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第一話「黒い計画」
2000年8月14日22:00 チムニー
この日、先週の能登遠征から帰ってきて初めての会合が催された。
申し分けばかりの土産物を渡すためと旅行中撮った写真を観賞しょうという集まりだった。
いつも秋葉で集まる時に利用している居酒屋は、世間ではお盆休み中ということもあってか普段より閑散としていた。
真っ黒に日焼けした団員は、浴びるようにビールを煽り、茹でカニの腕を振り回し、口角泡を飛ばして盛り上がっている。
例によって、皆が揃うころには宴もたけなわ、スライドを交えた旅行話に花が咲いていた。
全行程を記録した500枚近い写真集が、次々とノートパソコンの画面に映しだされては消えていった。
幸いな事に、旅行中は好天に恵まれ、色とりどりの浜辺や街の風景など夏の能登の景色がこれでもかとばかりに想い出とともに再現されていく。
時折、皿に大盛りになったカニが運ばれてきては歓声が上がった。
それに手を伸ばしながら画像に埋め込まれたキャプションを読み上げるミケくんの声がとぎれとぎれにもなる。
いつものようにハプニング続き、画面ではカニカニ団のオヤクソク画像がコミカルに展開されていた。
今年は団員の参加も多く、なかなか普段は会えない遠距離団員の姿に懐かしむ声が幾度となくあがった。
集まった時と同じように去っていく時もバラバラであり、画面は去っていく団員の後ろ姿を映し出していた。
「終わり〜!」全ての写真を見終わると貧乏性のミケくんが液晶の電源を落とすと誰に言うとも無しに呟いた。
「あ〜あ、また行きてぇーなぁ・・・」
「ですねぇ…青い海、どこまでも続く砂浜」すぐさま同意する言葉がミケくんの耳を捉えた。
それは聞き慣れた団長の声だった。
「今度の週末に行っちゃいましょうか?(藁」
一瞬重い沈黙が団員たちの背中にのしかかってきた。何かの聞き間違えだろうか?
はたと持っていた箸を持ち替え、居心地の悪い空気が団員たちの間に流れ始めた。
見上げると、ジョッキを片手に微笑んでいるポスターの中山美穂と目が合った。"…ジョークよねぇ?"
しばらく間を置いて、皆顔を見合わせて笑みがこぼれた。
「あははは (^^ゞ」
「えへへへ (^^ゞ」
「あれ?あれ?何かワタシまずいこと言いました?」
大きな音を立てて空になったジョッキをテーブルに置くと、ベロベロに酔っ払った団長は通りがかった店員を呼び止めた。
「あ〜あ、マジョでもう一度行きたいよね、能登」意味も無くミケくんはノートパソコンの背中を撫でていた。
「じゃ〜行きましょうよ!このさい。」5杯目のジョッキを離した団長の口元にはサンタの髭のような白い泡が踊っていた。
「行く?マジョかよぉ〜」とは言ったものの半信半疑といった表情のミケくんは団長の真意を計りかねていた。
団長のどこまでも澄んでアルコールで血走った目、大袈裟につり上がった眉、
そして半身身を乗り出してテーブルを叩いて自らの言葉に一層力を込めた。
「メチャクチャウケますよ、絶対に」カニの足を銜えた団長の口が、不気味な音を立て上下に盛り上がっていった。
「殻ごと食ってるよ・・・(<●> <●>;)をぃ」気迫に押されてミケくんは後ずさりした。
「ゲークラが怖くてどーすんですか?ここで行かなきゃ男じゃないっすよう!」
やおらテーブルに飛び乗ると団長は大きく天井を指さし、思ったより低かった天井にしこたま打ち付け、突き指した手を押さえてウンウン蹲って唸っていた。
暴走し始めた団長を遠巻きに息を殺して見守る団員たちが、耳を疑うような団長の発言を聞いたのは次の瞬間だった!
「誰も二週間後にまたやってくるだなんて思いやしやせんよ、(* ̄∀ ̄)ニァ」
彼らの席だけ、一瞬静まり返った。
堰を切ったように周りの騒音が傾れ込んできたように感じた。
「んでもさあ、人が集まるかな…」ミケくんがそう言うと、皆をみまわした。
誰も彼も乗り気ではないのは手に取るように伝わってきた。
「行きましょ〜うよぉ〜皆さ〜ん」雰囲気を察したのか、団長が皆に誘いかける。
皆うつむいたまま、誰ひとり団長と目をあわす者はいなかった。
「なんか・・・すでに決定の勢いなのが気になるんだが・・・」ミケくんはまんざらでも無い様子で応えた。
「なにいってんですか!そんな弱気でどうします!決定ですよ決定、会社なんか休み取りまくります」
鼻息荒くせり出した団長の口からカニの足が見えかくれしているのが不気味だった。
「暗号名は何にしましょう?」団長の血走った目に血管が浮かび上がっていく。
「さうさな・・・思い当たるフシも無いのに復讐されるって事でリベンジってのはどうよ?」
ミケくんが搾り出すような低い声で唸った。
「では、作戦暗号名は"リベンジ"!!くぇっっていぃ〜〜!!!こうなったら仙台組も巻き込みましょう」
高らかに宣誓する声は、紛れもなく神聖黒十字カニカニ騎士団初代団長その人であった。
世界中でこの計画を知っているのは、ここに集まった者だけである。
厳重な箝口令が敷かれ、悪質だが行きあたりばったりの作戦だけが鬼のように独り歩きしていくのだった。


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