訳者あとがき 戸田奈津雄 |
日本のみなさんお待たせしました。 23話に渡ってお伝えしました、ミケくん氏の意欲作はいかがでしたでしょうか? もしこのページから開かれた読者の方がいらっしゃた場合、氏の野趣溢れる物語を速やかに読みはじめられることをお勧めします、 なぜなら私の拙筆ではこの物語の本当の面白さを伝えきれないからです、また後でお会いしましよう。 それでは本物語の著者であるミケくん氏を紹介しようと思うのですが、みなさんも 御存じの通り彼の履歴は深いベールに包まれており詳しくは一般に知られておりません、 それゆえ訳者である自分の知り得た範疇で彼の履歴を紹介させていただきます。 ミケくん氏は先に述べた通り覆面作家であり、訳者である私も先日までは全く彼の私的な情報などを目にする事は有りませんでした。 …でした?そう過去形です。 先日上野の某所で彼と面会する機会に恵まれたのです。 彼は私の想像通りの風貌で、さらにTシャツにジーンズといういでたちで登場しました …まぁ彼の外見に関して、これ以上は読者のみなさんの想像におまかせしましょう。 今回はそれら機会に得た情報とを併せて彼の覆面の側面を照らしてみようと思います。 氏は知日家と知られ大の親日家でも有ります。(実際に小田急線沿線の東京近郊に現在も居を構えております) 今回の邦題である『マジかよっっ?見捨てリ〜ツア〜in能登』は彼のたっての願いで決定されました。(原題はOFF on Summer) また裏表紙にあった「長野冬期オリンピックに捧ぐ…わきゃねぇだろ」の一文はやはり彼の願い出により削除させていただきました。 独特な表現など邦訳にも積極的にアドバイスをいただきました。 また熱烈なマッキントッシュユーザーでもあり、その様なコミュニティに積極的に参加しております。 気付かずにネットのどこかで会話を交わした事の有る読者もいるかも知れません。 これ以上のリークは契約上規制されておりますので、本文より汲み取っていただく事になります。 その作業を楽しんでいただけると訳者としても訳し甲斐が有ったというものであります。 これ以上著者の事を書くわけにはいけませんので本物語をについて書かせていただきます。 先ずこの物語を語る上で注目しなければいけないのは、本文中にそこかしこにふり散らされた叙情的な表現を挙げねばならないでしょう。 とかく彼のウイットにとんだ文体は常人には理解できない様な展開を遂げる事が有り、彼の物語の独特な味わいを醸し出します。 しかしながらそれらのなかに一輪だけ咲く白百合の様な「ヒグラシの声に聞きいる夏の昼下がりだった」などの一文が、 さり気なく、かつ切ない響きを読む者に与え、この物語をただ単なる電波系のドキュメント等とは一線を画し、 彼独自のジャンルの物語として成り立たせているので有ります。 またこの物語に登場するキャラクターの味わい深さも忘れる事は出来ません。 傍若無人な車の運転をする主人公、なにかと水を飲みまくり汗ダルマになる隊長もあれば、目標の目の前で送り返されてしまう副隊長、 高速を使わずに独り水戸からバイクで飛ばして来る強者、強制的に休みを取らされてしまう者、突然参加する楽天家、 さらに待ち受ける側の写真家軍団も強烈な個性を持っています、一人は廃屋満タン荘の貸し主で人の良い頼りになる大柄の漢、 一人は大切な仕事をキャンセルしてしまうランチゃに乗った「なまちょろい水着」愛好家のやさ髭男。 彼等が繰り広げる破茶滅茶、且つまとまりのない行動に、いつの間にか強制的に物語に引き込まれ行く様な感覚を 覚えたのは訳者だけではないと思いますが如何でしょう。 そこで「何に惹かれるのか?」と自問してみたところ、「かれらのまとまりのなさこそ自由気侭そのものでありそれに憧れている」と感じ、 さらに物語を読み進むと「ネバーランドの夢のように醒めて欲しくない」と願う自分がいる事にも気付きました。 そして「なぜだか別れのシ〜ンはいつだって不器用でぎこちない。」の部分で夏の儚い夢が醒め出す事をまるで 曙光が東の空にかかるように感じさせ 「見渡すと砂浜には僕らの足跡が残っていた。たぶん次の波がくれば消える足跡がそこに残っていた」 の一言で水平線に沈んでゆく物悲しい夕闇の訪れを告げられた様な気分になりました。 その闇のトンネルを抜ければそこには現実と言うまた別の世界が待っている。 なんと素晴らしいのでしょう。 なんと気持ちの良い男達でしょう。 今後の彼等の活躍を期待して訳者は筆を置きます。 読者の方も同じく期待していただけると本望です。 またミケくん氏の続編を熱望する読者の一人でも有ろうと思っている次第であります。 それではまたどこかで。 1998/8/23 東京にて |