第1版投稿:2000年4月19日

 

一刀両断、景気見通しは上方修正、経済環境が大きく変化−−金森 久雄
(99/11/8)(日経新聞)

 国内総生産(GDP)は一−三月、四−六月とプラス成長となったが、民間のエコノミストには悲観的な人が多い。今後また落ち込み二番底をつけるという人も少なくない。これに対し経済企画庁では現行の成長率見通し○・五%を上方修正して○・六−O・七%に改めると伝えられている。私は上方修正に賛成だが、成長率は企画庁の見通しよりもっと高くなると思う。

 経済の環境はこれまでと大きく変化しているのだ。

 九七、九八年度のマイナス成長を引き起こした原因のひとつに金融不安と銀行の貸し渋りがあるが、昨年秋の金融再生法と金融早期健全化法によってそれは徹底的に変化した。投入した公的資金は年初の預金者保護の部分も含めると六十兆円。金融再生委具会と金融監督庁とができて、これまでの護送船団方式を一変し、債務超過の銀行を破たん認定、存続可能な銀行は公的資金の注入によって再生をはかった。これは多くの人の予想を超えた改革であった。これによって日本長期信用銀行と日本債券信用銀行や第二地方銀行五行の整理ができた。また資本注入を機に、富士、日本興業、第一勧業の三行の経営統合や住友、さくら銀行の合併などもすすんだ。東海、あさひ銀行の連合など銀行統合の波はまだ続き、信託銀行、損保、生保の合併も行われるだろう。日本の金融構造は大きく変化し、貸し渋りが成長の足かせとなる状況は変わった。

 マイナス成長を招いたいまひとつの原因は財政の引き締めであるが、これも激変した。財政の抑制は九七年度の橋本内閣の時に強行され、消費税の引き上げなどによる九兆円の歳入増と公共投資の減額による三兆円の支出減が実施され、需給ギャッブの拡大を引き起こした。これは九八年度には改められたが、九九年度も政府は十一月の二次補正で公共投資の追加を行うことを決定している。その金額は真水で六兆円前後となりそうだ。財政支出の拡大は公債の増発を伴うが、個人の金融資産が千三百兆円もあるのだから公債発行を気にすることは少しもない。また公共投資を無駄づかいだという人がいるが、堺屋太一経済企画庁長官が主張しているように、列島を貫く超大容量の「情報新幹線」の設立、全中高校へのパソコン・インターネットの導入、市街地一千キロの電線の地中化など必要な新しい社会資本はいくらでもある。都市交通の整備、新幹線、空港、介護サービス施設など従来型の公共事業の拡充も重要だ。

 九〇年代の日本経済の低成長の原因として、銀行の不良債権や貸し渋りを強調する説と需要不足を重視する意見とが対立していたが、いまやこの両者とも大きく改善している。この上にたって、生産が回復してきた。前月比で八月は四・四%の上昇である。九月は○・八%の微減、十月も○・九%のマイナスの見通しであるが、十一月は三・八%と大幅増加が予想されている。需要面では、九月は勤労者の消費支出が前年同月比三・七%減となったが、現金給与総額は○・六%増と十カ月ぶりにプラスとなった。住宅着工も一〇・五%増となった。輸出はこれまで不振であったが、アジア諸国の経済回復が著しいので、円高にもかかわらず十月以降は増加するのではないか。また注目すべきは、設備投資である。設備投資はほとんどの予測がマイナスと見ているが、生産の回復、企業収益の増大、情報通信産業の好調などによって、計画は上方修正され、来年一−三月期には増加するのではないか。(かなもり・ひさお=日本経済研究センター顧問)

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