なお、本稿に記載されている内容については、私は一切保証しませんし、それに伴って発生した如何なる事故にも責任は負いませんので、あらかじめ御了承ください。
当方が入手した個体は2004年07月29日製となっていた
このCX300は同世代のモデルの中では最もローエンドモデルですが、接続できるディスクの個数は60個(=接続できるKAEは3ユニット)で、内部のメモリ容量も1GBとなっていますので、どちらかというと旧モデルのCX400に近い仕様となっています。
CX400との違いは、1つのSPあたりのKAE接続用コネクタの数が「CX400では2つ搭載されていたのに、CX300では1つに減らされている」という部分です。
CX300では本体内部にディスクを15台まで搭載できますので、KAEを接続しない状態での運用も可能となっています。ですから、一般家庭のような多くのユーザーからの接続が発生しない環境では、設置場所の面から見てCX600よりも有利であるといえるでしょう。
本体の天面に貼られたシールには、ユニットの種別を表すコードとして「X1E+」という名称が書かれています。
(1)CX300の前面(ディスクエンクロージャ部)
CX300のフロントパネルを取り外すと、15台のハードディスクを内蔵できるディスクエンクロージャ部分が現れます。
SPが搭載されているユニット自体にディスクを内蔵できるのはCX200・CX300・CX400・CX500の4モデルで、これらのモデルでは単体での運用が可能ですが、CX600とCX700の2モデルはSPの大きさの関係から、最小構成でもディスクを搭載するためのKAEとの接続が必須となります。
(2)CX300の背面(電源ユニット)
背面にはコンピュータおよびKAEやSPSとの接続用インターフェースや、初期設定や管理の際に利用するケーブルを接続するためのコネクタが集まっています。
CX300の背面側はKAEとよく似た構成になっており、電源ユニットの下側にSPが搭載されるというレイアウトが採用されています。電源ユニットには「CX500には使用不可」という旨の警告が背面部とユニット上面に書かれています。
約400Wの電源ユニットが使用されている
電源ユニット背面(本体接続側)
CX500には使用できない旨の警告が書かれている
(3)SP
CX300には2つのSPが実装されていますが、他の同じサイズのSPに物理的に入れ替えることができるかどうかは不明です。なお、物理的に入れ替えられたとしても、その後に別の大きな問題が発生することになりますので、あまり現実的ではありません。
可用性を向上させるためにSPが最初から2つ搭載されているのはCX600などと同様ですが、旧モデルとなるCX200では、SPが1個しか搭載されていないモデルも存在していました。モデルチェンジ後のCX300の世代からは、ローエンドモデルでも最初から2つのSPが搭載されるようになった模様です。
SP上に実装されている主な部品は「演算に使用するCPU」と「読み書きに利用するキャッシュメモリ」、そして「ファイバーチャネルのコントローラ」となっており、他のSPと同じ構成になっています。
SP全景・本体接続コネクタ側から
CX300では演算用のCPUとして低電圧版のPentiumIII-Sが使用されており、銀色のヒートシンクが実装されています。
(4)−1 SP背面のインターフェース
SPの背面にはファイバーチャネルのインターフェースや初期設定の際に利用するコンソール用コネクタ、そしてSPS用のコネクタなどがあります。
2GのFC用・ネットワーク用・シリアル用・SPS用の各インターフェース
(4)−2 SPの構造について
CX300のSPは非常にコンパクトにまとまっており、CX600のような2階建て構造は採用されていません。
裏側の補強のフレームはヒートシンクの固定にも使われている
SPのフレームは全て金属製となっている
(4)−3 キャッシュメモリ
SPには読み書き時のキャッシュとして使用するためのメモリが実装されています。
メモリの種類はECC付のPC2100のDDRメモリで、当方が入手した個体では既に2本のスロットが全て埋まった状態で、SPあたりの合計の容量は1GBとなっていました。
PC2100のECC付きの512MBを2本で合計1GBを実装する
BE#0のインターフェースを制御するTachyon DX2
2チャネルのFEインターフェースを制御するTachyon DX2
存在しないはずのBE#1のインターフェースを制御するTachyon DX2
ヒートシンクを撤去すると演算用プロセッサとチップセットが姿を見せる
演算用のプロセッサとして低電圧版のIntel PentiumIII-S 800MHzが搭載される
チップセットはMicronのMT8LLN21PADFが搭載されている
なお、演算用のプロセッサである低電圧版のPentiumIII-S 800MHzは、CX300の他にCX200およびCX400でも使用されていますが、パッケージがMicro-FCBGAであるため、上位CPUへの換装については諦めざるを得ない状況です。
(4)−6 その他
ここからはその他にSPの上に実装されているチップやコネクタについて説明していきます。
メインのファイバーチャネル制御チップは前述のAgilentのTachyon DX2ですが、それ以外にVITESSEのVSC7147RMが搭載されています。これはKAEのLCCにも搭載されているチップです。
その他にALTERAのプログラマブルゲートアレイであるACEXチップや、MicronのペリフェラルコントローラであるMT8LLN22NCNEが搭載されています。
Micron MT8LLN22NCNE
