襲撃 |
森と泉に囲まれた辺境の村ブルーシャトーに時ならぬ銃声が響いた。 「帝国軍だーっ、帝国軍が攻めてきたぞーっ!」 「いったい何故こんな辺境に・・・」 それまで平和だった村は一瞬にして地獄と化した。 何事かも解らないまま逃げまどう村人たち、しかしそこはすでに帝国軍に包囲され、どうすることも出来なかった。 捕らえられた村人たちは広場に集められ尋問にかけられた。 「い、いったい何なんだ、私達が何をしたというんだ。」 村長の問いに帝国兵は口元を歪めながら答えた。 「お前らが反帝国分子を匿っていたことは判っている、正直に白状しろ。」 その言葉に村びとたちは騒然となった。 大陸の中でも辺境のこの地で帝国にも共和国にもくみせず独立した生活を営んできた彼等にとって、まさに寝耳に水の出来事であった。 「何のことだ、我々が何をした、それに反帝国分子とはいったい誰の事なんだ。」 村びとたちは口々に不満をぶちまけた。 「ほぅ、知らぬと言うのか。」 「当たり前だ、我々は先祖代々この森から出たことは無いんだぞ。」 村長は帝国兵にくってかかった。 帝国兵は村長を一瞥すると卑屈そうな笑みを浮かべて言った。 「ならば聞くが、数年前にこの村に住み着いたジジィとその仲間がいるだろう?」 「ジジィ? スギゴケ先生たちの事か?」 「いるのだな?」 帝国兵は鋭い視線で村長を問いつめた。 「スギゴケ先生たちは考古学者だと聞いたが、それに先月から調査に出かけて不在だ。」 「何を戯けた事を、奴らは共和国残党のカ・フンショウとその一味だ。」 「何だって?!」 村人たちに動揺がはしった。 「じゃあエミールたちも・・・・」 村人たちの中から漏れた呟きに、帝国兵はニヤリと笑って答えた。 「ほぅ、エミールもここに居たのか、奴は大罪人スギ・コケールの息子だ。」 「ま、まさか・・・・」 村長は言葉を失った。 「どこに居る、エミールはどこに居るんだ。」 帝国兵は村長の額に銃を突き付けた。 「し、知らない、一昨日から姿が見えないんだ、お・・お前たち、誰かエミールたちを見かけた者はいないか。」 しかし、村人たちからもざわめきが洩れるだけで答は返ってこなかった。 「隠すとためにならんぞ。」 「う、嘘じゃない、本当に一昨日から姿が見えないんだ。」 村長の必死の訴えに帝国兵は、ふと表情を緩めると静かに言った。 「そうか、正直に答えてると言うのだな。」 「信じてくれ、嘘なんか言ってない。」 「ふむ、ならば正直者には褒美をやらんとな。」 「信じてくれるか?」 突き付けた銃を離し、ニヤリと笑った帝国兵に村長は安堵の表情を見せた。 「ああ、そしてこれが褒美だ、受け取れ。」 一瞬の出来事だった、一発の銃声が響き村長はその場に崩れ落ちた。 そしてそれを合図に一斉に銃弾の雨が村人たちに降り注いだ。 「エノキン様に報告だ、カ・フンショウの他にエミールも生きていたとな。」 「はっ。」 隊長と思しき人物の命令を受けた数名の兵士が急ぎ足で帝都へと戻っていった。 「残りの者はエミールの追跡だ、おそらくカ・フンショウの後を追ったのだろう。」 「はっ。」 こうして帝国軍は去り、その後には罪も無い村人の屍だけが残された。 しかし、その様子を密かに監視している者が居ることに帝国軍は気付かなかった。 |