監視指令 |
澄み切った青空に、一羽のカカリ鳥が大きな円を描いて飛んでいた。 そして地上では1人の男が空を見上げていた。 一見何処にでもあるありふれた光景であったが、男は上空にカカリ鳥の姿を見つけると懐から小さな笛を取り出して吹いた。 ・・・・・・ はずであった、が、その笛はいっこうに音らしい音もださなかった。 しかし、その直後、上空を飛ぶカカリ鳥の動きに変化があった。 カカリ鳥は眼下に男の姿を認めると次第に旋回する径を狭めてゆき、やがてその男の肩に降り立ったのである。 男は満足そうに微笑むと、手にした笛を懐に仕舞った。 そしてカカリ鳥の足に付いた筒から紙片を取り出し、目を通すと、 「ご苦労だったな、スッテカー。」 男はそう呟いてカカリ鳥の頭を撫で、水と餌を与えると再びカカリ鳥を空へと放った。 そして男はその場に座り込むとジッと何かを待った。 どれくらい時が過ぎたろうか、何時の間にか男の周りには何処から現れたのか数人の男達が集まって、何か言葉を交していた。 「・・・・・・・・暫く留まり・・・・・を作成・・・」 「期限・・・まで・・・」 「目的の・・・・現れた・・・・開始する・・・接触は・・・・・・・だけだ・・・」 その後何かを確認するかのように頷くと男達は姿を消した。 そしてその三日後、男達の目的のものが現れた。 「ここは何処だ。」 地下通路を抜け、巧みに偽装された扉をくぐると、そこは小さな部屋だった。 出口を求め、遺跡内部を歩き回ったエミールたちは、隠し通路と思われる道を抜けて来たのであった。 「どうやら何処かの廃虚の地下室のようですね、上に続く階段がありますよ。」 とアトピーが指差した先には、簡素な階段があった。 「よっしゃ、昇ってみようぜ。」 そう言いながら階段に足をかけたニンをエミールは慌てて止めた。 「待て、ニン。」 「んん? どうしたんだエミール。」 怪訝そうな表情で振り返るニンにエミールは苦笑しながら答えた。 「ここが何処なのかまだ分からないんだぞ、それにまだ帝国軍が居るかもしれないじゃないか。」 「そうですよニン、行動は慎重に、なにせ帝国軍が相手なんですからね。」 さらに追い打ちをかけるようにアトピーが言った。 「ちぇっ、わかったよ、で、これからどうすんだ?」 ニンはきまりが悪そうに言うと、その場に座り込んだ。 エミールはニンの横をすり抜け、階上の様子をうかがった。 そして、何の気配も感じられない事を確認すると、用心のためか古代語で話し始めた。 「おそらくここは廃虚の中のどこかだろう、明るいうちに動くのは危険だからこのまま暗くなるまで待とう、夜になったら森を抜け、アノクタラ山脈へ向かう。」 「おいおいエミール、また山越えか? 一体何処へ行こうってんだよ。」 ピリンを気遣ってか、ニンが言った。 「目的地はチクワブイリだ、アトピー、地図を出してくれ。」 アトピーは頷くと地図を取り出し広げ始めた。 「古代人が印した遺跡は全部で六つ、その中でこのカーニリベが当時トーキョーと呼ばれていた事も分かった、そしてここから一番近いのがチクワブイリと言うわけだ。」 次にエミールは東部地域の地図を広げると言葉を続けた。 「だが、プロミスの街を通るのはまだまだ危険だし遠回りでもあるからな。」 「そこでアノクタラ山脈を越えて一気にシバレル街道まで出よう、って寸法ですか。」 「そう言うことさ、アトピー。 で、ルートはイノシン山とグルタミン山の間を沢づたいに抜けていこうと思う。」 エミールはそう言うと地図の一ケ所を指し示した。 「他の遺跡は遠過ぎるし、今の俺たちの装備では心もとない、かと言って装備を揃えようにも俺たちには金が無い。」 「さしあたってそれが一番深刻な問題ですよねぇ。」 ロイドはそう言うとため息をついた。 「で、それとチクワブイリが何の関係があるんだ?」 ニンはまだ訳がわからない様子でエミールに聞いた。 「以前じぃちゃんから聞いた事があるんだが、チクワブイリにはじぃちゃんの旧い知り合いが居るらしいんだ、だから今回はその人を頼ってみようかと思う、それに遺跡に近いと言うこともあるしな。」 「なるほどな、で、具体的にゃどうすんだ? 実際問題として金がねぇんだろ?」 ニンの疑問にエミールは笑いながら答えた。 「だから山越えをするのさ、山に行けば今の時期なら獲物には困らないだろう、暫くは山に籠って食料を確保しとかないとな、それに毛皮やなんかを売れば多少の金は作れるだろう。」 「そうですね、じゃあとりあえず大雑把な計画だけでも確認しておきましょう。」 アトピーの言葉に一行は頷くと計画を確認し、日が暮れるのを待った。 そして辺りが薄暗くなる頃に行動を開始した。 エミールたちが辺りを警戒しながら外に出てみると、そこは遺跡群のはずれの小さな廃屋だった。 「へぇー、こんな所に出るのか。」ニンは辺りを見回しながら言った。 「静かに、ニン、これからは大声は禁物ですよ。」 アトピーは慌ててニンに注意をすると、他に気配が無いかどうか耳を澄ました。 「どうやら近くには誰も居ないみたいですが注意するにこした事は無いでしょう。」 そう言うとホッと息をついた。 「すまねぇ、これから気をつけるよ。」 ニンは、またもきまりが悪そうに頭を掻いた。 「この場所は覚えておかないとな。」 エミールはそう言いながら、遺跡群の中央部に見える楼閣と昇り始めた月との角度から大体の位置を割り出し、地図に印をつけ、廃屋の内側の壁の目立たない所に古代語で目印を刻みこんだ。 そして彼等は遺跡群の出口を目指して駆け出して行った。 しかし、その様子を何者かがジッと見つめている事にエミールたちは誰も気付かなかった。 |