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つくづくやなタイトルだなぁ


田の水


  4月の中旬を過ぎると、川の水が増水する。
  それまでは川底の左右が見えているような水量だったのが、岸辺に伸びていた草や花を水没させて一夜にして満ちる。
  上流の堰が開かれるのだ。
  それに合わせて事前に田は土起こしがされ、縁を固められて水入れの準備を済ませる。
  一気に増水した川の水は順番にポンプで汲み上げられて、用水路に配水されて田を満たし、余った分は再び川へ戻ってゆく。
  すべてが一斉にではなく、順番に、水田の素ができてゆく。
  そうして各地区ごとに、次々と田が土起こしされ、ポンプが動き、田が水で満ちてゆく。
  用水路の底の緑は水に沈み、数日を経ずして枯れてゆく。
  春の田舎の恒例行事である。この時期になるとトラクターが唸り、各地の道路を忙しく往復するようになる。場所によっては昼夜を問わずにトラクターを動かす田もある。
  家の周りがちょうど今そんなところだ。
  急に水でいっぱいになった川は秋冬の間に見慣れていた景色とは大いに異なるので、しばらくは不思議な景色を見ている心持ちになる。
  突然きれいに掘り起こされた田も秋冬を過ごしてきた目には見慣れない。見慣れた景色ががらりと変わって、田舎は色づく準備をし始める。
  水鏡が並び、やがて、緑色の海になるのだ。
  今はまだその前の静かな時期だ。ひっそりと生命が準備されている。
  土起こしされた田には鳥が寄ってきて、掘り起こされた虫たちをがむしゃらに食べ漁っているが、やがて、水が入ると今度は水鳥がやって来て立っているようになる。
  鴨などはすいすいと泳ぐだろう。そして風のない日には、田は水鏡となって空を映すようになるだろう。
  それはとても美しい光景だ。
  春の田の静かなる芸術だ。ひっそりと冷たく輝く、そして暖かく陽射しを返す、水と生命の作る芸術品が出来上がるのだ
  農村の密かな楽しみというものである。

(2016/04/29)



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