kinokologo2.pngのあらすじ(笑)


逃走

一瞬の出来事だった。
立ちはだかっていた兵士たちが目の前の惨劇に注意をそらした一瞬の隙を突きエミールたちは強引に包囲を突破した。
「し、しまった、追えっ追うんだーっ。」
「し、しかし隊長が・・・・」
「無駄だ、あれじゃ助からん、それより奴らを追えっ。」
「は、はいっ。」
しかし隊長を失い指揮系統が崩壊した帝国軍を後目にエミールたちは山道を一気に駆け降りていった。
かろうじて帝国軍が体制を立て直したころエミールたちの姿は遥か彼方にあった。
「助かったよアトピー。」
「礼ならピリンに言って下さい、それより喋ってる暇があったら急ぎましょう。」
「わかった、急ごう。」
そう言うと一行は無言で麓の村を目指した。
一行が麓に着いた頃には、日も暮れ辺りは闇にとざされ始めていた。
だが追手の帝国軍もまたジワジワと距離を詰めて来ていたのだった。
「このままじゃそのうち追い付かれるな。」
「くそー、しつこい奴らだぜ、まったく、どうするよエミール。」
ニンが悪態をついた。
その時、突然ピリンがまるで「ついてこい」とでも言いたげにニンとロイドの手を引っ張った。
「ちょ、ちょっとピリン、そっちに道は無いですよ・・・」
戸惑うロイドを気にもせずピリンは薮の中へと分け入っていった。
「おい、ピリン、こんな所に何が有るってんだ?」
それを見たニンは慌てて二人の後を追いかけた。
「ぁあぁー・・あぅぅあーぅ。」
ピリンは何かを訴えるように川岸を指差し、ジッとロイドの目を見つめた。
「貴方たち何をしているんです? もたもたしてたら追い付かれてしましますよ。」
しびれをきらしたアトピーが背後から声をかけてきた。
「けどよぉ、ピリンのやつがロイドを引っ張ってって離さねぇんだ。」
「ロイドを?」
その時、薮の向こう側からロイドの声が響いた。
「エミールさん、アトピーさん、ちょっと来て下さい。」
一行が声のする方に行ってみると、川岸に固定されていた一艘の船の前にロイドが立っていた。
「ま、まさか・・・・。」
それを見たアトピーは一瞬言葉を失った。
「そうです、コイツで川を下りましょう。」
ロイドは船を指差しアトピーに言った。
「無茶だロイド、さっきの雨で川は増水してるしもう夜だ、闇の中この激流を乗り切れるわけが無い。」
エミールも驚きを隠せぬままロイドに言った。
「でもこのままじゃどちらにしろ追い付かれてしまうんでしょう? それに船なら僕は自信があります。」
だがロイドの決意は固いようだった。
普段は大人しく控えめなロイドがエミールの目を見据え決断を迫っているのだ。
「しかし・・・・・」
エミールはまだ迷っていた。
・・・確かにロイドの言分ももっともだ、しかしこの激流を本当に乗り切れるものだろうか、とても正気の沙汰
   とは思えない、だいたいこんな状況で川を下ろうなんて普通じゃ考えられない・・・・考えられない?・・・・
その時、ピリンがエミールの手を引き船を指差した。
その様子を見てアトピーが口を開いた。
「エミール、船を使いましょう、私も少しは船を扱えますから、私を、いや、ピリンを信じて。」
「・・・・わかった、川を下ろう。」
アトピーの言葉に何か感じるものがあったのだろうか、エミールは決断した。
こうして一行は暗闇の中、激流へと漕ぎ出ことになったのである。
「僕が舳先でバランスをとりながら進路を指示します、アトピーさんは舵をお願いします。」
「わかったロイド、君に命預けますからね、エミールとニンは私たちの操作を見てコツを掴んで下さい。」
「おぅ、疲れたらいつでも言いな、すぐに代わってやるぜ。」
「その時はお願いしますよ、それからピリン、貴方はロイドを助けてやって下さい。」
アトピーの言葉にピリンは頷くと舳先に居るロイドの足下に腰をおろした。
ピリンと目が合うとロイドは意を決して叫んだ。
「みなさん準備はいいですか、ニン、船を流れの中央まで押し出してください。」
「おぉっ、まかせとけっ!!」
ニンは手にした竿を岸に突き立てると自慢の怪力で思いきり突き放した。
ギッ・・・ギィーッ
一瞬軋むような音をたて船は次第に流れの激しいところまで進み出ていった。
折からの雨で勢いを増した流れは、船をまるで木の葉のように弄んだ。
星明かりも無い暗闇の中、ピリンはまるで見えているかのように正しい方向を指差し続けた。
「アトピーさん、右ですっ・・・・・・次ぎっ左っ・・・戻してっ!」
ロイドも巧みに船全体のバランスをとりながらアトピーに指示を出し、アトピーも必死で舵を操った。
轟音と揺れだけが支配する暗闇の中を船は一気に下っていった。
そして真夜中も過ぎるころ、次第に川幅も広くなり流れも穏やかになり始めた。
それまでの緊張が解けたのか、アトピーはその場に崩れ落ちた。
「大丈夫か?アトピー。」
エミールが慌てて駆け寄りアトピーを抱き起こした。
「ああ、大丈夫です、ちょっと疲れただけですから、ここまで下ればもういいでしょう、舵を代わってください。」
「わかった、後はまかせろ、ロイドもニンと代わってもらえ、少し休んだ方がいい。」
「助かります、正直言って僕も少々疲れました。」
そう言うとロイドもその場に座り込んだ。
「よっしゃ、ようやくオレの出番だな。」
「頼みましたよ、アトピーさんは僕が看てますから。」
こうして一行は無事に増水した川を下り、追跡してくる帝国軍に対し一気に距離をかせいでいた。
「これでなんとか振り切れたようだな。」
巧みに船のバランスをとりながらエミールは言った。
「しかしよぉ、あん時よく鉄砲水に気付いたよな、まったくアトピー様々だぜ、あのままじゃ俺たちも流されてたんだからな。」
反対側からニンが声をかけてくると、
「いえ・・・ピリンが教えてくれなかったら・・・私も気付きませんでしたよ。」
船の中央にへたりこんで息を整えながらアトピーが答えた。
「大丈夫ですかアトピーさん。」ロイドが心配そうに覗き込む。
「ああ、大丈夫ですよロイド、慣れない船の扱いにちょっと疲れただけですから・・・」
「でも顔色が・・・」
「少し休めば直りますから、でも意外でしたねロイド、貴方がこんなに船の扱いが上手いとは思ってもみませんでしたよ。」
「やだなー、ぼくにだって取り柄の一つくらいありますよ、それよりも少し休んでください。」
「それじゃお言葉に甘えて・・・お先に一眠りさせてもらいます。」
そう言うとアトピーは、あっと言う間に眠りに落ちていった。
「やっと寝たか、ヘッ、無理しやがってよ。」
「おいおい、ニン、よそ見して船をぶつけるなよ。」
「わかってるよ、エミール心配すんなって、ピリンがちゃんと教えてくれるからな。」
ニンはそう言うと足下の小さな影を見てニヤッと笑った。
そこには暗闇の中で的確な方向を指示しているピリンの姿があった。
「そうだったな。」
エミールもまたそれを見て笑みを返した。