なお、CX600にも用意されていたITPと書かれたコネクタがCX300にもありますが、どのような場面で使用されるコネクタなのかは依然として不明です。
SP自身の設定情報を保持するためにリチウム電池(CR2032)が実装されており、その近くにはUSBとシルク印刷されたパターンが存在します。
SPの背面にはネットワーク経由で設定するためのインターフェースが用意されていますが、その制御チップとしてIntelの82551ERが実装されており、基板上にはem Bootのシールが貼られています。
基板上にはem Bootのシールが貼られている
その他にMEZZとシルク印刷されたコネクタや、PAL、ISP/GNDと書かれたピンヘッダ、LRUと書かれたパターンなどがありますが、それらの用途は不明です。
PALおよびISP/GNDと書かれたピンヘッダとLRUと書かれたパターン
SPのメモリスロットの近くには「SP 2GB」という表記が見られますが、CX300や上位モデルに相当するCX400のSPには1GBまでのモデルしか用意されていませんので、何らかの理由があるのかもしれません。
CX300はCX400との差異としてBE#1が省略されていますが、基板上にはBE#0のすぐ隣にBE#1のパターンが用意されています。
CX400のSPではこの位置にBE#1のインターフェースがありますので、CX400のSPからBE#1を撤去したものがCX300のSPということなのではないでしょうか。
その後に見慣れた英文字の羅列が続くCLARiiONの独自の起動フェーズに移行する
そしてFLARE codeの読み込み準備が始まる
この時点からFLARE codeの読み込みが始まる
シリアル経由での画面はこの状態で止まってしまう
シリアル経由での画面はある時点から先に進まなくなってしまうので非常に不安になりますが、その裏ではWindows XP Embededの起動が進行しています。
ダイヤルアップ接続のパラメータは115200,8,N,1に設定します。接続時にはIDとパスワードを要求されますので、IDは「clariion」・パスワードは「clariion!」と入力します。
なお、このダイヤルアップ接続の設定はトラブル発生時には確実に必要になりますので、保存しておくことをお勧めします。
CX300との接続が確立したら、Internet ExplorerなどのWebブラウザを使って http://192.168.1.1/setup とアドレスを入力すると、次のような初期設定用の画面が表示されます。
この初期設定用の画面の最下部に表示されている「Destroy Security and Domain Information」をクリックし、本体に残っている設定を全て初期化します。
本体内部に保存されている設定の初期化を行うとSPの再起動が行われますので、再びWindows XP Embeddedが立ち上がった頃を見計らって、この画面を表示させて利用環境に合わせた本体のネットワーク設定を行います。
なお、設定画面にある「Peer IP Address」の項目は、もう1枚のSPに割り当てられているIPを示しています。
この初期化作業とネットワークの設定作業は SP A および SP B のそれぞれで別個に行う必要がありますので注意してください。
本体のネットワークの設定が終わったら、ようやくNavisphereでの管理が可能になります。
NavisphereとはCLARiiONシリーズを管理するためのソフトウェアで、Javaの技術を利用してWebブラウザ上から管理側コンピュータのアーキテクチャに依存することなく、管理・検出・監視・構成などが行えます。
NavisphereはCLARiiON FC4700から利用可能で、それ以降のモデルは全てNavisphereに対応しています。ソフトウェアの構成は以下の通りとなっています。
なお、NavisphereでCLARiiONシリーズの管理を行う際には、管理用のコンピュータにあらかじめ「Navisphere Storage Management Server」「Navisphere Host Agent」「Navisphere Manager」「Navisphere CLI」をインストールしておいてください。
CX300の内部ではNavisphere Storage Management ServerとNavisphere Managerが動作していますので、初期設定画面でSPに設定したIPをブラウザで指定すると、以下の画面が表示されます。
しばらく待つと、ユーザー名とパスワードを入力するための画面が表示されます。CX300の設定を初期化した直後はSPにユーザーを登録するための画面が表示されますが、今回は割愛します。
なお、ユーザーの管理は SP A と SP B で別個に行われていますので、注意が必要です。
ユーザー名とパスワードを入力すると次の画面が表示され、NavisphereからCX300を管理できるようになります。
ストレージシステムを構成しているコンポーネントはツリー状に展開される
「Physical」の項目を展開するとCX300のエンクロージャの構成が表示される
展開すると各エンクロージャを構成しているハードウェアの項目が表示される
CX300を構成しているハードウェアの項目を展開してみた
KAEを構成しているハードウェアの項目も同じように展開することが可能
ディスクが実装されていないスロットが E で表示されるのは従来どおり
ディスクのプロパティでは種別や部品番号も表示される
ストレージシステムとしてのCX300のアイコンで右クリックをすると表示されるメニュー
ソフトウェアパッケージに関する操作の進捗履歴が表示できる
