古の神殿 |
一方、大王の遠征隊はカーモウタの村を出た後、海沿いに続く道を一路南東に進んでいた。 遠征隊は帝国に併合出来そうな集落を探しながら進んでいったが、その期待も空しく途中にいくつか集落跡を発見したものの、いずれも住む者は無く、かなり昔に打ち捨てられた廃虚があるのみだった。 そして偵察に出た兵士らの報告もそれらを裏付けるかのように、進行方向にいくつか集落跡を発見したものの、いずれもすでに廃虚と化したものばかりであった。 そんな状況に、ディスルを始めとする遠征隊の面々は戸惑いを隠せなかった。 「何故だ、何故これ程の道がありながら何故行き交う者が居ないのだ?」 ディスルの疑問はもっともな話しであった。 確かに遠征隊の眼前には、街道と呼んでもおかしくは無い道が伸びていた。 そしてカーモウタの村を出発して以来、遠征隊は只の一人もすれ違う者を見なかったのである。 極寒の地ゆえに誰とも出逢わないのだろうか、遠征隊はそんな疑問を抱いたまま、誰にも邪魔される事無く予定の経路を進み続けた。 しかし進むにつれ気温の方も次第に温暖になり、鳥や獣の姿を見るようになってはきたものの、相変わらず発見された集落は無人のままだったのである。 そんな状況のまま幾日かが過ぎ、道は次第に山岳地帯の方角へと向き始めた。 偵察の兵士たちも、今日こそは住む者のいる集落が見つかりますように、と祈るような気持ちで日々駆け回った。 が、しかしその期待は尽く裏切られ、ディスルの下に寄せられる報告には何の変化も見られなかった。 集落跡や鉱山跡などの廃虚は見つかるものの、そこに暮らす者の姿は一向に発見する事が出来なかったのである。 こうしてまた幾日かが過ぎ山岳地帯も終りの気配が見え始めた頃、遠征隊は高原に広がる湖のほとりにたどり着いた。 湖の畔にはこれ迄の例に漏れず無人の廃虚が連なっていた。 その廃虚はこれまで発見した集落跡よりも遥かに大規模なもので、湖岸を囲むように、遠征隊の居る場所からほぼ対岸の辺りまで連なり、そしてその向こうには何やら神殿らしきものが見えた。 「ほぅ、あれがそうなのか・・・」 大王は神殿をジッと見つめるとポツリと呟いた。 「大王様、何か御存じなのですか?」 ディスルは怪訝そうな表情で大王に尋ねた。 「あれはホンダラ教の神殿だ、どうやらあの老人の言った事は本当らしいな・・・」 「ホンダラ教と言うと、あの700年前の宗教戦争で滅んだと言うあれですか?」 「おそらくな、そしてあれが本当にホンダラ教の神殿ならば今後の方針を転換する必要があるだろう。」 「はぁ・・・」 ディスルは大王の謎めいた物言いに戸惑い、気の抜けたような返事を返した。 「まぁよい、今日の野営は彼処にする。 暫くは神殿を拠点に調査を続けるぞ、本隊を神殿に移動させろ。」 「は、はいっ。」 ディスルは慌てて大王の命令を部隊に伝え、遠征隊は慌ただしく神殿へと移動を始めた。 だが、その様子を物陰から見つめている者が居る事には気付くく事は無かった。 その影は遠征隊の様子を見つめながら呟いた。 「まずいな、彼処に居座られると仕事がやり難くなる・・・」 |