・・・まったく不思議な子だ、体も小さく体力も無い、普通ならこんな過酷な旅じゃ足手纏いにしかならないと言うのに
   何度も俺たちの危機を救っている、船を使う事を頑固に主張したのもピリンだし、まるでロイドが船の扱いに自信
   のある事を知っていたかのようだった、普通の奴だったらこんな暗闇の中、増水した川に漕ぎ出すなんて事は考え
   もしなかっただろう、どうやら天はピリンに体のハンデを補って余り有る素晴しい何かを与えたに違い無い・・・

エミールは心の中でそう呟くと、舵を取る手に力をこめた。
そして帝国軍はエミールの想像通り、まさか川を使って逃走したとは考えつかなかったようで、ひたすら陸路を捜索し続け、ついにはエミールたちを見失ってしまったのだった。
こうしてエミールたちは帝国軍の追跡を振り切り、翌朝には河口近くまでたどりついたのである。
「ん・・・・あぁ、もう朝ですか。」
それまで泥のように眠り続けていたアトピーが目を醒した。
「おっ、起きたかアトピー、具合はどうだ?」
「おかげさまで、充分休ませてもらいましたよ、エミール。」
「そいつぁよかった、おかげでこっちは徹夜だったけどな。」
中央部分でへたりこんでいるニンが悪態を返した。
「ははは、それを言わないで下さいよニン、・・・ところでここはどの辺です?」
アトピーはまだ醒め切っていない目をこすりながら辺りを見回した。
「河口だよ、さてこれからどうしたものかな。」
「河口・・・ですか、ちょっと待って下さい。」
そう言うとアトピーは地図を広げ現在位置を確認し始めた。
「ふむ、ここから陸路だと遺跡までだいたい1日半と言うところですか、途中で帝国軍が張ってるかもしれませんしね。」
遺跡のある方角を眺めながらアトピーは言った。
「そうだな、その可能性は考えられるな。」
「どうでしょうエミール、このまま船で行くってのは。」
「そうか、その手があったか、待ち伏せされても海側は多分手薄だろうからな。」
「おいおいアトピーよぉ、この先は川じゃねぇ、海なんだぞ、また船を漕げってのかい?」
「大丈夫ですよ、ニン、この手の船には川を上るための動力がついていますから、それを利用するんです。」
「ヘッ?ホントかよアトピー。」
「ホントですよ、貴方のお尻の下の布を除けてごらんなさい、水車が二つ出てきますよ。」
アトピーに言われてニンは今まで座っていた場所を覆っている布をめくってみた。
そこにはアトピーの言った通り、ひと組の水車が固定されていた。
「何だよ、こんな便利な物があるならもっと早く言ってくれよ。」
そう言うとニンは拍子抜けしたのか、その場にへたりこんでしまった。
「ははは、すみませんでしたね、でも川を下る時は水車が無い方が早いんですよ、これは上り専門なんです。」
「さすが詳しいですねアトピーさん、そう言うと思って釜の方は火を入れておきましたよ。」
船尾の床下からロイドが顔を出して答えた。
「そっちこそさすがだよロイド、ついでですまないがエミールと一緒に燃料の薪を集めて来てくれないか?」
「わかりました、じゃ行きますかエミールさん。」
エミールとロイドが連れ立って近くの林に薪を探しに行くと、アトピーは再びニンに声をかけた。
「さて、ニン、貴方は私と水車の取り付けです、それじゃ作業にかかりましょう。」
それから小1時間くらいで作業を終えるとエミールたちは遺跡を目指して船を海に漕ぎ出した。


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