kinokologo2.pngのあらすじ(笑)


焦り

そのころ帝都ではエノキンが苛立ちを隠せずにいた。
大王の勅命を騙り、各地に駐在する部隊に遺跡調査を命じたものの一向に成果が上がらなかったからである。
それどころか治安の悪化が拡大し不穏な空気すら漂い始めていた。
そして各地からは遺跡調査の報告よりも治安回復のための増援依頼の数の方が日増しに多くなっていった。
今はまだあからさまに叛旗を翻す者こそ居ないものの、各地では小競合いの絶えない状況に陥っていた。
そんな中、帝都では大王の留守を預かる将軍たちが日夜その対応に追われていた。
そして今日も宮殿の大広間では喧々諤々の議論が続いていた。
結論が出ないまま議論が空転し一同に疲れが見え始めたころ、末席に居たアーク・ロンメリン将軍が口を開いた。
「このままでは埒があきませんな、ここは一つ治安の回復を優先して事にあたるべきではありませんかな?」
その言葉でエノキンの苛立ちは頂点に達した。
「何をいう、ロンメリン将軍、遺跡調査優先は大王様の勅命じゃぞ、それに背くと言うのか。」
「勅命とは大王様が出発されてから一月も後に出された命令の事ですかな? それが誠に大王様の勅命であるらな不祥このロンメリン喜んで従います、しかし私には大王様が自ら混乱を招くようなご命令を出すとは思えませぬ。」
ロンメリンは不信感をたたえた目でエノキンを見据えた。
「貴様、無礼であるぞ、儂が嘘をついていると申すのか?」
「いいえ、そのような事は一言も申しておりませんが、それともエノキン殿には思い当たる節でもございますかな?」
「おのれ・・大王様の命に背くと言うのじゃな、衛兵っ反逆者じゃ、こやつを逮捕するのじゃっ。」
エノキンの声に数名の衛兵が大広間に駆け込んで来た。
しかし、当のエノキンが指差しているのが将軍の1人と知るや、どうしたらよいものかと互いの顔を見合わせた。
「衛兵っ、何をしておる、そこな反逆者をとっとと逮捕するのじゃ。」
エノキンの見幕に戸惑いながらも衛兵がロンメリン将軍に手をかけようとした瞬間、エノキンの隣にいた老人の声が大広間に響いた。
「衛兵、逮捕は無用ぞ、ここには反逆者なぞおらん、下がってよいぞ。」
全員の視線が近衛騎士団長ジカール・ボンに集まった。
ジカールは年齢を感じさせぬ太く張りのある声で、戸惑っている衛兵たちに声をかけた。
「エノキン殿は長時間の会議で疲れて些か混乱しているだけだ、心配は無用、騒がせてすまなんだな。」
「待て、衛兵っ、儂の命令が・・」
「エノキン殿っ。」
ジカールの声と迫力にエノキンは言葉を詰まらせた。
「よろしいかなエノキン殿、この場ではロンメリンの言分に理があるとは思わぬか? 列席の諸兄もそうは思わんかね?」
ジカールの問いかけに列席した将軍たちからもあちこちから同意の声が上がった。
「ジカール殿、そなたも大王様の勅命に背かれるつもりか?」
エノキンは険悪な表情でジカールを睨み付けた。
「エノキン殿、先程から勅命勅命とおっしゃるが、この中でその勅命を大王様から直接聞いた者はおるのか? 少なくとも儂は聞いておらぬ、儂は大王様より直接賜った命令以外は勅命とは思わぬのでな。 それにいくら勅命とは言えそれによって帝国が危機に瀕するようでは本末転倒、ここはまず治安回復が第一ではありませんかな?」
一瞬言葉に詰まったエノキンだったが、このままでは増々不利になるだけと必死で打開策を考え始めた。
(そうじゃ、いっその事こやつらの言分を認めて勝手に治安回復に出ていかせれば邪魔者も追い払えるわい)
「ならばジカール殿も将軍諸兄も勝手にされるがいいじゃろう、治安回復に行かれるのならば儂はこれ以上止めだてはいたさぬ。」
「はて?異な事を申されるなエノキン殿、そなたは帝都を丸裸にするおつもりか? ただでさえ遠征に人手がとられている中でこれ以上帝都から人を割くのは無謀と言うもの、それよりも治安回復優先の命令を出すだけで済むのではありませんかな?」
「えぇい、ならばそなたの勝手にするがよいわ、この事は大王様に報告させてもらいますぞ、その時はジカール殿に責任を取ってもらいますからな、努々お忘れめさるな。」
「それで結構、その時はこの場に居る全員が同席のうえ儂が大王様に直接お話いたします故に、ご心配めさるな。」
ジカールの言葉が終わらぬうちにエノキンは怒りに震える足でヨタヨタと大広間を後にした。
その後ろ姿を見送った後にジカールはその場に残った全員に言い渡した。
「聞いての通りだ、各々の領地およびその近隣に駐在する部隊に遺跡調査より治安回復を優先せよと至急知らせを出していただきたい、無論責任は儂が取る故、儂の名で出していただいて結構、異論が無ければこの場は解散とする。」
その言葉を聞いて列席していた将軍たちは一斉に席を立ちほっとした表情で疲れた身体を引きずりながら大広間から出ていった。
そんな中、ロンメリン将軍だけはその場に残ったジカールに歩み寄った。
「ジカール殿、先ほどは危ないところを有り難うございました、しかしご油断めさるな、どうもあのエノキン何かを企んでいるようでなりません。」
ロンメリンはエノキンの出て行った扉を横目で見るとジカールに言った。
「まあそう熱くなるなロンメリン、エノキン殿とて一時の怒りに興奮して引き際を過ったのであろう。」
「ジカール殿は変だとは思いませんか、エノキンの遺跡に対する執着ぶりは。 私は正直申してあの勅命とやらはエノキンのでっち上げだと考えております、もしそれが事実とすれば反逆者は奴の方です。」
「ロンメリン、言葉が過ぎるぞ、まだ証拠があるわけでもあるまい。」
「しかし・・・」
ロンメリンは不満そうにジカールを見た。
「よいかロンメリン、大王様が留守の間は帝都を守り磐石の体制を維持する事が我らの務め、余計な争いは大王様の意にそぐわぬと心得よ。」
「はい・・・承知いたいました。」
「では今なすべき事をせい、せっかくそなたの提案が通ったと言うのに、その言い出しがグズグズしていたのでは皆に笑われるぞ。」
「はい、承知いたしました、しかしジカール殿もエノキンの行動には十分注意されますよう、では失礼いたします。」
ロンメリンはそう言い残すと一礼して大広間を飛び出していった。
その後ろ姿を見送りながらジカールはため息をついた。
「やれやれ、大王様が居ないとこうも士気が乱れるものか・・・・これからは遠征も少し控えてもらわんといかんな。」
そうしてジカールは肩を竦めながら大広間を後にした。
そのころ、大広間を飛び出したエノキンは自室に籠り、考えを巡らせていた。
一時の怒りも次第に冷めてきたのか一つの考えがまとまりつつあった。
「くそぅ、それにしてもジカールの奴め、痛い所を突きおって、危なく計画が台無しになるところじゃったわい。 ここは暫く奴の顔をたてて大人しくしている方がよさそうじゃな、それに向こうの大陸に行った連中が何かを見つけてくればそれでまた一歩前進と言う事になるからの。」
そう呟くとエノキンはカ・フンショウたちが監禁されている研究所へと向かった。


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