日本を取り巻く国際情勢 第152号 2007年10月4日発行

今週のテーマ
フジモリ救出運動始まる
時局心話會
代表 山本善心
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「フジモリ元大統領を救出する会」(「救出運動の会」)が8月30日に参議院議員会館で開催された。会長は株式会社ライフコーポレーション会長兼CEOの清水信次氏である。当日は各界で活躍しているトップの方々が多数参加され、会場は盛況だった。参加者はフジモリ判決の行方に強い関心を持たれたようだ。フジモリ元大統領救出運動の火蓋は切って落とされた。
8月30日、清水氏は開会挨拶で「フジモリ元大統領が一日も早く帰国されるよう、皆さんの協力をお願いします」と訴えた。また國安正昭前中南米全権特命大使は「中南米諸国の実情は複雑である。フジモリ氏に有利な判決が出たとは言え、最終段階でどうなるか分からない」と注意を促した。またジャーナリストの二木暁子氏は、ペルーの状況について詳しく語った。
清水氏は常日頃こう語っている。「銀行や証券会社をはじめ、日本社会のあらゆる分野で合理主義、効率化を重視する風潮が進行。それゆえ人間として生きていくために必要不可欠な、人情とか思いやりというものが失われつつあるのは残念だ」。清水氏は、日本国籍を持つフジモリ氏の危機状態を誰かが助けるべきであり、それには「救出運動の会」が世論となって政治を押し上げる必要があると考えた。
フジモリ氏は、清水氏や二階俊博総務会長が親身になって支援してくれることに心から感謝している。氏が最も頼りとする妻の片岡都美夫人も、最近は10kgも痩せるほど献身的に戦っている。今は獄中の身であるが「都美と早く連絡を取りたい」と願うフジモリ氏の思いは募る。フジモリ救出は、夫人のエネルギーとパワーが大きな鍵だ。
「救出運動の会」発足
フジモリ氏はペルーの日本国大使公邸で日本人の人質を全員救出した大恩人だ。清水氏には、日本人の大難を救ってくれた恩義に今こそ報いるべきだ、との強いこだわりがある。それには世界の常識とルールに基づいた公正な裁判を行うようチリやペルー政府に強く直訴すべきだと考えた。このままではフジモリ氏が国と国との取引材料にされる、との懸念が的中した。
「救出運動の会」の発足が決まると、清水氏は早速作業に取りかかった。趣意書づくり、発起人選び、送付先の準備などに7人のスタッフが当たった。経済界からは清水氏と同世代のリンナイ株式会社会長の内藤明人氏やアサヒビール株式会社名誉顧問の中條高徳氏、学識界からは京都大学名誉教授・勝田吉太郎氏や杏林大学客員教授・田久保忠衛氏らが代表発起人に就任された。
「救出運動の会」の同意を求めた葉書は13、000名以上の各界代表者に送られた。そして8月末日までに石原慎太郎東京都知事をはじめ、国会議員19名、企業経営者379名、ジャーナリスト・学識者32名ほか、1000名を超える方から同意の返信葉書が届いた。
日本政府が動いた
我々は9月3日に安倍首相とチリのリカルド・ラゴス大統領の会談が行われる情報をキャッチし、チリ最高裁が公正な裁判を行うよう安倍首相からラゴス大統領に要請すべきだと考えた。清水氏は即座に行動を始め、二階俊博総務会長に連絡を入れ面会を申し入れた。81歳とは思えない素早い動きだ。年商4500億、従業員42、000人の企業を作り上げた実業家ならではの、清水氏の実行力と底力を見た思いがする。
8月31日、二階氏は清水氏の話を聞くうちに「これは大変重要な問題であり、官邸及び外務省との連絡や官房長官を通じて、総理・ラゴス会談で正当な裁判を行うよう要請するのがよいでしょう」とその場で官房長官に電話を入れた。
清水氏はその日のうちに首相官邸で官房長官と会談する。官房長官も「よく分かりました。今夕安倍首相と会うので、ラゴス大統領に日本政府としての意向を伝えるようにいたします」と答えた。これで本件は政府の手に委ねられた。
9月3日、安倍首相とラゴス大統領の会談が開かれた。その席には外務省の三輪中南米局長も同席していた。その席で首相から、フジモリ氏の公正な裁判を願いたい旨要請される予定だった。しかしどうしたわけか、三輪氏はこの議題を俎上に乗せなかった。首相も精神的な疲労がピークに達し、それどころではなかったと聞く。
