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第六話「お祝いの宴よ永遠に」
1999年8月7日02:00 日本 新宿
ミケくんは、見晴らしがイイからシートの真ん中でご機嫌だった。
「では、まず青梅街道に出よう」
「はいはい・・・、えーと、どっちでしたっけ?」またデジャブーであった。
車内爆笑であった。
「今年もかっっ!?カニカニ団、先が思いやられるのぅ」ミケくんが叫ぶ
いくつかの交差点を曲がり間違えてしまい、なぜか甲州街道で環八まで行くハメになった。
どっちでいっても同じだべぇと、去年の話で盛り上がった。
途中カニカニ独特のいい加減さが、幹線道路を行くことを邪魔し始めた。
「ねぃねぃ、こっちの脇道のが早いんじゃない?」などと、後ろの席から悪魔がささやき始めたらもうイケナイ
「そうですかねぇーはい、いってみましょうか」何度やっても懲りないのね、カニカニ団って
お馴染のドツボが待っているだけなのであった。
結局遠回りをしつつも、サラリーマン的にコツコツと青梅街道にそして環八にと躙り寄っていくゼンソン号!
一時半ころに、ようやく環八へと合流した。
その矢先、真水フェチの団長が咽が乾いたということで、コンビニによって水分を補給した。
「ところで、みんなご飯は食べたの?」と誰の口からでもなく話題に登る。
なぜかというと、環八もこの辺になると、長距離トラックの運ちゃんを狙った目も眩むばかりのラーメン屋の看板が
これでもかと言うくらいに続くのだった。
矢も盾もたまらずMBXが叫んだっっ!
「冷麺、喰いたいよー」
MBXの瞳に映っては流れ消えて行く赤や黄色の電飾の幻は、いつしか涙に変わっていった。
MBXの叫びが悲鳴に変わってゆくまで、そう時間はかからなかった。
「ラーメンで有名ですからねぇここらは、どこかに寄りますか?」団長のそれは、なんとなく上の空な言い方だった。
「寄ろう!寄りましょう!!」MBXはすでに、窓から半身を乗り出し、お出かけワンちゃん状態で鼻をクンクンさせていた。
もう、だれもMBXを止められなかった。
やおら振り始めた大粒の雨は怨念の苦涙のようにフロントガラスを打った。
あれほど指揮権を振り回していた団長はMBX@冷麺の前ではもはやただの中坊に過ぎず、
ゼンソン号全体が不気味な躍動に包まれ、今まさに冷麺地獄の奈落の底に落ちていこうとしていた。
団長の頭には、こんな出だしで早くも挫折感を味わいたくないのだ。という去年の思いがあったのだろう。
今までは、のらりくらりと躱していたのだが、涙のリクエストは、もはや臨界点に達していた。メルトダウン寸前であった。
花月という有名なラーメン屋の前を通りかかった時にはMBXの全身は針金のような剛毛に覆われチェルノブイリ状態であった
目は赤く輝き、唾液が口元から滴り落ち始めていた。
危険だっっっ!危険信号だった。
団長が不承不承という面持ちでいった
「今日は、しょこでいさんに子供が生まれたことだし、お祝いって事で・・」
「やっほー!!しょこでい三号オメデトーっっ」車内はワケのワカんない妖しいお祝いムード一色になった。
この調子で、この後カニカニ団の休息の口実に使われまくることになろうとは、しょこでいは想像もできなかったろう
とにもかくにも、店の脇にゼンソン号を急ブレーキで横付けにすると、
ドアからクモの子を散らすように団員たちが出てきた。まるで仁義なき戦い広島頂上作戦の呈であった。
雨に打たれながら鬼のような怖面のカニカニ団に飛び込まれた「花月」の主人は一瞬あとずさりした。
怯むおやじにイキナシ注文を飛ばすカニカニ団。券売機で買ってくださいと諭される一幕も・・・
お祝い記念に「三号」を意味する"指三本ピース"でキメた写真を取り合うカニカニ団、
思ったより具がセコいと嘆くもの、油ソバは失敗だったとうなだれるもの、仲良くギョーザを奪い合う仲間たちであった。
口々に「オメデトーーしょこでい三号」といっては一口食べ、スープを啜り、笑い、叫び、
「ウマいな、このギョーザ!!今日生まれてくれてよかった」などと口にするものも出る始末・・・
とにかく、しょこでい三号のご生誕の宴は続くのであった。


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