石版の謎 |
帝都の研究所ではエノキンの私室にアレル・ギンが呼び出されていた。 「どうじゃな?解読は進んでおるか?」 「ああ、翻訳はできた。」 憮然とした表情でギンは答えた。 「何っ、できたのか?」 予想外の早さで解読作業が進んでいる事にエノキンの目は輝いた。 がしかし、アレル・ギンの返事は予想を裏切るものであった。 「だが読めただけだ、内容は皆目見当もつかん。」 「どういう事じゃ、一体何が書いてあったのじゃ。」 「詩だよ、とてもまともな神経のやつが書いたとは思えない詩だ。」 ギンはいかにも役に立たない情報を掴まされたかのように振舞った。 「うむむむ、見せろっ見せるのじゃっ。」 「ほら、これだよ、こんなもの書くやつの神経など私には理解出来ん、私は学者だ、芸術家では無い。」 ギンは吐き捨てるように言うと紙片を投げ出した。 それにはこう書かれてあった。 『我は水を司る者なり、その内なる力を我が主の左手の器に捧げよ。』 『我は金を司る者なり、その内なる力を我が主の左足の下に埋めよ。』 『輝く畝傍の行く末』 『魂よ救済の青汁』 『綻び、また沸き立ち』 「これが2枚の石版と3個の破片の内容だ、さっぱり訳がわからん。」 ギンはまだ不機嫌な様子だった。 「ふむ、まぁいいじゃろう、ほれ今日の分の毒消しじゃ、調査は続けるのじゃぞ。」 「これ以上何を調べろと言うのだっ、こんなくだらん詩ばかりではこっちの気が滅入ってしまうわ。」 ギンは、これ以上はお手上げとばかりに肩を竦め吐き捨てた。 「今、手の者に他の遺跡も調査させておる、まもなく手掛かりが見つかるじゃろうて、ほれお前にも聞こえるじゃろう。」 エノキンはそう言うと窓の方を指差した。 言われてギンが窓の外から聞こえてくる音に耳を澄ますと、歓声に混じって沢山の足音が通り過ぎて行くのが聞こえた。 「あれは一体何の騒ぎだ?」 「あれはな、大王様が遠征に出発されたのじゃ。」 エノキンはうっとりと目を細めながらいった。 「ふん、今度は何処を侵略しに行こうというのだ。」 ギンは憎しみを込めて吐き捨てた。 「うひゃひゃひゃひゃ、今度はな、隣の大陸に遠征されるのじゃ、未到の地ゆえ、まだ見ぬ遺跡もあるやもしれんぞ。」 エノキンの言葉にギンは一瞬表情を曇らせた。 「またあちこちに不幸の種をばら撒いてくるわけか・・・」 「どうせ住む者もおらんのだろうが、帝国の版図に組み入れておいて損は無いからのぉ。」 エノキンは卑屈な笑みを浮かべながら言った。 「ふん、せいぜい我々のやる気が出るようなものでも探すんだな、これ以上用が無いなら私は戻らせてもらう。」 そう言い残すとギンは兵士とともに研究室へと戻っていった。 |