Title2.PNG


第一話「プロロ〜グ」
1999年8月6日00:00 アラスカ アップルゲイツ
掛け替えのないものが、あっとゆう間に吹き飛ばされた。
その白い紙きれは吹雪の中でまるで意志を持った生き物のように
一度大きく風に乗り舞い上がると遠く雪の中に見えなくなった。
近くにいた犬が小さく唸るといたずらにそれを追った。
ミケくんは、虚ろな目で犬に戻るよう命令すると、首を振ってのろのろと荷物をまとめた。
すこし歩いては小高い丘の中腹に蹲り、遠くアップルゲイツの方角をあてずっぽうに探した。
北半球はいま真夏の、とはいえ異常気象の続いた1999年夏のここでは軽く氷点を越えていた。
極点を目指しここまで来たのだが、人員、装備や地図無しにはもはやこれ以上先には進めそうにもなかった。
不意に強くなったブリザ〜ドに蹌踉めき、ひどく咳き込むとやっとの思いで近くの木に体を凭れた。
これでは当初の目的どころか帰ることもままならない・・・
目的を達成できない悔しさも思いつかないほど今の状況は過酷だった。
隊の仲間達とイヌ橇は昨日突然の大雪崩で遥か麓に流されてしまい、
その時運良く一人難を免れたミケくんの必死の捜索もむなしく
2匹の犬の他には生存者は発見できなかった。
辛いが悲しんでる暇などなかった。
橇に積んであった装備の他、食料のほとんどは雪崩で深い雪の中に埋もれてしまい、僅かな手持ちの食料だけで
この気象状況の中、50キロも離れたアップルゲイツの町まで戻るということは気の遠くなるような話であった。
磁石も橇も、そして頼りになる地図さえも失ってしまった。
「なんてこった」初めて彼は弱音を吐いた。
犬が不思議そうに彼を見ていた。
手近の潅木を杖がわりにして、彼は立ち上がると、犬達はさも嬉しそうに彼を見上げていた。
氷点下20度の大地は彼の伸びてきたヒゲや睫毛を容赦なく華奢な氷で覆っていた。
このまま吹雪の中にいつまでも立ちすくんでいるわけにはいかない。
すでに一刻を争う時間との戦いなのだ、歩くしか残された方法はなかった。
とはいえ、ここ数日のアクシデントで彼の体は、立っているのが不思議なくらいに疲労の極に達している。
いっそう激しさを増したブリザードを透かして彼は純白の平原を見下ろした。
すると50mほど先の岩棚に雪に半ば隠れるようにしてポッカリと崖に穴が開いているのが目に留まった。
凍りついた彼の口元に力なく笑みが拡がった。
すぐさま振り返って犬たちに付いてくるよう手で合図をすると、用心しながらその洞穴を目指した。
ギシギシと足下で雪を踏み締める音は、吹雪の唸りにかき消されていく
獰猛な熊の住み家かもしれない。
用心に越したことは無いと、彼はヤッケの内側から銃を静かに取り出した。
緊張した気配に気づいたのか、犬たちもどこか忍び足で彼の後にそろそろと続く。
嵐の中這うようにして、ようやく岩棚の上まで辿りついた。
銃も機能するかどうかあやしげだなと不安になった。
うつぶせになったまま顔をせり出して岩棚の下の様子を伺うとなにやら足跡のようなものが積もった雪の上に点々としていた。
彼は心臓を締めつけられるような気がした。自然と動悸が早くなるのがわかる。
怖くなり、つい後ろを振り返ると、やはりただならぬ気配を感じたのか犬たちが唸りをあげていた。
再び顔を岩棚から擡げのぞき込むようにして、あたりを窺った。
足跡は目の錯覚ではなかった。
ミケくんはどうしたものかと躊躇していた。
敢えて危険を承知でこの洞穴で休息を取るべきだろうか?
