kinokologo2.pngのあらすじ(笑)


救いの力、滅びの力

「なんて事だ、我々の進化の過程にはこんな秘密があったのか・・・・」
思わずエミールが唸った。
「・・・言葉もありませんよ、本当にこんな事が可能だったんでしょうか。」
ロイドも信じられないと言う面持ちで頭を振った。
「無理もありません、読んでいる私だって信じられないくらいなのだから。」
そしてアトピーはなおも淡々と続きを語った。

遺伝子操作の影響なのか、一部の種族の間で種族を越えた交配が起き、
新たな種族が生まれつつあり、進化の速度も緩やかに上昇し始めた。
そしてついに、いくつかの種族が原始文明の片鱗を形作り始めた、計画はいよいよ最終段階だ。
最低限の人員を残し、計画に参加した旧世代の人類も科学文明を捨て、自然に還るのだ。
彼等と交流し、自然と共に歩む新たな文明を築きあげるのだ。
しかし、また同じ過ちを繰り返す可能性も完全には払拭できない。
そこで我々は最後の拠り所としてAOJIRUを封印し、正しき意志を持つ者に委ねようと思う。
旧来の科学文明による最後の大仕事としてAOJIRUの封印と外界からの隔離を目的とした、
大掛かりな偽装作業が行われ、その完成を最後に旧世代の人類達は新世界へ次々と散っていった。

最後に残ったメンバーは計画の仕上として、正しき意志を持つ者のために情報を残す準備にかかった。
偽装した各地のユニットを拠点に伝説として情報を流布しておこう。
そして封印を解く最後の鍵は、選ばれた五組の夫婦の遺伝子に組込み、封印が偶然に解除され、悪用される事のないよう。
全ては正しき智慧と資格を持つ者のために。

全ての作業は終了した、プロジェクト・ノアがその役目を終えた瞬間だ。
各地のユニットに一人づつ、つまり6人の監視員を除き、残り全ての旧世代人類は
科学文明と別れを告げたのた。
最後に残ったのは我々6人、モスクワユニットのゴミトリー・ヒゼニエル・ヤバチョフ、
ソルトレイクシティユニットのモナー・大前、サンチァゴユニットのターメ・ゴロン、
ナイロビユニットのオズモーン・サンヤック、メルボルンユニットのパイ・ランティ、
そして私、トーキョーユニットの松戸・彩燕がAUJIRUを生み出した責任者として今後の行く末を
見守るために再び眠りについた。

我々6人は100年周期で覚醒し、互いに連絡を取り合いながら監視を続けた。
僅かづつではあるが種族間の交流も見え始めた。
旧世代人類も次第に種族間交流の輪に溶け込み始めたようだ。
モスクワユニットのゴミトリーとナイロビユニットのオズモーンが体調不良を訴えてきた。
過酷な作業に加え、コールドスリープと覚醒の繰り返しが体に負担をかけてきたようだ。
彼等は何時脱落してもおかしくないだろう。

プロジェクト終了後の第二期覚醒。
文明の単位が群れから集落へと移行しつつある、言語によるコミュニケーションも順調のようだ。
まもなく集落間の交流も始まるだろう、我々の役目が終わる日も近いかもしれない。
モスクワユニットのゴミトリーからの連絡が途絶えた、おそらく彼は生きているまい。
ナイロビユニットのオズモーンも限界だろう、連絡に音声合成装置の力を借りている、
次第に気力が無くなってきているらしい、旧世代最後の難病と言われ、アフリカで猛威を
振るったズボラ金欠熱に感染したのだろう。
生態機能の全てが無気力化して最後には死に至るという。
彼はもうまともに会話する事が出来なくなっているのだろう。

プロジェクト終了後の第三期覚醒。
小規模ながら農業を営む集落が現れた、地域の環境に適応する術を学んだのであろう。
進化のカーブも次第に緩やかになってきた、急激な進化ではなく熟成の方向に進みはじめた。
もう余計な手出しは必要無いだろう。
ソルトレイクシティユニットのモナー・大前も連絡を絶った。
これで監視員の半数が脱落したことになる。
私もサンチァゴもメルボルンもいつ脱落するか解らない。
私は独自のやり方で意志の継承者を選定するため保険をかけることにした。
最初のコールドスリープから一度も目覚めさせることの無かった愛犬のタロと
伝説の一つを利用することを決意した。

プロジェクト終了後の第四期覚醒。
状況は前回の覚醒時から大きな変化は見られない、しかし種族間交流は順調なようだ。
物質よりも精神の進化の方が重要なのだ。
サンチァゴユニットのターメの様子がおかしい。
意味不明な発言が多くなってきた、精神に異常をきたしているのか。
孤独と言うものは想像以上に精神を蝕むようだ。
いずれにしろ彼も近いうちに脱落するだろう。
私はメルボルンユニットのパイと協力して、最後の伝説を捏造し流布させた。
一見、無意味に思える詩を刻んだ一対の石版と石碑。
石版を持つ者が地上の石碑に接近したら施設内部に移送する。
そしてその人物が地下の石碑の前で石版を持ち碑文を読む事が出来たならばタロを覚醒させよう。
犬には本能的に善人と悪人を嗅ぎ分ける能力があると言う。
その本能を利用し、タロが選んだ人物にこの記録を与えよう。
私はタロを目覚めさせ、催眠教育を施したうえで一連の命令を与え、再び眠りにつかせた。
私の体調も思わしく無い、パイも同様だ、今までの無理が祟っているのか二人とも体はボロボロだ。
次のコールドスリープには耐える事が出来きるかどうか。
この記録を読む者がいるとすれば、おそらくその頃私達は生きてはいないだろう。
だからと言って伝説の正体を明かす訳にはいかない。
自分の力で正しき智慧を得るのだ、君の持つ石版が導いてくれるはずだ。
だが心して欲しい、AOJIRUの力は救いの力にもなればまた、滅びの力にも成り得るのだ。
我々旧世代人類と同じ過ちを繰り返すような事があるならば、迷わずAOJIRUを破壊して欲しい。
伝説の全ての謎を解いた時、AOJIRUの操作法も破壊方法も明らかになるだろう。
そして願わくばAOJIRUが人類にとって救済の力になっている事を祈る。

「ここで、記録は終わっている、あの人がどうなったのかはわからないが、生きてはいないのだろう・・・」
アトピーはそう言うとその場に座り込んだ。
「大き過ぎる力は使い方次第で救いの手にもなれば滅びの剣にもなると言うことか・・・」
エミールは自分が力を求めた事に対し恐ろしさすら感じてしまった。
「AOJIRUの力って本当に救いの力なのでしょうか?」
ロイドの心配が、そう遠く無い将来、現実のものになるとは誰も予想できなかった。


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