その日、私は愛車の王子(GTI-R)をピカピカに洗ってワックスをかける為、実家に帰るところでした。
とある十字路で、小・中・高校時代の同級生だった親友とバッタリ逢ったのです。
「きゃあっ! 久しぶり、元気だった?!」
彼女は暫く旦那さんの都合で栃木のほうに住んでいたので、本当に久しぶりです。
でも私には明るいうちに王子を洗車・ワックスかけという使命があります。その事を彼女に告げると、今日は実家に泊る予定との事。自分と双子の娘を連れて来たそうです。
時間が遅くなっちゃうから、家族に悪いよ・・・私が言うと、今日はその家族が旅行に行っていて、留守を預かる約束だそうです。なんて良いタイミングだったのでしょう!
私達は「洗車を終えたら彼女の実家のほうに向かうから」と約束をして別れ、私は自分の実家へと向かったのです。
実家の庭先で王子をピカピカにし、母上に「ろくに実家に帰ってこない親不孝な娘だ、近くに住んでいるのに」などとお小言を頂きながらも時間を気にしていたのですが、とうに22時を廻っています。
そこで両親に帰る事を告げ、彼女の家に向いました。
彼女の家はアパートなのですが、生憎と近くに駐車スペースがありませんでした。しかたがないので両方の家の中間地点にあるアパートの前の広場に王子を停めて、歩いて行く事にしました。
彼女の家に着いて、色色話をしました。懐かしい話とか、馬鹿話とか。まるで昔に戻ったようでした。
お互いが仕入れていた同級生の今などを話していて、気がつくともうすぐ4時です。空が明るくなってきています。
「そろそろ帰るね」。彼女に告げ、私は彼女の家を出ました。朝の空気が心地よく、私は駐車スペースまで遠回りであるけれども、海の方を歩いて行く事にしたのです。海辺を歩くなんて、久しぶりでドキドキします。今の気分にピッタリです。
海まで歩いて自分の実家の前を通り、犬ちゃんに挨拶をしながら王子の元へ歩きます。
ところが。
王子を停めておいたアパート前の広場に、王子の姿がありませんでした。
我が目を疑いました。それから、停めた場所を勘違いしたのかと、もう一度彼女の家に向って歩いてみました。でも、王子の姿はありません。おかしいです。
広場は駐車禁止ではないので、レッカー移動されたというのは考えられません。泣きそうになりながら、もう一度広場に戻ります。
すると、王子を停めたその同じ場所に、1台のアストロが停まっていました。乗っているのは海によくいる風な髪の毛が長く茶色な兄さんと姉さんです。通常であれば決して声などかけないのですが、今は非常時です。王子の行方がかかっているのです。躊躇ってはいられません。
「あの・・・」
私は事情を2人に説明しました。そして、何時からここに停まっていたのかも聞きました。
話を聞いた2人は口を揃えて言いました。「きっとあそこに持って行かれたんだ」と。
聞くと、最近この辺でそういう事件が多発しているとの事です。厭な世の中になったものです。
すると姉さんの方が、車に乗せて連れて行ってくれると申し出てくれました。ありがたいことです。まだまだ世の中捨てたものじゃないのですね。
兄さんの方は、待ち合わせの相手が来たら合流するとの事。どうやら2人の友人も、昨晩同じ被害に遭っているそうです。そういえば、王子の隣に駐車してあった派手なレモン色のチェイサーがなくなっています。
先に出発する事にした姉さんと私は、海の方に向って車を走らせていました。私の実家の前を通る道です。
すると、大型のトラックが突然駐車場からバックで飛び出してきました。「危ない!」 咄嗟の急ブレーキ、危機一髪です。危うくぶつかってしまう所でした。大型トラックはそんな私達など気が付いていないかのように、目の前の畑の中で豪快にUターンをし、私達の進行方向に向って走っていってしまいました。
「・・・驚いたねぇ・・・」心臓がまだどきどきしています。姉さんも少し顔色が悪いです。
少しして、私達は出発しました。王子が何処でどうしているのかがとても心配です。心配です。
走っているうちに、実家の前を通りました。すぐ近くのカーブになっている所に歩道橋があるのですが、そこに何か黒い色と、レモン色があるのが、目の端に映りました。
「止めてッ!!」
私は叫び、まだ完全に停まっていないアストロから夢中で降りました。歩道橋に駆け寄ります。
そこにあったものは、前・真ん中・後部分に3分割されている、王子の姿でした。
他に、レモン色のチェイサーと、ランドクルーザーの姿もありましたが、ろくに目に入りませんでした。目の前にある王子の信じられないような姿だけが、やけに鮮明に目に飛び込んできていました。
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