こっちには銃があるし、犬たちもいる。
もし熊の住み家であっても、最悪の場合を想定しても勝算はあった。
運がよければたとえ熊だとしても、追い払ってしばし暖を取れるのではないかという思いもあった。
現在の疲労困憊の彼らにはどうしても休息が必要だった。
意を決して彼は犬たちに一瞥をくれると、岩棚を降りる決意を決めた。
足場のよさそうな岩を選び銃を構えながら、彼は身を屈めてするすると降りていった。
相変わらず猛威をふるうブリザードのために視界は1mもなく、見えないベールのように不安と恐怖が彼の背中に降りてきた。
彼と犬たちは素早く洞穴の横の茂みに身を隠しあたりに動くものはないかと目を凝らした。
もし異常があれば、まず犬たちが気づいて騒ぐはずだ。
犬たちが何かを察知すれば彼は冷静にそのものに銃の照準を合わせれるだけでいい、問題はこちらが先手を取れればいいのだが・・・
ほら穴は見たところ自然にできた風穴のように見えた。
遠いところで雪ウサギが跳ねた。
犬の一匹は、ひと声低く唸ると追いかけていった。
彼はあきれて舌打ちした。
その時、もう一匹の犬が鋭く吠えた。
その目は洞穴を挟んで反対側の茂みを睨んでいる。
即座にガサっと何かが動くと、たまらず犬は吠えながらその茂みに突進した。
見えない何かと揉み合ってる凄ざましい唸りごえが聞こえる。
雪ウサギを追っていた犬も異変に気づき茂みに飛び込んでいった。
心臓が早鐘を打ったようになり、前に構えた銃を持つ手が白くなっていった。
悲鳴を上げて最初の犬が投げ出されてきた。
みるみる純白の雪が紅色に染まった。
彼は身じろぎもせずに唖然とそれを見ていた。
やがて二匹目の犬も鋭い悲鳴をあげると見えない何かに跳ね飛ばされて乱暴に薮から転がり出てきた。
最初の犬は、軽傷だったのか立ち上がると、二匹目の犬に駆け寄った。
彼は小刻みに早く息を整えると雪に目を凝らして距離を詰めた。
白夜とはいえ、遠く雪原の彼方に日は傾き、辺りはうっすらと紫色の黎明に覆われていた。
この世のものとは思えない地獄から聞こえてくるような低い唸り声が凍えた空気を裂いた。
波のようにビリビリと皮膚に食い込んできた。
二匹の犬は怒りを露にして体制を整えると我先へと再び茂みに突進した。
慌てて彼は身を起こし無我夢中で薮の中で動く何かに向かって二度三度発砲した。
乾いた銃声が耳朶を打つ。
薮に躍り込むばかりの犬は驚いてビクっとその場で振り返った。
ためらわずに彼は、暗やみの中の何かに向けて引き金を引く。
手ごたえはあった。
苦しそうな呻き声とともに茂みが不規則に揺れている。
銃声に驚いて戦意を喪失した犬は、もはや自分の役目は終わったとばかりに彼の足下についた。
魔物のような叫び声が緊迫した大地を駆け抜ける。再び犬が唸りをあげた。
草の擦れる音とともにその”何か”の正体がゆっくりと茂みの中から現れた。

大きく茂み全体が揺れると暗がりから3m 程の大きさの怪物がノッソリと這い出てきた。
それは、今まで見たコトもないような巨大な灰色熊だった。
ミケくんはその灰色熊のあまりの大きさに愕然とした。
犬たちも初めてみる怪物に恐れをなして彼の陰に隠れるようにして唸っていた。
銃弾が命中しているためだろう傷を庇うようにして体制を低くし、すぐにでもこちらに襲いかからんばかりの
怒りに燃えた表情だった。彼は圧倒的な灰色熊の視線に足が竦んだものの、気を取り直し熊に向かって銃を構えた。
極寒の吹雪の中に身体を晒しすぎていために凍えた手では、うまく狙いを絞れない
灰色熊は再び、大きく立ち上がると低く沈まない太陽もさえぎるほどだった。
灰色熊の行動はミケくんの意表をついた。茂みから出るなり大きく横に飛んだのだ。
その拍子に雪片が目に入り、視界がなくなった恐怖に、持った銃を振り回した。
慌てて目を凍てついた右手でぬぐうと灰色熊は目の前から消えていた。
犬があらぬ方向に向かって吠え立てていた。
振り向きざまに巨大な熊が襲いかかってくるのが見えた。
彼は銃を振りかざすと慎重に狙いをつけた。
みるみる熊との距離が縮まってくる。
犬たちが、先程の汚名返上とばかりに飛び掛かった。
10mの至近距離で熊が一瞬ひるんだ。
彼は引きがねを絞った。
大音響で銃声が大地に谺した。
しかし弾は熊の体を掠めもしなかった。
凍てついた手がどうしてもいうことをきかない。
手負いの熊はそれに臆すどころか、恐ろしい唸り声をあげて白い息を吹き出しながら、
纏わりつく犬を振り払うと姿勢を低くして突進してきた。
彼は大きく叫ぶと、今度こそはと両手で銃を持ち直し引きがねを絞った。
