夢 |
エミールは夢を見ていた。 それは不思議な光に包まれ、時の流れを遡って行く夢だった。 ・・・・俺は一体どうなっちまったんだ・・・・・・ 帝国軍からの逃走、首都カナンの放棄、父コケールの死・・・・・ 次々と記憶の中の光景が過去に向かって流れて行く。 そしていつのまにか目の前には豊かな森が広がっていた。 エミールはその森に奇妙な懐かしさを感じた。 ・・・・俺はこんな森に来たこと無いのに・・・・・何故だか・・・懐かしい・・・・ その奇妙な感覚に惹かれてエミールが森に入ろうとした瞬間、 突然何処からか鉄で出来た巨大な機械が森の木々をなぎ倒し始めた。 やがて全ての木々がなぎ倒されると辺りは不気味な赤い光に包まれ火の手が上がった。 火は鉄の機械に迫り、その巨体を瞬く間にドロドロに溶かしてしまった。 その凄まじい火の勢いは激しい上昇気流を産み、上空に発生した巨大な雷雲から滝のような雨が降ってきた。 雨は鉄をも溶かす炎を消し去り濁流が辺りを呑み込んだ。 そんな膨大な水もやがては大地に呑み込まれ消えていった。 大量の水を呑み込み脆くなった大地にやがて草木が生え、その根が脆くなった大地を戒めた。 やがて大地には森が蘇り様々な生物たちが森とともに暮らし始めた。 生物たちの暮らしの中で森の木々は火に活力を与えた。 その火が産み出した灰は大地の養分となり、大地は己の中に鉱物を育てた。 大地に育まれた鉱物たちは水に養分を与え、水はその力によって木々に活力を与えた。 ・・・・・あぁ・・・全ては繋がっているんだ・・・・・互いに活かしあい制しあいながら・・・ その時、エミールの耳に不思議な声が聞こえてきた。 (子供たちよ・・・我々と同じ過ちを繰り返してはならない・・・自然と共に生きよ・・・自然のままに・・・・) そして、その声とともにエミールは深い闇に堕ちていった。 「・・・・ル、起きなさい・・」 「・・ミール、起きなさい・・」 どれくらいの時間がたったのだろうか、エミールは仲間の声で意識を取り戻した。 「おぃ、エミール、しっかりしろっ」 「う〜ん・・・・もうちょっとだけ・・・」 エミールは、場違いなボケをカマしながらもぞもぞと動き始めた。 「ちっ、寝ぼけてやがる・・・まぁこれなら大丈夫でしょう。」 苦笑しながらもアトピーは安堵した。 「まったく呑気なもんだな。」 ニンも呆れ顔でエミールを見てため息をついた。 「ンァ・・・、ここは・・・・?」 「気が付きましたか?エミール、随分探しましたよ。」 「アトピー、ここは?」 小さな灯の中にぼんやりと浮かんだアトピーにエミールは尋ねた。 「落ちてきたのさ。」 ニンはそう言うと天井を指差した。 「どうやら遺跡の地下らしいですね、生埋めになってしまったようです。」 「みんなは無事なのか・・・、じぃちゃんたちは・・・・・」 「私達は大丈夫ですが、親父たちはわかりません、なんとか助けださないと。」 アトピーの言葉の後、重苦しい沈黙が流れ一行はその場に立ち尽くしてしまった。 「でもよぉその前にここからどうやってでるんだ?」 その雰囲気を打ち破るようにニンが口を開いた。 「たまには核心を突きますね、ニン・・・、まず出口を探しましょう。」 ニンの言葉に救われたかのようにアトピーが苦笑しながら返事をしたその時、 エミールが握りしめていた石版が淡い光を発し始めた。 「これは・・・・」 エミールは手にした石版を見つめ呟いた。 「あの時の光と同じだ・・・・」 ロイドも食い入るように石版を見つめている。 「どうやらココには何か秘密がありそうですね。」 とアトピーは辺りを見回した。 「やつらが突然倒れた理由も知りてぇしな。」 ニンも不思議そうに石版を見つめながら言った。 しかしエミールだけは無言で石版を見つめ続けた。 「どうしました?エミール。」 アトピーの問いかけにエミールは気が抜けたような返事を返した。 「・・・夢を・・・見てたんだ、奇妙な・・・でも何か懐かしい・・・その中で俺はこの光りに包まれていた・・・」 「夢・・・・ですか、どんな夢だったんです?」 アトピーはエミールの言葉に何か引っ掛かるものを感じた。 「よく解らない・・・・でも何か大事な事のような気がする・・・・」 エミールは何かを思い出そうとするかのように石版の光を見つめた。 「古代人たちが何か伝えようとしたんですかねぇ、石碑の前で聞いた声みたいに。」 ロイドの何気ない一言にアトピーは驚いた。 「ロイド、貴方にもあの声が聞こえたんですか?」 「ええ、聞こえましたけど、それがどうかしたんですか?」 「ニン、貴方はどうです、ピリンは?」 アトピーはロイドの返事にも答えず全員に問いただした。 「どうしたってんだよアトピー、確かに声は聞こえたけどよぉ。」 わけも分からず問い返すニンの横でピリンもアトピーを見て頷いていた。 「そうですか、みんな聞こえていたんですね。」 そう言うとアトピーはそのまま沈黙し何かを考え始めた。 と、その時、石版を見つめていたエミールが口を開いた。 「どうやら俺たちが出逢ったのも偶然じゃ無いのかもしれないな。」 「エミール・・・貴方もそう思いますか。」 アトピーは、まだ結論を出しかねているのか、自信なさそうに言った。 「ああ、たぶんロイドが言ったように古代人たちは何かを伝えようとしているんだろう、そして伝えるべき者を選別する何かが有るに違いないと思う。」 「それで私達が出逢ったと言うわけですか・・・」 ロイドは信じられないと言うような顔つきでエミールを見た。 「オレは難しい事はわかんねぇけどよぉ、古代人が言いてぇ事があるってんなら聞いてやろうじゃねぇか、ここを調べりゃ何か解るんじゃねぇのか?」 ニンの言葉にふっきれたようにアトピーが口を開いた。 「そうですね、今はここを調べてみましょう。」 「よし、調べてみよう、帝国に対抗する力が見つかるかもしれない」 気を取り直して立ち上がるとエミールは自分に言い聞かせるように返事をした。 こうしてエミールの一行は遺跡の奥へと進んでゆくのであった。 |