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「こんにちは」 翌朝早く、私は愛ちゃんの家の玄関のドアをノックして自分が来た事を知らせる。 そして玄関の前で少し立ちながら待っていると、 ドアが開いて愛ちゃんが胸に小さな赤ん坊を優しく抱きながら私に嬉しそうに話し掛けてくれる。 「いらっしゃい、見晴ちゃん。さ、あがってあがって」 愛ちゃんにそう促されて私は愛ちゃんの家に上がらせてもらう。 「…おじさんとおばさんは居ないの?」 私が愛ちゃんに尋ねると、愛ちゃんは私の隣に立って赤ん坊をあやしながらうなずく。 「うん。お父さんはゴルフ、お母さんはお友達とお茶会に行っちゃった」 「それで愛ちゃんはデートに行くんだね?」 私の言葉に愛ちゃんは面白そうに首を振る。 「そう思った?」 「違うの?」 私は意外そうに愛ちゃんに聞き返す。てっきりあの電話の反応からしてそう思っていたんだもん。 「…私の演技もなかなかね。演劇部に入ったほうがよかったかな?」 愛ちゃんのおかしそうな言い方に、「まいっちゃったな」という感じで私は頭を抱えてしまう。 |
「なーんだ。違うのか、残念」 「ちょっとお届け物を頼まれてね。少し遠いからこの子を放って置けないでしょ」 愛ちゃんの言葉に私はうなずく。確かにこの子をおぶって遠出するのって無理だよね。 「…でもその近所のおばさんも無責任だね。子供おいて旅行に行くなんて」 「結婚から1000日たった記念に旅行するんだって言われてね。 そしたらうちのお母さんが「じゃあ夫婦水入らずで行ってきたら? 子供はうちで預かるから」って言うんだもん」 愛ちゃんがそう言って胸に抱いている赤ん坊を預かった経緯を私に説明してくれる。 「ふーん。そうなんだ。それで愛ちゃんにお鉢が回って、さらに私に回ってきたんだね」 私がそう少し皮肉っぽく言ってみると、愛ちゃんも苦笑いを浮かべる。 「…じゃあ、見晴ちゃんも一緒に行く?2人だとこの子を連れて行っても大丈夫だと思うし…」 愛ちゃんがやさしくそう誘ってくれるけど、やっぱり私は首を振ってしまう。 「ううん、遠慮しとく。その代わり早く帰ってきてね」 私の言葉に愛ちゃんも嬉しそうにうなずいて約束してくれる。 |