銃声はしなかった。
妙に乾いた音がすぐさまブリザードにかき消された。
弾を撃ち尽くしてしまったのだ。
彼の顔から血の気が引いた。
彼は役に立たなくなった銃を熊に投げ付けると悲鳴を上げて駆け出した。
背後から強力な体当たりを喰らい雪に投げ出される。
起き上がる間もなくまた跳ね飛ばされた。
口の中に血の味が拡がってゆく。
全身に恐怖で鳥肌がたった
熊が吠えかかる犬たちに気をとられた隙をぬって彼は力なく立ち上がるが、雪に足を取られしりもちをついた。
追いすがるようにして熊の一撃が襲い掛かる。
彼はもんどりを打って倒れ、足に激痛が走った。
犬たちの吠える声がずいぶん遠くに聞こえるような気がした。
彼は次の攻撃に備えて身を堅くした。
薄暗い大地に身の毛もよだつような咆哮が轟いた。
もはやこれまで・・・
と、その時に人の声がしたような気がした。
懐かしい人の声がしたような気がした。

茂みの向こうでなにやら気配がした。
続いて不思議な事に灰色熊は動作をピタリと止めた。
見えない糸に操られるように、茂みを振り返るとブリザードは一層激しさを増して、目の前に立ちはだかる熊の姿も見えないくらいだった。
熊は足下に蹲るミケくんを荒々しく眺め下ろすと不器用にきびすを返し、何事もなかったように茂みの方に向かった。
呆気に取られていたミケくんは、逃げることも忘れその場に座り込んでいた。
とにかく、目に見える危機は脱したように思えた。緊張の糸がほぐれると、どっと疲れが熨しかかってきた。
犬たちもまるで魔法にかかったようにおとなしく座っており、その面持ちは何事もなかったように落ち着いていた。
その声の主は慎重だが手慣れた感じで、茂みの中をこちらに向かってきた。
姿はまだ見えないのだが、何かが近づいてくるのは気配で感じられる。
彼は、魅せられたようにぼんやりと茂みの中の声の主を目で探した。
ガサガサと最寄りの薮が動き中から小柄な老人が杖をつきながら出てきた。
その面持ちには長く厳しい人生が皺とともに深く刻まれていた。
気づくと先ほどまでの吹雪はうそのように止んでおり、あたりは犬たちの規則的な呼吸の音と老人の踏み締める足音だけが静寂を壊していた。
老人は風変わりな格好をしており、いつの時代のものかまったくわからなかった。
白髪だらけの長い髪を後ろに束ね、下の眼光は鋭く、眼窩は深く落ち込み、憂鬱そうな表情には明らかに警戒の色が顕だった。
ミケくんの10m手前までくると、用心深く立ち止まりこちらの様子を窺っているようだった。
気づくと雪に残った血の痕も消え、足にはハッキシと焼けるような痛みは残るとはいえまるで、夢でも見ているようだと思った。
吹雪を通して老人の姿をもっとよく見ようと目を凝らした。
「何者だ?君は」突然静寂をやぶり、老人はその姿とは不似合いな力強い声音で問うた。
驚いたことに、それは微かなフランス語訛りのきれいな英語だった。
あれほどの脅威だった灰色熊はどこかに姿を消してそれっきり現れなかった。
なんと答えたものかミケくんは躊躇していた。とにかく、何かいわねば・・・・
「怪しい者じゃありません、黒点の観測のために、観測基地のあるノロシ〜島に向かう途中でひどい雪崩に巻き込まれまして・・・」
そこまでいうと溜め息をついた。
老人はなんの表情も見せずに、黙って先を促した。
長い膝までのロ〜ブの様な衣装に金色のボタンが印象的だった。
ミケくんは立っていられなくなり、その場にしゃがみこむと頭を振ってうなった。
「ほかの隊員たちは、雪崩に呑まれて行方不明になった。私とこの犬たちしか助からなかったんだ」
目に一瞬哀れみの影が過ったが、老人はまだ沈黙を守った。
彼は疲労の極に達していたが、幸か不幸か極寒の外気は彼に傷の痛みを忘れさせてくれた。

老人が身じろぎもしないで見つめているので、仕方なくミケくんは先を続けた。
「それで、当然ノロシ〜島はもはや不可能だ、あきらめなければなるまい。アップルゲイツの町をしってるか?」
途切れとぎれに話しかけたが、老人はただ肩を竦めてみせた。
「とにかく、少し休ませてくれないか?」
ミケくんがそれとなく視線で洞穴を示すと老人は、鼻を鳴らしつぶやいた。
「まぁ、よかろう」ミケくんにはそう聞こえた。
犬たちは心配そうに足下でミケくんを見上げていた。
老人の顔には、異様に大きな鼻と長く蓄えた髭以外はこれといって特徴がなく羊皮紙のように白く血の気がなかった。
その奇妙ないでたちには、どこか見覚えがあった。
第一この老人は何者で、そしてなぜこんな所にいるのだろう?
