親方 |
大量の毛皮と干し肉を抱えたエミールたち一行は山を降り、街道沿いの小さな宿場町にある毛皮屋に来ていた。 「よぉ親方ぁ元気にしてたかぁ。」 ニンの大声に店の奥の作業場にいた職人風の男が顔をあげた。 「なんだ、お前さんたちか、で今日は何の用だい。」 「決まってるだろ、これだよ。」 そう言うとニンは背負った毛皮を指差した。 「おいおい、いったい何なんだよ、その量はうちの仕入れの一月分はあるじゃねぇか。」 親方と呼ばれた男は呆れ顔でニンを見た。 「へへん、オレの腕も鈍ってなかったって訳だ。」 得意そうに笑いながらニンは背負っていた毛皮をおろして親方の前に並べた。 「こいつを全部引き取れってのかい?」 毛皮の数を数えながら親方は渋い表情を作った。 「何かまずい事でもあるのか? 売物にならねぇとか。」 「いや逆だ、質が良過ぎるんだ、うちにゃ今こいつを全部引き取れるほどの金がねぇ、いい毛皮で残念だが半分が精一杯だ。」 親方は毛皮の一つ一つを手に取って質を確かめながら残念そうに言った。 「いや、全部置いていきます、が全部は売りませんよ。」 後ろからアトピーが声をかけた。 「ん? 何でぇ兄ちゃん、どういう意味だ、そりゃあ。」 親方はアトピーの言葉の意味が分からず首をひねった。 「つまりですね、この毛皮を使って我々5人分の防寒服と寝袋を作ってもらいたいんですよ、手間賃は毛皮の代金から引いて下さい。」 アトピーの説明を聞いて親方はニヤリと笑った。 「なるほどな、それならうちでも何とか買い取れる、こんな質のいい毛皮を諦めるなんて勿体無い話だからな、よっしゃ任しときな、腕によりをかけて最高のもんに仕上げてやるからよ。 だが一週間は待ってもらうぜ、こんないい毛皮に手抜きの仕事したんじゃ罰があたっちまわぁ。」 そう言うと親方は会心の笑みを浮かべ毛皮の山を抱えて作業場に消えて行った。 そして作業場からは職人たちに発破をかける親方の声が聞こえてきた。 「親方、頼みましたよ。」 アトピーが作業場の親方に声をかけると奥から返事が返ってきた。 「おぅ、泥船に乗ったつもりで待ってな。」 「親方ぁ、それを言うなら大船ですぜぇ。」 職人の一人がすかさずツッコミを入れた。 「うるせぇ、グダグダ言ってねぇで仕事しやがれ、手ぇ抜いたら承知しねぇぞ。」 そのやり取りを聞いていたエミールたちは思わず苦笑し肩を竦めた。 「でもあの親方なら信頼出来ますね、いい腕してますよ、それに値段も確かです、変に高過ぎたり安過ぎたりしていないですから。」 アトピーは店の商品を一つ手に取るとその造りを確かめるように見た。 「そうだな、なにより正直だよ、あの親方は。 口は悪いけどな。」 そう言いながらエミールが作業場の方に視線を移すと、職人たちを怒鳴り付けながら作業を進めている親方の姿が目に入った。 「さてと、そろそろ次に行かねぇか? オレはさっさとこの荷物を軽くしてぇんだけどな。」 ニンは背負った荷物を指差しながら言った。 |