伝説への旅立ち |
エミールたちは森の中から一部始終を眺め、帝国兵が村を去るのを待っていた。 「危機一髪でしたね。」 アトピーは大きく息をつくとその場に座り込んだ。 「ああ、しかしひでぇ事をしやがる。」 目の前で仲間や家族を殺されたニンは怒りが収まらない様子で吐き捨てた。 「ピリンが警告してくれなきゃ俺たちもああなってたさ、なっ!ピリン。」 エミールは傍らに立っていたピリンの頭を撫でながら言った。 「ぁ・・ぁぅぁぅ。」 そして、言葉の喋れないピリンはエミールの言葉に頷いてみせた。 帝国兵が現れる3日前、ピリンは突然怯え始め、エミールたちを山の方に連れて行こうとしたのだった。 最初は何の事か理解出来なかったエミールたちだが突然怯え始めたピリンの様子に不安を感じ、密かに村を出て近くの山林に身を隠していたのだった。 「どうやら奴らはじぃちゃんたちを追い掛けているようだな。」 エミールは帝国兵の去っていった方角を見つめ呟いた。 「しかし何で帝国の連中はあんなにしつこく先生達を追いかけてんだ?」 辺境の森から出たことの無いニンには帝国と共和国の確執が実感としてわかないようだった。 「そうですねぇ、ニンは実感がわかないかもしれませんが先生の影響力は今だに大きいものがありますからね。」 そう言うとアトピーは彼等がこの村に辿り着くまでの経緯をニンに語った。 「元々は帝国も共和国も無く、数多くの小さな国々があるだけで、小さな小競り合いはあったものの世の中はまだ平和だったんです。」 そこでアトピーは一旦言葉を切り、そして大きく息をつくと続きを語りはじめた。 「そんな中で二人の英雄が現れました、一人は武力で周囲を統合し勢力を拡大し続けたシイタケ大王ことシータ・ゲイル・ヨン、そしてもう一人は理想をもって民衆を率いた平和主義者スギ・コケール、つまりエミールの父です。」 「へぇー、エミールの親父って偉かったんだな。」 ニンは驚いたようにエミールを見た。 「偉かったのは親父で俺じゃないさ。」 エミールは照れているのか、目を伏せて手を振った。 「で、その続きですが、二人の英雄はその考え方の違いから、自ずと対立するようになっていったという訳です。」 「うーん、その二人が争うのは解るけどよぉ、それに先生は何の関係があるんだ?」 「先生の人脈でしょうね、エミールの親父さんがあれ程短期間で民衆の支持を集められたのも先生の人脈あっての事ですし、なにせ共和国だけじゃなく帝国領内にも多くのシンパがいたようですから。」 「へー、そらすげぇな。」 これにはニンも流石に驚いたようだった。 「おそらく帝国は先生の人脈で民衆が再び結束するのを恐れているのでしょう。」 それまで話を聞いていたエミールが付け加えるように言った。 「確かにそうだろう、帝国が本当に恐れていたのは親父ではなくじぃちゃんの方だからな。」 「それじゃ先生たちが危ねぇじゃん、知らせてやらねぇと。」 「そうですね、我々も急いだ方がいいようですね。」 アトピーはそう言うと立ち上がった。 「しかしよぉ先生たちはどこに向かったんだ?行先聞いてたのか、アトピー?」 「それなら親父がメモを残してある、これがそうだ。」 アトピーが差し出したメモには奇妙な言葉が書込まれてあった。 『立てばゼニ苔、座れば黒カビ、歩く姿はラフレシア』 「何だコリャ?」 思わずニンの目が点になった。 「ははは、暗号だよ、乱数表で文字を拾ってその文字を古代語の言語表で置き換えるんだ。」 「ヘッ、まったくギン先生らしいや。」 「どうやらオヤジたちはプロミスの街の東にある遺跡に向かったようだ。」 「うぇっ、砂漠越ですか、キツイですね。」 ロイドは思わず顔をしかめた。 「こうしてても始まらん、取りあえず装備を整えて出発しよう。」 まるで自分に言い聞かせるようにエミールは言った。 「そうですね、急いだ方がいいでしょう。」 「ああ、でもその前に村のみんなを埋葬していこうぜ。」 ニンの言葉に一行は重々しく頷くと帝国兵の去った村へと降りていった。 犠牲になった村びと達を埋葬し、装備を整えたエミールたちは村の入口で足を止め、広場の方を振り返った。 「罪も無い人たちをこんな目にあわせる帝国を俺は絶対許さない・・・・」 エミールはそう呟くとブルーシャトーの村に背を向けた。 こうして帝国の追撃をかろうじて逃れたエミールたちはカ・フンショウたちの行方を追い、古代遺跡へと向かうのであった。 |