老人の表情からは何も窺い知れず、ぼんやりと考えながら足を引きずり歩を進めた。
気づくと幸い風は収まって、小雪だけが視界を悪くしていた。
雪原の稜線には遠く薄紫の太陽が空にぶら下がるようにして輝いていた。
この年、1999年は「恐怖の大王」が来るらしいという”ヨタ噺”がまことしやかに語られていた。
洞穴に向かうよう老人は無表情で指図した。
老人の指の先遠くでまた雪ウサギが跳ねた。
まだそこかしこに血の痕が点々としており、格闘の凄まじさを留めていた。
先程の灰色熊との死闘を考えると周りは不自然なくらいに静まり返っており、それはまるで夢をみているかのようだった。
老人は振り向きもせずに洞窟の方へ先を歩いていた。
老人の後を追う途中ふと膝が折れてその場にしゃがみ込むとミケくんは深いため息をついた。
ひどく腹が減ったのでポケットの中を弄ってみた。
すぐさま手応えがあった。
ビスケットの小さな袋を引っ張りだすと凍えた手で袋をあけた。
ビスケットの香ばしい匂いがたまらなかった。
餓えた獣のように彼はそれを頬張った。
犬達がすぐさまビスケットの匂いに騒ぎ始め彼にまとわりついた。
おまえたちも仲間だおね。
最後の一かけらを正確に割るとそれぞれの犬に投げてやった。
犬たちは小さく歓喜の声を上げると瞬く間に最後の食料は消えてしまった。
離れたところで老人がこちらを見ていたので、彼は犬に合図して老人を追った。
程なくして洞窟の入り口が雪を透かして見えてきた。
きれいなア〜チ型に岩が切り込まれていて、その入り口には何やら大きなものが塞いでいる様に見えた。
どうやら風雪を凌ぐドアらしき物だった。
老人はその前でしばらく動かなかった。
どこか落ち着きがなく周りをきょろきょろみたり、手が震えているのが見て取れる。
唖然としてポケット探るやら、足下の雪を引っ掻き回すやらでパニック状態だった。
ミケくんにはいったい何が起こったのか皆目見当がつかなかった。
遠く白夜の暮れていく淡い光が、いつしか老人の小さな影を長くしていた。

「どうしたんだい?いったい」思わず身を乗り出して声に出た。
その声にはっとして振り返った老人の顔には血の気がなく、その四肢はガタガタと震え
もともと蒼白いかおが更に白くなり、目は異常に充血しており、さきほどの雪ウサギも真っ青だった。
状況に似合わぬ威厳のある声でいった
「ロックドアウトじゃ」老人は恥ずかしそうに白髪頭を掻いた。
なんの事か即座にわからなかったのだが、ようやく飲み込めてきた。
「鍵なんか掛けてんのかよっっっっっ!?」ミケくんは寒さと疲労も忘れ叫んで岩棚にもたれ掛かった。
「鍵、中にいれたまんま外にでちゃったから・・・」老人は一転してうつむいて消え入るような声になっていた。
「オ〜トロックかいっっっっ!?」ミケくんは一気に疲れがどっと出て、ズルズルとその場に崩れ落ちた。
「でもだいじょうび、予備がアルから」ニッコリ笑うと老人は口に手を突っ込むとカン高い口笛を吹いた。
すると、すぐさま脇の茂みが揺れ、なんとあの灰色熊が飛び出してきた。
ミケくんと、犬達は驚いて大声を揚げるとその場で腰を抜かして蹌踉めいた。
勢いよく犬たちが吠えまくる。灰色熊は怯んだ様子もなくズシズシとこちらに向かってくる。
仁王立ちになった灰色熊の二つの目がギョロリと光る、ミケくんと老人がその巨体の影に入るほど近づいていた。
老人がズズイと一歩前に出た。
ミケくんの前に進んで軽く手を上げた。
ミケくんは、きっと「落ち」が用意されてるに違いないと確信に似たものをもっていた。
なんかのお約束だろ・・
驚いたことに灰色熊は凶暴な面持ちのままチッと舌打ちすると、
ノロノロとポケットに手を突っ込んで金属製の鍵をとりだした。
深く毛皮で覆われたその顔からは表情が窺えないが、またかよっったく、という風にも見えた。(あの熊と仲間なんかいっっっっ?!)
