by @Kaikou.          カウンターです  

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つくづくやなタイトルだなぁ


ちゃ〜る♪


  め〜えぇえら♪
  と、いう例の音が聞こえてきたのは、会社を出たある夜のことであった。
  おぅ、こんなトコにもチャルメラが、と思ってしばらく耳を傾けていると、奇妙なことに気がついた。
  遅い。
  移動速度が異様に遅い。まるで・・・
  人が徒歩で移動しているような、そんな速度である。チャルメラといえば、軽トラックでやってきて発泡スチロールの丼にラーメンを入れ、客に渡したままサッサと行ってしまう失礼な移動屋台しか知らなかった田舎モンの管理人は不思議に思った。
  もしかして、これは人が屋台を引っ張っていますか?
  いわゆるアレですか?  モノホンの屋台ですか?  軽トラックじゃなくて。
  思うと同時に、駅へ向かうはずの足がスタスタとチャルメラを追いかけはじめていた。この目で見ないことには気が済まない。そしてもしも人が引く屋台の、つまり本物のチャルメラであったなら・・・。
  程よく小腹も減っている。ここはひとつ、喰うでショ!
と思って追いかけてみたらば、これが意外に追い付かない。なんかどんどん遠くなってゆく。
  む。人力のくせにやるなラーメン屋。
  ってんでツカツカツカツカ、靴音高く人の少ない裏通りを追いかけること1分。
  いた!

人力車だ!

  本物ダ!  屋台のラーメン屋ダ!
  うひょ〜〜っ!
  無駄に興奮しながらゼーハーと息荒く追い付き(←中年)、なにか非常にやる気なさそうに木製の車を引っ張っているオッチャンに
「ねぇ、これって丼渡したらそのまま行っちゃうの!?」
  といきなり話しかけてみた(←無礼者)。
  オッチャンは「ハァ?」とて目を白黒させていたが、「頼んだらココ(路上)で喰わしてくれるの?」と聞いたらば「あぁ、いいですヨ」と答えるので一杯頼んだ。
  オッチャンはなにか意外そうに車を引く手を止めると、車体を傾けて停め(引手を路面に置いただけ)、屋台の後ろに回ると
  パカッパカッ。
  と屋台の左右を囲っていた短い板を横に倒した。
  調理台と、食事台の出現である。
  む。変形するとは知らなかった。きっと番組後半から出現した後期型に違いない、と意味不明な感慨を抱きつつ
「やー、こんなの初めて見たよ、田舎じゃさー」
  とて厚顔無恥な一面を発揮して図々しく話しかけ、金を数える不粋な時間を後に残さないよう先に代金を払い、さすがに椅子はなかったので立ったままほくほくと待つこと30秒。
  でん、と期待のチャルメラが(速っ)。
「へー、そんなにかかるんじゃ、仕事の帰りにはおなかすくでしょう」
「そーそー、だからついコンビニで唐揚げとか買ってねー」
  とか話しつつ(管理人は普段エライ無口だが、下町風の商売人を見ると平気でいきなりオッチャンオバチャン呼ばわりしてしまう癖があるのだ)
「ウマそ〜」
  とばかりに出来立てほくほくのラーメンをばすすってみた。普段は猫舌で、熱いものはからきし駄目なのだが、不思議なことにたまに喰うラーメンは熱くても平気。不思議不思議。丼も発泡スチロールじゃない、ちゃんと瀬戸物だ。
  ぞぞ〜、っとすするとこれが腹の減っているせいかウマい!
  ウマい。滅茶苦茶ウマい。生きてて良かった(←単純)。
  おっちゃんは食べ始まると屋台のそばに居場所を移し、煙草に火をつけてぷかり、ぷかりとやりはじめた。
  誰もいない路上に、ぼんやりと明かりを灯した屋台の前で管理人の声が妙に響く。
「ウメっ(←おいしい。ウマさのあまり訛っている。下総方言)」
  ずず、ずず、っとわずか3分で完食。ごっごっごっ、とスープを飲んで、ついた吐息の幸せよ。
「は〜〜〜〜っ」
  と喰い終わると、おっちゃんがぼそりと
「旨かった?」
  と訊いた。管理人は答えた。 「旨ぇ。こんなウマイもん喰ったことねぇ」
  おっちゃんがにやにやするのを横目で見ながら、
「ごっそさん」
  と一言置いて屋台を出た。
  ウマかった。
  腹の底に滲みてウマかった。
  夜の路上で、突っ立ったまますするチャルメラがこんなに旨いとはついぞ知らなかった。田舎に出没していた、あの軽トラックの「客置き去りラーメン屋」はチャルメラのテープこそ流していたものの、偽物だったのに違いない。
  煙草に火をつけ、煙の幸福に身を委ね、深く味わいつつ振り返ると、おっちゃんはもう屋台を引っ張って歩き出している。
  おっちゃんせんきゅう。
  一度、街の真ん中でチャルメラの屋台を呼び止めてみたかったのだ。それも表通りでは駄目だ。車が横を通過してゆくような場所では風情がない。裏通りでなくちゃ駄目だ。それも一人でなくてはならない。連れなんかいたら最悪だ。盛り場で喰うのはなお始末が悪い。人の少ない裏通りの、電灯の下がおあつらえである。
  幸いここは下町裏通り。人も車もほとんどいない。まさにベストなチャルメラ・チャンス。
  旨かった。
  この歳になって、21世紀の東京で、よもや木製人力車のチャルメラを裏通りで呼び止める幸せに恵まれようとは。
  管理人は幸せ者だ。ありがとうおっちゃん。愛想はないが旨かった!
  その晩、家路に向かう電車の中では、ほくほくと腹の底が暖かく、吊革につかまっているのも気にならないのでござんしたとサ。
  かくして会社の帰りに、ふとまたチャルメラの音を耳にすると、思わず知らず口元がほころぶようになった。今夜は喰おうか、帰ろうか。
  いずれ御縁の、下町風情にござんす。



お値段550円。そんなモンでしょ?(2005/04/24)

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all Text written by @ Kaikou. "Hirohumi Kinoshita"