こんな、皓々とした月の夜。
僕は桃に酒----ついでに杯も冷やして床につく。
それは来るとも知れぬあの人を、気まぐれな、気まぐれなあの人を迎える為の、
一種の儀式なのだ-------
 希い
足をぶらぶらとさせながら、寝台の端に腰掛けていた師叔が、不意に真後ろへと倒れ込んだ。
「!?どうしました?」
驚き、自室へと持ち帰った書簡もそのままに駆け寄れば、そのままの格好で来い来いと手招きをする。
「?」
ぎし、と寝台に手を付き、彼に覆い被さる様に視線の先を伺えば、開け放たれた窓と月。

「ああ・・・」

「良い月だろう?」
「ええ」
こんな時の師叔は本当に嬉しそうに笑う。・・・だから、僕も嬉しい。
「月見酒にはもってこいだな」
「お付き合いしましょうか?」
苦笑混じりに伺えば、師叔は少しの逡巡の後に再び視線を月へと戻す。
「いや・・・今日は良いよ」
この部屋の窓からは、何故かいつも月が良く見えた。
だから師叔は月見酒と称しては、ちょくちょく僕の部屋へと訪れる。
「酒の肴にするには、ちと勿体ないであろう?」
今宵の月は。
「そう、ですね」
不意に黙り込んだ師叔と二人、空を見上げしばしの静寂へと身をゆだねる。
・・・そして。
そんな静寂を破ったのもまた、師叔からだった。
「ずるい」
「・・・は?」
「だっておぬしは毎日こんな月を独り占めしておるのだぞ?」
「はあ」
なんだろう急に。
「でも師叔の部屋だって陽当たりが良いじゃないですか」
多分、この城で一番。
「・・・昼間執務室に詰められてるのに意味なんかあるか」
・・・確かに。
「とりかえろ」
「は?」
「おぬしとわしの部屋」
・・・この人の唐突のわがままは今に始まったことではない。
些細なことから無理難題まで、様々な要求で僕を困らせる。
・・・だけどその願いを叶えた報酬は、掛け値なしの笑顔で。
それが嬉しくて、本当はなんだって叶えてあげたい。

--------だけど。

「駄目です」
「・・・なんでだ」
師叔は、ややふくれ顔で僕の髪をひっぱる。
・・・ずるいのはどっちだろう。こんな顔で、僕を見るくせに。
「・・・だってあなた」
未だいたずらの続く手を、僕の髪ごと包み込む。
「そうしたら僕の部屋には来てくれないじゃないですか」
そんな機会、みすみす失う気はありませんよ。-----そう言って笑えば、師叔はついと目を背ける。
「だあほ・・・」
微かに染まる彼の耳朶を満足げに見遣りながら、「・・・そうですね」と、僕は呟く。
この人と出会って、僕はずいぶん馬鹿になったと思う。
だって-------

「しょうがないのう」
師叔がわざとらしくため息を付いた。
「そのかわり、おぬしの独り占めにはさせんからな」
僕の手からするりと逃げ、びし、とその指を僕へと突きつける。
「ええどうぞ。いつでもいらして下さい」
・・・こんな些細な遣り取りが、こんなにも僕を幸せにする。
「ねえ師叔」
「ん?」
「今度休みが取れたら、何処へも行かずにあなたの部屋で過ごしましょうか」
そうして二人で昼寝でもしてみましょう。きっと、気持ちいいですよ?
「だが月は見えんぞ?」
「そうしたら、僕の部屋に戻れば良いんですよ」
そうすれば、暖かな陽射しも、静かな月明かりも、みんなあなたの物だ。
「・・・贅沢だな」
「そうですか?」
なんだか泣きそうな顔で、師叔は笑う。また、余計な事を考えているのだろうか。

「・・・師叔?」

本当に、本当に頭の良いこの人は、人の数倍で物事を考える。
(量にせよ、質にせよ、速度にせよ)
ぐるぐると、ぐるぐると。・・・そうして、そんな自分を誰にも見せようとはしない。
「師、叔」
だから僕はその名を綴る。声で、言葉で呼び戻す。
大事な大事な此の人が、思考の海で、溺れる前に。

  祈りを

「師叔-------・・・」

  込めて。

 ***

「・・・楊ゼン」

「はい」

「-------休みが取れたら、な」

・・・何が書きたかったんだ自分・・・(汗)てゆーかわたくし、小説最後まで書いたのって生まれて初めてですよ!・・・これを小説と呼ぶならば(泣)
----つかさー、プロット・・・?(死)

じつわこの話、テキストに打ってたときはこのおよそ二倍近くの長さだったのですよ。んでここまではわりと順調に書けてたんですが、・・・一日おいたら書けなくなりまして(汗)しかも癖で暗い方に暗い方に話が向かって行っちゃって、それを何とか甘い方甘い方に修正してたので、出来上がってみたら何やらえらいがたがたした小説になってしまいまして(泣)ならばいっそ、とざっくり切り落としてしまったのでした。

しかし柚木にしてはえらい甘い話に・・・(汗)いや柚木は甘々大好き人間なのですが、どーも自分が書(描)くとなると微妙に暗かったりするので。ってゆーか友人には「あんたの描く話は一見甘そうだけどそこはかとなく暗い」とか断言されたしね・・・(遠目)よく分かってるじゃないか(死)
でもですね!楊太では目指せ甘々で頑張っているのですよ!頑張れ自分。つか、充分甘いっすか?(汗)どうも妹が大甘人間なので感覚が狂うのです。

えと、何やらお目汚しな感が拭えませんが、最後まで読んで下さってありがとうございました。・・・精進いたします・・・(汗)

柚木拝 00/07/08