ソフトウェアパッケージをインストールするためのウィザードも用意されている
片方のSPを再起動する際に接続経路がもう片方のSPにフェイルオーバーされるまでの遅延時間を設定する
既にインストールされているパッケージとこれからインストールするパッケージの選択画面が表示される
ストレージシステムであるCX300の全体に関するプロパティを表示させた画面
キャッシュの全般的な設定や状況を確認することができる
SPに搭載されているメモリがどのように配分されているかを確認できる
そのストレージシステムにアクセスしているコンピュータの一覧を表示できる
インストールされているソフトウェアパッケージのリビジョンと状態を確認できる
通常のNavisphereでは、いわゆる「危険な操作」は最初から操作メニューに表示されていませんが、特定の操作をするとエンジニアリングモードに入ることができ、今まで表示されていなかった項目を選択できるようになります。
エンジニアリングモードへの入り方は、CX300などのストレージシステムを選択した状態で、キーボードから「Ctrl」+「Shift」+「F12」を押します。これらのキーは「同時押し」ではなく「押すキーを順に増やしていく」という押し方の方が認識されやすいようです。
キー入力が正しく認識されると、エンジニアリングモードに入るためのパスワードを入力する画面が表示されますので、パスワードとして「messner」を入力します。
メニューバーに Engineering Mode が追加された
通常時は表示されない Engineering Mode が選択できるようになった
サービスマン用のソフトウェアパッケージインストール画面
ストレージシステムに付与されているメーカー識別用の文字列も変更可能
ソフトウェアパッケージだけでなくディスクのファームウェアもインストール可能
SPの再起動は Engineering Mode に入ることによって可能となる
CX300の内部に保存されているファイルを吸い上げることも可能
部品番号・リビジョン・シリアル番号・製造国などの情報も取得できる
SP Aが「実装されていない」と見なされたうえに未知のストレージシステムが増えている
さらにCXシリーズからはFLARE codeが「SP A用セット(Disk 0, 2)」と「SP B用セット(Disk 1, 3)」とに完全に区別されている模様で、SP B用のディスクをSP A用として流用することができません。
そのため、FCシリーズのように「とりあえず何でもいいからFLARE codeが入っているディスクを入れて復旧させる」ということが不可能になっています。
このような症状が発生した場合はFLARE codeの中身が壊れてしまっていることが多いので「しばらくそのまま放置してディスクのリビルドが自動的に行われるのを待つ」「電源を入れ直してディスクのリビルドが自動的に行われるのを待つ」「正常なFLARE codeが入っているディスクに入れ替えて再起動する」のいずれかしかないのですが、非常に精神衛生上よろしくありません。
また、CX300はSP単位でイベントログを見ることができますが、それを見るとFLARE codeが入っているディスクを入れ替えていないにも関わらず
その後にDISK 0〜4に対してシグネチャエラーが出る
ディスクからのライトキャッシュの読み込みに失敗する
FLARE codeの読み込みでエラーが起きパニックが発生する
パニックが発生したことによりSPが再起動される
実装されているDISK 2に対してリビルドが行われる
すると、起動直後のメモリチェックでは問題ありませんでしたが、シリアル接続によるテキストベースの起動画面の時点で警告が出るようになりました。
FLARE codeの読み込みが始まるやいなや「正しくない容量のメモリが実装されている」という警告が出る
SPに搭載しているメモリはディスクキャッシュのために使用するわけですから、多いぶんには特に問題ないと思うのですが、このあたりにもEMCの「ユーザーの自由にはさせてやらないぞ」という厳格な管理ポリシーを垣間見ることができます。
というわけで警告は出るものの、OSはとりあえず正常に起動したのでNavisphereで確認を行ったところ、容量はちゃんと認識されていました。
割り当ても問題なく行えるのでキャッシュの容量を大きく拡張できる
ようやくFLARE codeの読み込みが始まる
この画面のままディスクからの読み込みが止まってしまう
Windows XP Embeddedの起動が完了する前に止まっているのでダイヤルアップによる接続もできない
いろいろと調査を行ったところ、CXシリーズのFLARE codeは機種ごとに異なっており、リビジョン番号にそのFLARE codeの対象機種名が含まれているということが判明しました。例えば 02.06.300.05.003 であればCX300用、 02.04.0.60.05.002 や 02.16.600.05.004 であればCX600用、ということになります。
というわけで、起動には機種に合ったFLARE codeが必要になることが確定してしまいましたので、当方のCX600を鉄屑から復活させるには「海の向こうから『それらしきディスク』を手当たり次第に購入する」というレイの方法しか残されていないようです。
・Navisphereからのアレイの設定と運用・保守
・CXシリーズで使用できるハードディスクドライブの種類
・CX300におけるアレイ方式別の速度比較
・他のFCベースやSCSIベースのディスクアレイとの速度比較
・複数のコンピュータから同一のアレイに対してアクセスした際の挙動
等について説明したいと思います。どうぞご期待ください。