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第十話「団長って、もしかして・・・」
1999年8月7日03:30 日本 関越トンネル
ゼンソン号の運転が団長に変わってからは、コトの外順調だった。
窓を開けるとひんやりとした外気がまるで細い糸のように車内に流れ込んでくる。
路面は薄く濡れてはいたが、先ほどの豪雨は嘘のように止んでいた。
湿った路面はまだ見ぬ太陽の薄明りを予感し始めた空気を跳ね返して銀色に輝いていた。
「まだココなんかい!?」そんな能登待ち伏せ組の怒号が聞こえてきそうな萌えるような夏の朝だった。
ここから東松山を抜けて花園・藤岡ジャンクションまでは一気に走り抜けた。
明け方が近いということもあって、車内は眠たげな空気が覆っていた。
ベンチレ〜タの上げる規則的な音にミケくんはいつしかウトウトし始めた。
「去年はココで失敗したんですよね」沈黙を破って団長が口を開いた。
去年の遭難17時間の旅の第一級戦犯であるミケくんは、速攻タヌキ寝入りで聞こえないフリをしていた。
「今年はやめときましょうね、変な道行くのは」
ジャンクションを横目で通過しながら団長が追い打ちをかけるようにノベる
「Ψ(`o´)Ψ悪かったなぁ、変な道行ってよぉ」たまらずミケくんがもそもそと起きだした。
ゼンソン号は道がよくなったせいもあり、車影の少なくなった早朝の関越を140kmでまだ見えぬ能登を目指した。
いままでの苦労や怠慢が信じられないかのように、快調に距離を稼いでいた。
前橋・渋川を、あっという間に駆け抜け、一路月夜野に向かった。
ツイここらに来るとミケくんはガスゲ〜ジが気になり何気に目をやった、ガスはまだ余裕があった。
後部座席からは仮死状態の隊員達の話し声がとぎれとぎれに聞こえてくる。
もっぱら"ココに居ない"仲間の話しだった。
ときおり笑い声に混じって、心電図のように爆笑が轟いた。
ミケくんが前方にふと目をやると、かの悪名高き「関越トンネル」が迫ってきていた。
一気に闇を通して轟音が車内の空気を震えさせ、聴力を失ったミケくんは一瞬皆の声が遠くになったように感じた。
長い長いトンネルは行けども行けども延々と続いた。
あまりの轟音に、話を続けることを諦めた団員達は、身じろぎもせずに目をつぶり、
誰も彼もが、静かに人生の事でも考えているようなムジカシい顔つきになっていた。
気づくと現実離れした黄色い照明に浮かび上がっては消える団長の横顔にはなぜか薄ら笑いが現れていた。
目の前を車幅いっぱいにガ〜ドレ〜ルと細いポ〜ルが時速120Kmの高速で流れていく。
ミケくんはことさらこの狭いトンネルの一車線が嫌いだった。
走っているうちに思わずキレそうになるからだった。
そういえば、ミケくんがまだ運転するべき距離を残しているにもかかわらず、団長は半ば強硬に運転交代を申し出て、
意気揚々とゼンソン号に乗り込んだ時のえもいわれないようなハシャギぶり・・・・それが気になった。
一つの仮説がミケくんの脳裏を掠めた。
ひょっとして団長は・・・ココを走りたかったのかも知れない・・・
突然背中に悪寒が走った、とっさに振り向くと後部座席では、あっちゃんが寝息を立てて爆睡しているのが見えた。
もの問いたげなheadsの目線をかわし、MBXへと視線を移す。
誰も何も知らないようだった。
ミケくんの不安は再び団長の横顔に視線を戻した時にはっきりと線を結んだ。
その目は虚ろになり、口元には歯をのぞかせ意味不明の言葉を呟き、やや前屈みになり、茶髪は吹き込む風に乱れ、
汗ばんだ両手で愛おしむようにハンドルを包み、恍惚をした表情はまるでトンネルそのものを楽しんでいるかのようだった。
『ト・・・トンネルフェチ』ミケくんは聞こえないような小声で漏らした。
また一つ団長のシミツを垣間見てしまったのだと感じた。


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