運命の胎動 |
共和国崩壊から5年、邪魔者のなくなった帝国は領土拡大へと邁進し、今では大陸の7割をその支配下におさめるまでに強大化していった。 しかしいまだ辺境では様々な種族が独立した生活を営んでいた。 カ・フンショウは辺境の地で身分を偽り、エミールを実の孫として育てながら弟子コケールの無念を晴らすべく機会をうかがっていた。 そしてエミールもまた、そんな事情を知ってか知らずか、幼なじみのアトピーやロイドらと共に辺境の生活に溶け込んでいった。 ある日、フンショウの弟子である学者のアレル・ギンは、フンショウの家に代々伝わる石版の古代文字解読に成功したのであった。 「先生、解りましたっ!解読できましたっ!」 フンショウの研究室にアレル・ギンが駆け込んできた。 「おお、出来たのか。」 作業に没頭していたカ・フンショウはその手を休めると顔をあげた。 「はいっ、この結果を元に言語表を作れば以後の解読作業は万全です。」 「よし、では早速作業に取りかかろう。」 今でこそ共和国の要人として有名なフンショウであるが、愛弟子だったコケールの理想に共鳴し、政治の世界に身を投じるまでは、考古学者として名を馳せていたのである。 彼の家系は代々学者をしており、フンショウ自身も自然と代々伝わる文献に興味を示すようになり、若い頃には、その足で大陸中を歩き回り、各地に伝わる伝承や文化を調べて回ったものだった。 そしてその時の副産物として発表された大陸の地図は、その正確さにおいて他の追随を許さない物であった。 彼の地図によって各地間の交易は活性化し、多くの人々が彼の恩恵にあずかった。 その時出逢った人々がフンショウの人脈と呼ばれる人たちであり、それは旧共和国領内に留まらず、広く帝国領にも数多くの支持者が存在しており、その評判が多くの若者を彼の下へと引き寄せたのである。 その後、共和国の崩壊とともに政治的なゴタゴタから一時的とは言え解放されたフンショウたちは、長い事謎とされていた古代伝承の解明に興じていたのだった。 その後、フンショウたちは2年の歳月をかけ解読した文章の調査を行った。 その結果、フンショウの祖先が、とある古代遺跡から発掘したと言われているその石版は古代遺跡に眠る超文明の謎を解く鍵の一部らしいことが判明したのだった。 「どうやら古代には我々の想像もつかない文明を持った種族がいたようですね。」 解読した文献に目を通したアレル・ギンは、思わずため息をついた。 「ああ、彼等が何故滅びたのかは謎だが痕跡は確かにあるようだな。」 「もしかしたら痕跡だけではなく、何か遺物が見つかる可能性も考えられますね。」 もう一人の弟子のシン・ドロゥムは目を輝かせながら言った。 「だが我々に扱いきれない物かもしれん、そんな物が帝国の手に堕ちたら取り返しのつかない事になるな。」 フンショウの言葉に二人の弟子はハッと顔を見合わせた。 「それなら尚の事、我々が先に手を打つべきでは。」 「うむ、いずれ帝国の支配は打破せねばならんしな。」 思わぬ所から現実に引き戻されたものだ、とばかりにフンショウはため息をついた。 こうしてフンショウは二人の弟子とともに古代の超文明の力を手に入れるべく、エミールたちを残し、石版が発見されたと思われる古代遺跡へと旅立ったのであった。 村に残されたエミールはアレル・ギンの息子のアトピーやギンの生徒だったステ・ロイド、村のガキ大将だったアルーギ・ニンと、いつもニンにくっついて離れない障害児のピリンらとともにいつもと変わらぬ退屈な辺境の生活をおくっていた。 旅立って数日後、カ・フンショウたちは森林地帯を抜け街道に出てすぐの小さな宿場街に何の気なしに立ち寄った。 しかし、その行動が思わぬ事態をひき起こす事になるとはフンショウたちも気付かなかった。 ベニテングの生死確認を命じられたエノキンの密偵の1人が偶然フンショウたちを発見したのだった。 その知らせは急遽、帝都ロマニスタンに居るエノキンに伝えられた。 「ほほぅ、面白いものが網にかかったものじゃ。」 一人居室で寛いでいたエノキンは卑屈そうな笑みを浮かべると密偵に命じた。 「1個中隊を派遣しろ、奴らを匿っていた村は皆殺しにするのじゃ。」 「はっ。」 「それから、フンショウたちはまだ利用価値がある、尾行して目的を探りだすのじゃ。」 「はっ。」 「ついでに別動隊も待機させておけ、目的地がわかったら儂に知らせるのじゃ。場合によっては本隊の派遣もあるやもしれんでのぉ。」 「わかりました。」 そう言うと密偵はエノキンの部屋を退出した。 「ふひゃひゃひゃ、次は何が網にかかるかのぉ。」 こうして帝国の魔の手はエミールたちの潜伏する村へと伸びていった。 |