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第七話「壁に兄ィの耳あり、障子に兄ィのメアリー夫人」
1999年8月7日02:30 日本 まだ環八
しかし、いい加減腹いっぱいになって眠くなってきたころ、やおら団長の携帯が不吉な呼び出し音を立てた。
団長はいつもの、いや・・腹いっぱいなのでいつもより遥かに浮かれた声で電話に出たはずだった。
みんなは、お約束のおように
「ポリタンの君かぁ?」
「さっそくチェック入っとんのか?」などと突っ込んでいた。
ミケくんが、ビール飲んじゃおーカナ・・と迷ってメニューを見ている時に、ふと目端に入った団長の脂肪質の顔が
みるみる歪んでいったのだった。
携帯を握る手は白く血の気を失い、先程までの口元に浮かべた薄笑いなど微塵もなかった。
救いを求める罪深き懺悔者のようにあぅあぅし、眼球は飛び出さんばかりに膨張し、自らの運命を呪っているかのようであった。
単なる夜更けのラーメン屋に、場違いな緊張感が走り抜けた。
ただならぬ様子にいち早く気づいたheadsが慌てて立ち上がった。
「どーしたのぴょーん?マスター」
「ラーメン食べてんだよーん、女といっしょだよ〜〜〜ん」ミケくんも大げさなカニカニ歩きで団長の周りを回り始めた。
妙に青白い団長の顔をながめるにつけミケくんは、なにかとんでもない事が起こってるような嫌な予感がした。
大騒ぎでひやかし半分のヤジ馬からの大声やゼスチャーのハデさに比べて不思議なことに、先程から終始
「はい・・・・はい・・・」と言葉少な気に頷くだけの団長だった。
「はい・・・代わりましょうか?はい」振り向いた団長の笑顔がコワばっていた。
「Sakaさんですよぉ」携帯はミケくんに手渡された。
受け取ってしまったミケくんの口元が、ヤベぇ〜な、と動く
「お〜〜!!兄ィ〜?元気ぃ?・・・・え?うんうん、わははは」どうやら笑ってゴマかす作戦のようだった。
団員たちの間にも緊張感が走る、冷麺の具を音も立てずに飲み込むMBX, 目をパチクリさせながら様子を見守るあつこ
イスに腰掛けたまま、前後にリズミカルに揺れているHeads, 皆の目と耳がミケくんに集中していた。
Sakaは、とにかく海パンはいて待ってるからと笑っていた。
だがまさか出発して一時間も経ってないのに早くもラ〜メン食って休憩入れてるとはさしがの兄ィ〜も気づかなかったようだった。
(この小説を読んで初めて事実を知ったらしい)
すぐに本線に戻ると約束して、headsに渡した。
携帯が回ると爆笑もついて回った。団長だけが何故か無口になっていた。
さしがっっっ!団長。ありもしない責任感にビシビシ追い立てられていたのだ。
Sakaとの電話も終わって、しばしの静寂のあとに団長が重たそうに口を開いた。
「マズいですよ、早くい出発しましょう」
とるものもとりあえずに、カニカニ団は店を飛びだした。おもったより雨は小降りになっていた。
団長がゼンソン号に早くも乗り込んで、今や遅しと待機していた。
そそくさと乗り込むカニカニ団、ミケくんとあつこが席を交代し発車した。
お腹がいっぱいになったカニカニ団は妙に口数が減り、始まったばかりの長旅に思いを馳せた。
兄ィにムチを入れられ、ひとり鼻息の荒い団長の横顔は遠く能登を見据えていた。


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