疑惑 |
一方、予想外のダメージを被った帝国軍は体勢を立て直すべく廃虚の外に設けたキャンプ地に戻っていた。 「一体何がおこったのだっっっ」 テントの中に大王の怒声が響いた。 取り巻きたちは大王の怒りを恐れてか、顔を見合わせるばかりで答えるものはなかった。 多くの部下を失った所為もあってか士気は落ち込み時間だけが無駄に過ぎていった。 大王の怒りが頂点に達しようとした瞬間、エノキンが口を開いた。 「あの遺跡には何か秘密があるようですな。」 エノキンは意味深につぶやくと、大王を見た。 「秘密だとぉ?」 大王は思わずエノキンの方を振り向いた。 「儂も最初は奴らの狙いは遺跡の財宝を軍資金にでもするのかと思っておりましたですじゃ。 しかし、出て来た財宝はほんの僅か、売り払っても大した金にはなりますまいて。」 大王の怒りを恐れて口を閉ざしたままの将軍たちを前にエノキンは言葉を続けた。 「このカーニリベ地方には多くの伝説がありますじゃ、その大部分は古代には今よりずっと技術の進んだ文明があったというものですが、正直儂は半信半疑でしたのじゃ。」 大王は怒りも忘れてエノキンの話に聞き入った。 「では先ほどのアレも古代の遺物だというのか?」 「今の儂らの技術ではあのような物はとても作りだすことは不可能ですじゃ、アレを見て儂は確信したのですじゃ。」 その言葉は、居並ぶ将軍たちにも衝撃を与えた。 未知の力を相手にするなど今まで経験の無い事、軍議の席上であちこちから不安を訴える囁きが漏れた。 そんな将軍たちに再び大王の怒りが爆発した。 「バカモンっ!それでもキサマらは帝国軍人か!!」 あまりの剣幕に辺りは水を打ったように静まりかえった。 「チッ!この役立たずめが、エノキン、話を続けろ。」 大王は剣呑な視線を辺りに配るとエノキンに続きを促した。 「では、おそれながら・・・奴らの狙いはほぼ間違い無く古代の遺物ですじゃろ、奴らがあの遺物を自由に使いこなせるとすれば儂らに勝目はありますまいて、しかしまだそうではないようですじゃ。」 「どういう事だ?それは。」 大王はまだ不機嫌そうに聞き返した。 「はい、あの光が出現した時の小僧どもの反応ですじゃ、奴らも何が起こったのかわからん様子でしたからな。」 「なるほど、奴らもまだ謎は解いていないと言う事か。」 「そう言う事ですじゃ、今のうちに儂らが謎を解いてしまえば遺物は儂らの物になると言うわけですじゃ。」 その言葉を聞いて大王は考え込んだ。 「しかしなエノキン、またあの光が現れたらどうするのだ?」 「儂に考えがありますじゃ、奴らはまだ自由にコントロール出来ているとは思えませぬのでな。」 そう言うとエノキンは口元に卑屈そうな笑みを浮かべ、居並ぶ将軍たちに作戦の説明を始めた。 「この作戦は皆様がたの素早い行動が胆ですじゃ、儂の見たところあの光は石碑を中心に出ておった、そして奴らは石碑の周囲に集まっておった、と言う事はやつらを石碑から引き離してしまえばあの光は現れんと言うことじゃ、さすれば後は我らの思うがままと言うわけですじゃ、いかがですかな。」 しかし、未知の物に対する自信のなさと、大王の前でそれを口に出来ないジレンマからか、将軍たちは沈黙する事で己の保身を図った。 「よかろう、お前の策以外にまともな策は出てきそうもないようだからな。」 大王は不機嫌そうに将軍たちを睨み付けるとエノキンに言った。 「恐れ入ります、大王様、それではまず様子を探りにいかせますじゃ。」 「うむ、まかせたぞ。」 「はい、それでは皆様がたも出撃の準備をよろしゅうに。」 不安な表情を隠せない将軍たちにエノキンは大袈裟な身ぶりで頭を下げた。 「よし、皆のもの、出撃準備だ、あのジジィたちも連れて行くぞ。」 「はっ」 これ以上大王の怒りをかってはかなわんとばかりに将軍たちは慌ただしく部屋を飛び出していった。 しかし今回ばかりは将軍たちの中にもエノキンの作戦に疑問を感じている者が少なく無かった。 本当にあの光は出ないのか? 我々を捨て駒にするつもりではないのか? 様々な疑念が将軍たちの間に広がり、その士気はお世辞にも高いとは言えなかった。 そんな将軍たちを見送るエノキンが怪し気に口元を歪めたことに気付いた者は誰も居なかった。 |