予断を許さぬフジモリ判決
フジモリ潰しの大きなきっかけになったのはトレド前大統領である。トレド氏は自らの失敗を隠蔽するために、フジモリ氏に48の罪状を被せた。テロを撲滅した功績の陰には必ず犠牲者が出るのは歴史が証明するところだ。戦争が起これば大多数の国民が殺傷されるのと同じである。これは人権とは次元が異なる問題だ、との意見もある。
フジモリ氏は大統領時代に人権侵害や公金横領があったとして追及されてきた。これはフジモリ氏が直接指示したというが証拠が見つからず、チリ最高裁は容認の決定を下せないでいたものだ。しかしながら今回のフジモリ問題は公平な裁判というより、ペルー内部の政治問題をからめた複雑な事情による判断との感は否めない。
水面下での交渉
チリ最高裁は8月11日、フジモリ氏の身柄を引き渡さないとする決定を下した。今回の審理ではペルー側の異議申し立てが1回限定で認められているので、最終判決は9月20日になったのである。しかし最終判決は我々の期待とは異なる結果となった。
チリ外務省の関係筋によると、ペルー国内でガルシア現政権の担当者とフジモリ氏の弟サンチャゴ氏が水面下で交渉するシナリオが進行しているのではないかという。今後ペルーで裁判が始まるが、一部で無罪、一部が有罪になる可能性も高い。しかしながら一部有罪判決により身柄の収監は続行されるが、元大統領は恩赦による釈放となり、国会決議で承認されるとのシナリオだ。
ガルシア大統領は国内基盤が弱く、評判も悪い。前の大統領時代には300人以上の虐殺事件があり、すねに傷持つ身である。大統領を辞めればフジモリ氏と同じ容疑で収監される、との声がしきりだ。ましてや次期大統領選では、フジモリ氏の長女ケイコ氏が最有力候補である。ガルシア氏が今ここでフジモリ氏に貸しを作るとしたら、早い時期にペルーに戻して手打ちするしかないというわけだ。
フジモリ氏VS白人社会の戦い
フジモリ氏に対するペルー政府のこだわりは執拗なものがあった。チリ政府に対しても、裏では強い要請が繰り返されていたという。なぜペルー政府がここまでフジモリ送還に執念を燃やしたのか。これには先に述べた情報も一因としてある。
ペルーでは少数の白人たちによって支配される権力構造が長い間続いてきた。そこでフジモリ氏は大統領時代、白人たちの中央集権体制に大胆な変化を求め、格差社会の改革を断行した。貧しい人々や農村の生活改善に尽力し、さらに2000校以上の小中学校を建設して教育の普及に努め、貧民街のインフラ整備が拡充された。
フジモリ氏のしたことはまさしく、戦前の植民地時代に台湾・韓国に対して日本が行ったのと同じ近代化への道しるべであった。しかしながら日本の安倍首相と同じく、腐敗堕落した権力構造に対する挑戦は激烈を極める。しかしこの二人に共通しているのは「真実は最も人を傷つける」という格言であり、時限爆弾に触れたことであった。
フジモリ復活はペルーの再生
これまでフジモリ氏が生き残る唯一の手段が、日本の参院選に当選して公人になることだった。仮に当選していれば、間違いなくチリ最高裁は釈放を決定したであろう。それが良かったか悪かったかは別の問題である。
我々は事実と根拠に基づいた公正な裁判が行われることを要請する。それと共に身柄も自宅に移し、自由な環境にすべきだ。裁判前とは言え、ペルー政府は元大統領に敬意を表した待遇をすべきではなかろうか。それがガルシア大統領にとっても極めて大事なことだ。
フジモリ氏がペルーに戻ることで、貧民街の住民の期待は熱狂的な高まりを見せている。たとえ人権侵害の罪に問われようと、かつてのフジモリ時代の政治は貧民の味方であった。ペルーの左派系有力紙であるレプブリカ紙は連日反フジモリを連呼しているが、ムニーベ論説委員は「2011年の大統領選でのフジモリ再選は間違いない」と断言している。
【このコラムは毎週木曜日に更新。次回は10月11日(木)】
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