勅命 |
大王が遠征に出て一ヶ月後、大陸各地に展開している帝国軍にエノキンから遺跡調査の命令が発せられた。 その命令は、遺跡の種類、規模の大小は問わず文献や遺物等の出土品は全て帝都の研究所に直接届けるようにとの命令であり、大王直々の命令であり全てに優先するとのただし書きが添えられていた。 それを受けて各地の帝国軍は一斉に遺跡の調査に乗り出したのである。 しかし、大王が隣の大陸に遠征するために多くの人材を拠出させられた地方の部隊には、現状を維持しながら同時に遺跡調査を行う程の稼動が確保出来なかったのである。 その結果、治安が疎かになり小規模な暴動が頻発するようになった。 また、旧共和国政府の残党たちは、その混乱に乗じて各地でレジスタンスを組織し始めた。 このままでは治安の回復どころか維持すら難しいと各地の駐留部隊は、帝都に「遺跡調査の一時中止」を求めた。 また、この命令に不信感を抱いた一部の駐留部隊は「大王の勅命が何故遠征に出て一ヶ月後に出されるのか」との疑問を帝都に送りつけた。 しかし、帝都からの返事は「遺跡調査を最優先せよ、勅命無視には懲罰をもって臨む」のみであった。 この命令に、多くの駐留部隊は沈黙をもって答え、一部の部隊はそのまま帝都との連絡を絶った。 そして、このやり取りは遠征中である大王の耳に入る事は無かった。 大王の留守をいいことに、エノキンは次々と勝手な命令を発し、大王の周りを固めるポストに次々と自分の息がかかった者たちを配置していったのである。 しかし、その様子はマッシュの手により逐一ベニテングの下へ送られていたのだった。 マッシュからの通信を受け取ったユーフはすぐさまベニテングの部屋へ駆け込んだ。 「隊長、またマッシュからの連絡です。」 そう言うとユーフは一枚の紙片をベニテングに差し出した。 受け取った紙片に目を通すとベニテングはいまいましそうに呟いた。 「ヤツめ、どうやら遺跡での発見を一人占めする気のようだな・・・・」 「いかがいたしましょうか、隊長。」 ユーフは不安そうにベニテングを見た、しかしベニテングからの返事は意外なものだった。 「しばらくは泳がせておけ。」 「しかし・・・」 「無駄な労力は使う必要がない、謎解きはヤツらに任せておけばいい。 マッシュにもそう伝えろ。」 「はぁ・・・」 ユーフはまだ納得がいかない様子でベニテングを見た。 「だがこうも頻繁に動きがあるとカカリ鳥だけでは厳しいかもしれんな、マッシュに連絡員を送ってやれ。」 「はっ。」 ユーフは心得ましたとばかりにベニテングの部屋を飛び出していった。 そして3名の連絡員が新たな命令と共に帝都へと旅立っていった。 一方、誰もいなくなった部屋ではベニテングが静かに物思いにふけっていた。 そして誰とも無くベニテングは呟いた。 「最後に泣きを見るのはキサマだと言うことを思い知らせてやるぞ、エノキン。」 |