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第三十一話「ををっっっ!!憧れのヘミングウェイ海岸よっっっ」
1999年8月7日16:00 日本 珠洲 ヘミングウェイ海岸其の壱
5分程で前方に再び珠洲ビーチホテルが見えてきた。
そのメルヘンチックなホテルは夕日を浴びていつもと違う荘厳なフイイキを彼らに見せていた。
他に海岸通りには目立った建物はなく見事に整備されたキャンプ場や公園が続いていた。
「ここが去年泊まったキャンプ場ね」ミケくんが海岸と反対側を指していった。
海岸通りを折れて駐車場に乗り入れると、おなじみの松林がヒンヤりとして彼らを待っていた。
むき出しの赤土がそこかしこに顔をのぞかせている空き地に車を止めると荷物を持ってゾロゾロと出てきた。
ドアを開けたとたんに潮の匂いがなんとも言えなく切なかった。
打ち寄せる波の音が微かに聞こえたような気がした。
夕日に映し出される影が長くなってきたが、さすがに真夏、まだまだ十分海で遊べる気温だった。
踏み固められた砂と赤土の混じる遊歩道を海辺のテラスハウスへと、いつしか気もそぞろに早歩きになっていた。
海風に煽られてザワザワと音を立てている松林を抜けると、エメラルドのように青い海が見えた。
すぐに一足先に小走りに砂浜にいったMBXの感動の雄叫びが向こうから聞こえてきた。
テラスに辿り着くと、そこからは一望にヘミングウェイ海岸を見渡すことができた。
雲一つない青空のもと、どこまでも続く砂浜は去年よりも少し白くなったような気がした。
ビーチを眺めると土曜日ということもあってか、街中にいたときには想像もできないくらいの賑わいだった。
水辺には赤や黄色の浮輪が漂い、砂浜には鮮やかなツートンカラーのパラソルの花があちこちに開いていた。
カニカニ団は大好きなテラスのデッキチェアは、すでに先客が占めていたので仕方なく店内のテーブルを探した。
なにせ総勢12人の大所帯であったので2つしか開いていなかったテーブルに無理やり詰めまくって落ち着いた。
店内は開け放たれた窓とドアのせいで、外の気温とほとんど変わらぬ蒸し暑さを感じた。
「まずは最初はビールで乾杯かぁー」誰ともなく盛り上がると、矢継ぎ早に好きな飲みものを店のお姉さんに注文した。
去年と同じような地元の高校生くらいのウエイトレスが慌てて注文を書き留めていた。
早速ハラペコの団長がメニュを手に取り、舐め回すように凝視している。
メニューを高く翳し、その口が『焼きおにぎり』と動き始める様を目ざとく見つけたSakaが、たしなめるようにいった。
「いいのか?マスター、おいしい能登牛の焼き肉食えなくなるぞー」
団長はまるで天の声が聞こえたイソップモノガタラーのようにギクリとし、その開かれた口は凍りついた。
店内の一角に爆笑が渦を巻いた。笑ってないのは能登牛本人くらいだろう。
「いやいや冗談ですよぉー、楽しみですねぇ能登牛」団長が笑って応える。
飲み物が一通り揃うと、ようやく再会を祝して乾杯ということになった。
「ほら、団長っっ!!音頭」Maroが団長に促した。
「ええ?私がですかぁー、えー誠に僭越ですが・・・今年もみんな元気で集まれてよかったです」
ビールのジョッキ片手に立ち上がるなりワケのワカらないコトを言い始める団長。
「みなさんが仲良くしてくれることを、及ばずながら祈っています。カンパーイイぃい」
「わははは、カンパーイいい」皆の顔が輝いていた。
夕暮れ近い砂浜に建つ小さなテラスハウスにまた爆笑が響いた。


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