闇の中へ |
最初に意識を取り戻したのはニンであった。 「いてててて、ったくよ何が起こったってんだ・・・・・」 ニンはまだハッキリしない頭を振りながら闇に目が慣れるのを待った。 そして自分の腕の中にある感触を確かめると呟いた。 「どうやら無事みたいだな。」 落下の瞬間、ニンは咄嗟にピリンを抱きかかえ自分の体を盾に衝撃から守ったのだった。 「しかしこれじゃ何も見えねぇな、まっ下手に動くよりは待った方がいいか。」 そして程なくしてニンの腕の中でピリンが動き始めた。 「よぉ、気が付いたかピリン、怪我は無いか?」 声の主がニンだと解ると安心したのか、ピリンはニンの方を見て何度も頷いた。 「そうか、無事でよかった、だがよぉ、この暗さじゃウロウロすると危ねぇからな、ジッとしてるんだぜ。」 その言葉にピリンはまたも頷くとニンの膝の間にチョコンと腰をおろした。 そしてようやく辺りの闇に目が慣れてきた頃、ニンの背後でうめき声が聞こえた。 「ここは一体・・・・・・」 聞き覚えのある声にニンは安堵した。 「その声はアトピーか?」 「ニンですか、無事でしたか、ピリンは?」 アトピーが声のする方に近付いてみると、闇の中にうずくまったニンとその腕の中でキョロキョロしているピリンが見えた。 「おぅ、アトピー無事か?」 「どうやら怪我はしていないようです、しかし遺跡の地下にこんな空洞があるとは・・・」 「そうか、まずは無事でなによりだ、ところでよぉ、エミールとロイドはどうした?」 「解りません、私の近くには居なかったようですが、なにせこの暗さでは・・・」 アトピーはそこで言葉を区切ると何か考えるように黙り込んだ。 「おい、アトピーどうしたんだよ、急に黙り込んで。」 「暗闇・・・・・探す・・・・・そうだっ!!」 アトピーは急に大声をあげるとニンに詰め寄った。 「な、何だよ急に・・・・」 しかしアトピーの耳にはニンの抗議は聞こえていなかった。 「ねぇピリン、エミールとロイドが何処にいるか判りませんか?」 「おいおい急に何言うんだよ、こんな真っ暗ん中で判る訳ねぇじゃねぇの。」 「私も自信がある訳では無いのですが・・・・ピリンは感の鋭い子です、何か見つけてくれるかもしれません。」 「しかしよぉ、三歩離れたらもう何も見えねぇんだぜ。」 それまで二人のやり取りを聞いていたピリンが急に立ち上がり、闇の中に消え、また戻ってきた。 そしてピリンは二人の手をとって引っ張り始めた。 その様子を見てアトピーはピリンに話しかけた。 「ピリン、貴方には見えるんですね、この闇の中でも。」 その言葉にピリンは力強く頷いた。 「ホントかよピリン、すげぇじゃねぇか。」 これにはニンも驚いた様子でピリンを見た。 「さてピリン、見えますか?ロイドやエミールがどこに居るのか。」 ピリンは暫くの間、辺りを見回すと二人の手を引いて歩き始めた。 距離にすればほんの数メートルだったのだろうが、闇の中が見えない二人にはやけに遠く感じられた。 少しするとやがて薄らと誰かが倒れているのが見えてきた。 「誰か倒れてるぜ、おっ、ロイドじゃねぇか、しっかりしろロイド。」 ニンはロイドに駆け寄ると抱き起こした。 「ぅぅん、・・・・何が起こったんだ・・・」 「気が付きましたかロイド、怪我はありませんか?」 「その声はアトピーさん、私は大丈夫です、しかし暗いですね、ここは何処ですか?」 「おそらく遺跡の地下だと思いますが何とも・・・」 アトピーは自信なさげに言葉を濁した。 「そうですか・・・みんなは無事ですか?」 「ニンもピリンも無事ですよ、後はエミールを探すだけです。」 「えっ、エミールが見つからないんですか?」 「なんせよぉ、この暗さじゃ頼りになるのがピリンの目だけだからなぁ。」 ニンはお手上げとばかりに肩をすくめた。 「そう言えば荷物の中に・・・・・・」 そう言うとロイドは思い出したように背負いっぱなしだった荷物をおろし中を探り始めた。 「どうしました?ロイド。」 「いや、これが有るのを忘れていましたよ。」 そう言うとロイドは小瓶と小さなランタンを取り出した。 「そうか、迂闊だった、私も忘れていたよ。」 その間にもロイドは油をランタンに入れ、芯に油がまわったのを確認すると火打石を取り出した。 カチッ、カチッ、カチッ・・・・・ 暗闇の中に何度か火花が散った後、小さな灯りが点った。 「これで何とかなるかも、さぁ、エミールを探しましょう。」 アトピーの言葉に全員が頷いた。 ランタンに点った小さな灯、それは本当に小さな灯りだったが、 闇に閉ざされていた三人の目にはとても心強いものに映った。 |