この話をするのは大変に苦しい。10年ほど前かな。IBMに代表されるホスト計算機[たったの1台の大型計算機が色んな端末やら周辺装置,通信制御装置,記憶装置などと組み合されてあらゆることを24時間ぶっ通しで実行します。素晴しい性能,機能を持った計算機装置でした。もちろん,それを動かすためのOS[オペレーションシステム]も,通信をつかさどる通信ソフトも,セキュリティをつかさどるソフト,自動的にバックアップを取るソフト,自動運転をするソフト,必要な伝票をきちんとしたフォーマットでオーバレイで印刷するためのシステム,などなどがありました。]
でも,IBMがいけないのですよね。囲い込みと言って,一度IBMの計算機を導入したら最後,よほどの決心と負担,損害を覚悟しなければこのIBMの囲い込みの中から抜出すことが出来ないのです。その間定期的に高額のレンタル料を支払う必要があります。通常「国産品」の同等の製品の2倍以上の費用が発生しました。企業では「情報システム部門」があり,社内のあらゆる業務を計算機化するための仕事を請け負っていました。ここの担当者は通常「バックログ」と言われる「未処理の仕事」を半年から2年分を常に持っていました。だから,担当部署からはぶつぶつ言われるし,仕事をしていない「金食虫」と言われるのが通例でした。[特記しなければならないのは,COBOLという言語を使用して,全てコーディングという作業が必要で,ビジュアル何たらという言語が無いのが欠点といえば欠点でした。でも,デバッグに必要なツール群は完全に揃っていましたし,アプリケーションを作るためのサポート環境,支援のソフト群も完全に揃っていました。データベースに関しても相当に進んだ技術がありました。だから,ホスト系の計算機を使用している場合,めったなことではダウンしません。ダウンしてもほんの一部の機能がおかしくなるだけで,一台の計算機が完全に動かなくなるようなことはありませんでした。
で,その頃,UNIXという新しいOS[これでも大変に長い歴史を持っているのですがね。]が出てきました。これは,確かに1台の計算機で出来る能力は限定されていました。しかし,OSが大変優れていました。1台の計算機で実行できる仕事は限定されていましたが,複数の計算機を簡単に通信で接続することによって,大きい仕事を実行することが容易でした。ある計算機から他の計算機に入り込んで,その計算機の上で別の仕事をすることも可能でした。だから,一人の人が同時に多数の計算機を使用することも可能でした。
この計算機はかなり多くの会社が製作していました。そのOSであるUNIXもかなりの数のバージョンがありました。[今は2つ程度に絞られているし,Linuxという無償のOSも出来ていますが。]そのため,「IBMの独占」のような状況には陥ることが避けられました。
皆さん,良く認識して欲しいのです。「市場を1〜2企業に独占されるということ」が大変に危険であることを。IBMが独占していたために,このような状況に対する反発が起こったのです。
フィーバーが起こりました。「ダウンサイジング」「いや,ライトサイジング」だとかいって,かまびすしいことおびただしかったでね。10億円もするホスト計算機ではなく,1千万円のUNIXワークステーションで同じ仕事が出来るって,....そんなことは有りえないですよね。いくらIBMがぼろ儲けをしていたといっても,100倍も金を取っていたわけでは有りませんでした。
で,これをやらされたのが,例の「情報システム部門」のCOBOL部隊。そんなことは無理ですよね。言語は”c”,OSはUNIX,通信はTCP/IP....デバッグ環境は全く無し,支援システムもなし,セキュリティも無し,バックアップも無し,データベースも無し。業務ソフトも無し。無し無し無し,のオンパレード。
でも,だんだんこれらのことが揃ってきました。バックアップ,セキュリティ,支援システム,ミドルウエア,データベース,デバッグ環境...5年程度かかりました。でも,OSが優れていました。基本的に,マルチタスク対応でした。[いくら「ラウンドロビン」方式と言っても占有することが有りませんでしたし,有るタスクがハングしても,計算機全体が死ぬことはほとんど有りませんでした。だから,それ相応のシステムが生まれましたし,それ相応の利用が進みました。それは全て「情報システム部門」ないし,「UNIX系のアプリケーション担当部門」の人達のたゆまぬ努力の賜物であるし,UNIXワークステーションのベンダー各社[サン,ヒューレットパッカード]および,関連ソフト開発会社[サイベース,オラクルなどのデータベース]のお陰でした。
やっぱり,IBMに独占されているよりも,安く出来上がったようですが,やっぱり,ホスト系の計算機の素晴しさは「言うに及ばない」というのが私の印象です。まだまだ不十分だし,強力な業務ソフトを動かすにはいまだに「ホスト計算機」でしょうね。
面白くもおかしくも有りませんが,皆さんが使用しているPC[パソコン]は多分インテルチップを搭載してマイクロソフトのウインドウズのOSで動いているのでしょうね。私はアップル社のマッキントッシュを使用していますがあんまり差はないですよね。
で,上で述べたように,UNIXマシンが1千万したときに,PCは100万円で買えました。そうすると,会社のトップは,性能だけを比較します。ブラウン管だけのディスプレーを比較します。そうすると,なぜ,PCを使用してシステムを組まないのか,と言います。UNIXでもあれだけ苦労して何とか動くようになったのに,PC何てほんの赤ん坊の仕事しか出来ないし,何にも揃っていないし,マルチタスクではないから,何か知らないけどすぐに死んでしまって,レセットボタンを押す羽目になる。そうすると今迄の労力の結晶はどこかへ消えてしまう。
皆さんが痛いほど経験していることだけど。...でも,Linuxにするだけの実力もなし,ビジュアルのマンマシンに慣れてしまうと,コマンドラインで仕事をすることは不可能になってしまいますよね。
でも,会社の業務の計算機かを担当する専門家はそんなことを言っているわけには行かないけど,できればUNIXにして欲しい。PCは怖い怖い。何も揃っていないし,例のマイクロソフトのソフトはセキュリティに関してはほとんど無力に近い。あれだけ苦労して世界のネットワークの構成要素になっているUNIXワークステーションでもあんなに苦労したんだから。
社長さん,出来れば,予算をもう少しあげてやっていただけませんか。そうしたら,365日ダウンしないシステムが簡単に作れますよ。本当に。HPのUNIX数台使用すると,完全な大規模システムが出来上がります。予算はそねえ。3千万円くらいかな。