追跡 |
そして丁度その頃、ブルーシャトーでの報告を受けたエノキンは大王とともにプロミスの街に到着していた。 この街は辺境と帝都の丁度中間に位置し交易の要所として人の出入りも激しく様々な種族が入り乱れていた。 そのためか、様々な種族に伝わる伝説も入り乱れ、それを目当てに一山当てようとする連中も多かった。 中でもこの街は古代語で『オヤクソク』という意味を持ち、ここから東にある遺跡が約束の地であった名残りであると言う伝承が多くの人々をこの地へと引き寄せているのであった。 そしてそれは、かつての人類の繁栄を彷佛させるかのようであった。 そんなプロミスの街も、突然の帝国軍の駐屯に一時は騒然となったものの、補給と休息のために立ち寄ったのだと解るといつもの様子を取り戻し、人々は普段の生活を再開した。 そして帝国軍は、無用の混乱を招かぬよう街の外にテントを張り、仮の拠点を設営し物資の補給を行った。 その中で、ひときわ大きなテントでは大王とエノキンが今後の作戦展開について話し合っていた。 「で?エノキンよ、カ・フンショウたちの動きはどうなっておるのだ?」 「はい大王様、奴らはカーニリベ地方に向かったようですじゃ。」 「カーニリベだと?」 エノキンの意外な答に大王は思わず大声をあげた。 「はい、奴等と思しき一行が東に向かったとの目撃情報もありますじゃ。」 「それは真か? 東は人の住めるような所では無いはず。」 大王が驚くのも無理は無かった。 プロミスの街より東、ドコサヘキサエン山を越えたところのカーニリベ地方は、大河ヒラメノエン川流域に、ごく少数の狩猟民族が暮らしている以外は無人と言われていたからだ。 しかも、雨季にはヒラメノエン川が氾濫するため、集落は被害の少ない上流域に集中しているのだ。 また、それ以外の地域は極端に土地が瘠せており、とても農業には適さない土地柄なのである。 それ故、土地を求めて入植した人々も次々と土地を捨て去っていったのである。 「ですが大王様、あそこには古代の廃虚がありますじゃ、奴等はおそらくそこに向かったと思いますじゃ。人が居ないと言うことは身を隠すのに好都合と言うわけですじゃ。」 「ふむ、そこに共和国残党のアジトがあるやもしれん、と言うわけか? フンショウほどの人脈があれば、わざわざこんな所に籠らずとも他に手段はあるだろうに。」 大王はまだ納得がいかない様子でエノキンに聞き返した。 「あるいは、資金目当てに遺跡の財宝を探しに来たのか、その手の伝説はこの地方には腐る程ありますで、まぁ、仮にそうでなくともカ・フンショウを押さえてしまえば後は雑魚ですからのぉ。」 「よかろう、では明日の早朝カーニリベに出発するぞ。」 大王は、そう言い残すとテントを出ていった。 「畏まりました大王様。」 エノキンは大王の後ろ姿に恭しく礼をすると、本体への進軍の命令の他に別働隊の編成を命じ何事かを指示した。 そして、一人残ったテントの中で不気味な笑いを浮かべていた。 「さぁて、こちらの網には何がかかるかのぉ、ひゃっひゃっひゃ。」 |