綻び |
翌朝、フジウスは第一戦闘班の面々を前に、昨晩の定例報告の場での決定を伝えていた。 無論その内容はフジウスが己の都合の良いようにかなり脚色されたものである。 昨晩のフジウスとツチカのやり取りを知っている者が聞けばおそらく開いた口がふさがらないであろう。 そして、暫くの間まったく中味の無い演説をぶちあげた後、フジウスは己の無能さをさらけ出すかのような命令を下した。 「よいか、第一戦闘班の威信にかけて必ず不審者を捕らえるのだ、生死は問わぬ、お前たちも不審者を捕らえるまで戻る事はかなわぬと思え。」 命令を受けた第一戦闘班の面々は短い返事をすると一斉に飛び出して行った。 その後ろ姿を見送ったフジウスは満足そうな笑みを浮かべると自分のテントへと戻っていった。 「やれやれ、あの男は口で言っても分からんようだな、少しばかり痛い目にあった方が良いのか。」 物陰から一部始終を眺めていたディスルはため息をつきながら呟いた。 そして、その無能な指揮官が前線にも出ずに一体何をしているのか確かめるべく足音を忍ばせてテントに近付いていった。 テントに耳をあて、中の様子をうかがっていると何やら飲み食いしているような音が聞こえ、その音が止むと今度は鼾が聞こえてきた。 不審に思ったディスルが、そっと入口を開けて中を覗いてみるとテントの中には酒の匂いが充満し、喰い散らかされた食べ物の横にだらしなく転がり眠りこけているフジウスの姿が目に入った。 ディスルはそっと入口を閉じその場を後にした。 「どうやら痛い目よりも厳罰の方が似合っているようだな。」 そう呟くとその足で物資管理の責任者のもとを訪れた。 呼び出された責任者は何処かおどおどしたところのある人のよさそうな男であった。 ディスルはたった今見て来た事の一部始終を話し責任者の男を問いつめた。 「大王様でさえ皆と同じ物しか口にしておらんと言うのにあれは一体どういう事だ。」 問いつめられた男は震えが止まらぬまま神殿の床に額を擦り付けて命乞いをした。 「お、お赦し下さいディスル様、私にはどうしてもフジウス様に逆らえぬのでございます。」 「理由を申してみよ、正直に申せば命まで取ろうというつもりは無いが事と次第によっては厳罰は免れんぞ、ここで言い難ければ私のテントで話を聞こう。」 ディスルは男が落ち着くのを待って自分のテントへと案内した。 責任者の男はディスルに促されるままポツリポツリと自分の身の上を話し始めた。 「私の出身はフジウス様の領内の小さな街であります・・・両親は今でもその街で小さな店をやっております・・・・」 「して、それが今回の事と何の関係があるのだ?」 「はい、あの街に住む者にとってフジウス様は絶対です、逆らえば生きてゆく事は出来ません、あの街に両親が暮らしている以上、私にとっては両親を人質にとられているも同然なのです。」 「なるほど、そう言う事であったか、まぁ情状の余地は有るものの罰はまぬがれんな、降格は覚悟しておけ。」 そう言い、立ち上がりテントを出ようとしたディスルに男は慌ててすがりついた。 「ディスル様、私はどうなってもかまいませんが、両親は・・・私の両親は・・・・・・」 「安心せい、罰を受けるのはお前だけではない、フジウスにもそれなりの罰を受けさせよう。」 ディスルはそれだけ言い残すとテントを出て行った。 後に残された男はいつまでもその場に平伏していた。 |