潜伏 |
グリーンペペは戸惑っていた。 本来ならば、遠征隊が侵略・制圧にかまけている間に遺跡の調査を極秘に行うはずだったからだ。 しかし、何処までいっても小さな集落の、しかも廃虚しか見当たらず、ようやく発見した遺跡らしい場所には遠征隊が拠点を置き長期滞在を決め込んでしまっている。 本来は戦闘要員のはずの兵士も偵察にかり出されていて本隊と遭遇してしまう確率も高い。 もしもバレるような事があれば帝国内でのエノキンの立場はおろか自分達の生命さえ危うくしてしまう。 それだけは何としても避けなければならない。 考えた末にグリーンペペは、遠征隊がこの地を去るまでの間、身を隠している事に決めた。 このグリーンペペ部隊は、現在の帝国軍内では確かに抜きん出た実力を持っていた。 ベニテング部隊が失踪した今となっては彼等の実力を凌ぐ部隊は皆無と言っても過言ではない。 だが、部隊長のグリーンペペには他人に言えない秘密があった。 彼は幼児期のトラウマの所為で極度の暗所恐怖症だったのである。 しかも、全く明かりの無い場所に放置されると、その恐怖から精神が幼児退行してしまうほどであった。 帝国でもトップクラスの実力を持つ彼は、そのプライドの高さゆえにこの秘密をひた隠しにしていたのだった。 この秘密を知る者は、グリーンペペと同期に入隊した兵士くらいなものである。 だがそのほとんどが先の対共和国戦で命を落としている。 そして、その半数は戦乱のドサクサにグリーンペペ自身の手にかかって死んでいったのである。 その後、グリーンペペは一つの部隊を任されるまでに出世し、数々の名声を欲しいままにして来た。 部下に自分の秘密が知られるのを恐れたグリーンペペは、闇の中で淡い緑の光を発する帽子を自分の部隊のステータスシンボルとして定め、部下に着用を義務付けたのであった。 ミドリダマシという夜光植物の葉の絞り汁で染められた彼らの制服は昼間こそ目立たないものの夜になると、その葉と同様に淡い緑の光を発して居た。 戦場において、彼等の姿は『死をもたらす緑の光』として恐れられ、敵は緑の光を見ただけで逃げ出す、とまで言われたほどだった。 だが、どうしようもなく目立ってしまうその姿は隠密活動において致命的な欠点であった。 ベニテング部隊無き後、戦場で無敵を誇っていたグリーンペペ部隊は、その事実をこれから嫌と言うほど思い知る事となるのであった。 追う者から追われる者へ、グリーンペペを囲む罠は密かに、そして次第にその輪を閉じていった。 |