絶望 |
一方地上では再び帝国軍が行動を開始していた。 エノキンの密偵からの報告では謎の光もすでに無く生物の気配も感じられないとの事だった。 報告を受けた帝国軍は体勢を整え再び遺跡へとやってきた。 が、先の作戦会議でエノキンの作戦に疑念を抱いた将軍たちの不安が兵士たちにも伝染したのか、その足取りはまるで連行される囚人のようであった。 遺跡の入口に到着すると大王は将軍たちに命令をくだした。 「よいか!ものども、エミールたちは生け捕りにするのだ、奴らには見せしめとしてカナンで公開処刑とする。 全軍で遺跡を包囲し何者も逃すでないぞ、では行けっ!」 大王の命令の下、部隊を遺跡の周囲に散開させ、ジワジワと包囲網を狭めていった。 「これでこの遺跡からは何者も逃げ出すことはできませんな、大王様。」 エノキンは大王に追従を言いながらも、心の中では別な事を考えていた。 全軍が遺跡を包囲しているその一方で、エノキン直属の密偵たちは秘密裏に行動を開始したのであった。 カ・フンショウたちの荷物から発見した古代文字の刻まれた石版の破片に興味を持ったエノキンは、大王にも知らせず密かに直属の部下を遺物収集に派遣していたのだった。 遺跡の近くには大抵その遺物を盗掘して暮らす盗賊村が存在する。 エノキンはそこに目を付け遺跡内部よりも周辺地域を徹底的に調べるよう指示していたのだった。 そんなエノキンの企みに気付かないまま帝国軍はエミールたちの行方を血眼になって追い続けた。 そして包囲網が、エミールたちを追い詰めた場所までくると、再び大王の命令が飛んだ。 「あの石碑を捜せっ!石碑の周囲を封鎖せよっ。」 しかし、その場所は、何か災害にでもあったかのように荒れ果てており、肝心の石碑の姿も見つからなかった。 将軍たちからの報告も皆にたりよったりで手掛かりすら発見できなかった。 「どうやら我々が撤退した後で何か異変があったようですな。」とエノキン。 その時、将軍のひとりから報告があった。 「大王様、陥没した跡の瓦礫の中からやつらの荷物の一部と思われる物を発見しました。」 「よしっ、部隊をそこへ集結させろっ」 そこは、陥没したところに周囲の土砂が流れ込んだ様子で生物の気配すらなかった。 「ふむ、やつらはコレに巻き込まれたようですな、大王様。 これでは生きてはいまいに。」 エノキンは瓦礫の跡を覗き込むと大王に言った。 「まぁ、手間が省けたと言うことか、これで石碑捜索に専念できるな。」 そう言うと大王は包囲網を解かせ、全員が石碑捜索に専念するよう命令を出した。 エミールたちが死んだ、との情報は大王の命令と共に全軍に行き渡り、それまで未知の力を恐れていた兵士達は不安が消えたのか、足取りも軽く遺跡中に散っていった。 そして、現場を目の当たりにしたカ・フンショウはその場に崩れ落ちた。 「あぁ・・・・エミールよ・・・・・・」 血の繋がりは無いとは言え、エミールを実の孫のように可愛がってきたフンショウである、愛弟子コケールに続いて、その息子エミールまでもが帝国の手にかかってしまった事に自責の念を覚えずにはいられなかった。 そしてまたギンにしても、息子アトピーをこんな形で失うとは思っても見なかった事だろう。 「わははは、残念であったな、これで人質の役目も終わった訳だ、だが安心せい、おまえらはまだ利用価値がある。」 そう言い残すと大王はキャンプの方角へ去っていった。 その後、全兵士を動員し2日にわたって遺跡全体を調査させ、謎の石碑を捜索する帝国軍であった。 しかし元々古代の知識に乏しい帝国兵たちが調査した代物、怪しいと思われる物は全てキャンプに持ち帰られ、そこにはガラクタの山が次々と積み上げられていった。 だがその成果は芳しく無く、無駄に時間だけが過ぎていった。 そして、関係の在りそうな物と言えば、破損した石版の破片が数個見つかっただけであった。 「そいつをジジィたちに解読させろっ。帝都の研究施設も使わせてやれ。ただし厳重な見張りを付けてな。」 満足のゆく成果が上がらないことに苛立ちながら大王は帝都への引き上げを命じるのだった。 「その件につきましては儂にお任せ下さりませ。」 深々と頭を下げるエノキンの顔には卑屈な笑みが浮かんでいた。 「よかろう、では全軍引き上げの準備だ。」 大王は将軍たちに帝都への引き上げを命じると、不機嫌そうにテントへと戻っていった。 その裏で、盗賊村の廃虚から2枚の石版がエノキンの密偵により発見されたことは大王の耳には伝わらなかった。 |