ歯切れに欠ける点が残念だ。
  抜いた歯をもらってみたが、それはたいへん立派な臼歯で、もしも下向きに曲がって生えず、上を向いて伸びていたなら、どれほど立派な役に立ったろう、と思えるほどのしっかりした歯だった。三つ四つに割れ砕けたその姿はしかし、どの歯よりも、健康的にしっかりと美しい。
  ・・・思えば不憫なヤツ。とはいえおまいがヘンな伸び方をしたおかげで、他の歯の蒙った犠牲たるや計り知れない。もはや俺の歯ではなくなったけれど、スットコドッコイにさんざん伸びくさりやがった代価を払ったと思いやがれ。まるでさんざん遊びほうけた報いを払う遊び人のよーな歯である。
  歯の入ったビニールパックをセカンドバックにそっと忍ばせ、お薬をもらうべく会計を済ませにフロアに下りる頃には、麻酔が切れはじめた。
  イタイ。かなりイタイ。とはいえ、会計を済ませないとお薬は出してもらえない。じっと我慢で座っていること小1時間。ようやっと出してもらった薬を指示通りにさっそく2階の歯磨きコーナーでごくんと嚥下し、待つこと20分。
  薬のおかげで少しは鈍くなった痛みに耐えつつ、御茶ノ水橋を渡ってゆくと、なんだかかすかに、開放された奥歯達のさらに奥から、ふわふわした力が浮かび上がってくるような、そしてそれが全身を軽く浮き立たせているかのような、不思議な気分が沸き起こってきた。
  それが気のせいなのは当然としても、それはまるで、天使達が吹き鳴らす勝利の喇叭のように聴こえてしかたがなかった。憎き親不知への恨みは、案外に深かったらしい。   その開放感と引き換えに、だんだんとうずき始める痛みと、腫れ始めるのが手に取るようにわかるヘンなカオを抱えて私は御茶ノ水橋を渡り、そっと電車に乗った。

                                        

  4.さらば親不知


  親不知を抜いたら、顔面が腫れますよ、とは聞いていたが、これがもう、本当に腫れた。
  薬のおかげで痛みは少ないものの、奥歯付近の筋肉の腫れたるや、それはそれはスゴイもので、鏡を見ると顔の半分が「別人?」と思うほど様変わりしている。もともとやせ細った顔をしているから、肉がついて普通になった、といえばそのとおりなのだが、片側だけなのでとてもヘンだ。とがった顎が、片側だけ四角い顎に変わり果てている。横を向くと、まるで整形手術をしたか、念願かなって太ったかのような変貌ぶりである。
  時折、とってもイタイ。まぁ手術直後に文句を云っても始まらない。
  しかしモノがまともに食えないのには参った。いくら薬が利いているとはいえ、モノを噛めばそりゃあイタイ。術後の歯はもちろん、反対側でだって、力を入れればイタイのだから、バクバクというわけにも行かない。おかゆだの、簡単な肉料理だのをほおばって、片側だけでゆっくりと噛んで過ごした。
  次の日、消毒に行くと、案外に腫れていませんね、と意外なことを言われてしまった。ヒトによってはもっと多大に、二目と見られぬほど腫れるケースもあるのだそうだ。私のは、人相が変わったとはいえ、まだ軽いほうらしい。
  一週間もすると、晴れはすっかり退いた。抜糸をして、傷跡もキレイにふさがったのを確認してもらう。存外良好な経過である。麻痺もないし、治りも早く、影響も小さかった。らっきぃ池田であろう。麻痺がはっきり残って、叩いてもモノを噛んでも感触が無く、外へ出られぬほどカオが腫れて、痛みがとれずに涙ぐんで過ごしていたかも知れないのだ。僥倖僥倖。とりあえず神仏に感謝しておく他はない。ありがとうございました。でもって、順番が逆だが、最初に診察してくれて、大学病院の紹介という適切な処置をしてくれた歯医者サンと、東京医科歯科大学の全スタッフ(新患受付のこの世で一度も見たことがないような 娘さんとか>違うだろ>俺)にも礼を言わねばならない。どうもありがとうございました。お世話になりやした。
  てなもんで左(向かって右)の親不知は無事ぶっこ抜けたが、レントゲン写真にはもうひとつ、右(向かって左)の最奥部にも、ごろん、と水平になった大きな親不知がくっきりと映っていたのを私は忘れていない。歯医者サンも、「むしろこっちの方が悪影響のありそうな親不知デス」と断言していたことだし。
  次は、おまいだ。しばらくは抜けないが、ちょっと悪いところを指摘された歯を治し、親不知の抜けた跡の大きな穴が肉で埋まり、癒着していた一部を引き剥がされた顎の骨がなんとか再生したら、抜いてやるから覚悟したまい。
  というわけで、親不知との戦いはまだ続くのだった。
  取り戻せ健康な歯。無理のかかった歯並びを救うのだ。
  行け!  国際○助隊!  負けるな!  国際救○隊!
  違った東京医科歯科大学だった。



それにしても面白かった(笑)(2005/08/16)


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all Text written by @ Kaikou. "Hirohumi Kinoshita"