老人はミケくんに振り返ると初めて笑顔で云った。
「灰色熊のおかげでやっと、入れる(灰色)Bear」
凍えるほど寒くて笑えなかった。
第一おでたちは何語で話してるつもりでカマしてんだろ〜このジジイ?と思った。
老人は熊にもう帰ってもよしと手で命令した。
すると熊は不承不承という呈で唸ると薮の方へ戻っていった。
やけに重々しい出所不明の軋み音とともに老人越しに洞窟の薄暗い内部が垣間見えた。
老人が入り口のロウソクに火をともすとぼんやりと毛布だの机だの散乱した書物の山だのが浮かびあがった。
犬たちは入ったものかどうか怪訝そうな表情でミケくんの顔を見ていた。
母国から遠く離れた地で、誰も彼もが疲れていたのだった。
自然にできた洞窟にしては妙に人間臭かった。
老人は座るように手で勧めるとミケくんはがっくりとその場に崩れ落ちた。
聞きたい事はたくさんあったのだがとりあえず老人に聞いた
「名前は?」
老人はもったいつけたような顔をして髭を撫でてみせて得意げにいった
「シレトコダムス」
どんな反応を見せるのかと探るようにミケくんの顔をのぞき込んだ。
ミケくんは無表情のまま
「おでの名はミケくんだ」
といったので、内心シレトコダムスと名乗った老人はがっかりしたようだった。 
気を取り直して老人が口を開いた
「途中で残念だったな」
ミケくんは、黙って肩をすぼめてみせた。
犬たちは暖かい場所を探して落ち着いて転がっていた。
「こんな奥地で老人が一人で暮らしてるなんて妙だと思っただろう?」
老人が机の上のロウソクに火をともした。
部屋の中がいくぶん明るくなったので、ミケくんは目を細めた。
ミケくんにとってそんなコトはそうでもよかったのだ。
しかし老人は構わずに続けた。
「本を書いているのさ、ほれっっ」とみすぼらしい装丁の本を放ってよこした。
ミケくんは慌ててそれを掴むと、題名に目をやった。そこには古めかしい字でこう書かれていた。
『シレトコダムスの予言しちゃうモンねヽ(^。^)ノ』一瞬にしてミケくんの全身に脱力感が走った。
老人はしたり顔で、笑っていた。
思い出したように、老人は立ち上がると
「そだそだ、コロちゃんにエサやってかなきゃ」と
散らかってる書物の山をよけながらドアの方に歩み寄った。
その時に老人の歩がとまった。
一瞬の静けさが本を眺めてるミケくんの手を止めた。
振り返りざまに老人は悲痛な表状をしながらフランス語訛りの英語で呻いた。
「戸締まり用心も行き過ぎはダメだおっ、アンタっっっっっ!!」
疲労で遠のく意識の中で、訳もわからぬままそう聞こえたような気がした・・・・
1999年、それは魔王が降りてくる最後の夏だった。

マジかよぉっっ?!見捨てリ〜ツア〜 再びズォォオオおおおんん
笑ってやっちくり〜ヽ(^。^)ノ↑ダメなんだとよタグは


back.pngmokuji.pngnext.png