第三十七話「暗夜行路エンヤコ〜ラ」 1999年8月7日22:00 日本 珠洲 狼煙館其の壱 |
「とても美味しかったです。どうも、ご馳走様でした」あわびさんと代わる代わる握手をして表に出てくるカニカニ団。 「あぁ〜食った食った(*^¬^*)/あぃあぃ」皆一様にご機嫌だった。 Sakaの口利きのせいもあって値段も破格の安さだった。 こういう焼き肉屋さんは是非自宅のそばにあって欲しいものだと、皆思ったことだろう。 真っ暗な駐車場から見上げる星空は、よけいに目も眩むほど明るかった。 「まぁ、15分くらいだと思うから」Sakaが笑ってエンジンをかけた。 各自車に乗り込むと、今夜の宿泊地である狼煙館に向った。 ハイシ〜ズンの中直前に、やっとの事でSakaが予約を入れてくれたのだが、実はまだ誰もどんな旅館なのかは知らなかった。 土地勘のあるSakaのランチアを先頭に、海岸道路に出て少し珠洲市内方面に戻ると小学校の角をイキナシ曲がって山道に入っていった。 それこそマジで街灯ひとつない山道をグングン加速していくランチア、続く各車。ゼンソン号はドンジリを走っていた。 右に左にと急カ〜ヴが襲ってくる。なにしろ5人も乗ってる4WDなので坂道は苦手なのだった。 月明かりしか無い峠道を爆音を上げながらどんどん山の中に入っていくランチア、そして後続。 山賊でも出そうな雰囲気だった。 まもなく気づいたのか少し、前のKMランサ〜の速度が落ちて、テ〜ルランプが大きくなってきた。 峠を一つ越えて開けた集落に出た。 暗やみの中に水田が谷間に広がっているのが見えた。 エンジン音も急に低くなり、蛙たちの鳴き声も窓から入ってきた。 「いったいドコにあるんだぁ〜狼煙館っっっっっ」お約束の15分を過ぎるころには、姿も形も見えないナゾの旅館が心配になった。 「あとどのくらいなんでしょうね?」大きな溜め池を跨ぐようにして架けられた橋を渡りながら団長が呟いた。 通り過ぎるトウモロコシ畑の穂が、夏の夜風に大きく揺れていた。 変化に富んだ地形なのだろう、剥き出しになった地層が斜めに幾重にも重なっていた。 2つ目の小さな集落を通り抜けた時にはすでに20分を経過していた。 再び暗やみが迫ってくる、たぶんこの峠を越えれば狼煙館が待っているに違いない、ふとそんな気がした。 ヘアピンカ〜ブがこれでもかと続く山道、昼間はずいぶん違って見えるんだろうと思った。 最後の峠を降り始めたときに、窓から潮の匂いがしてきた。 きっと海が近いのだろう・・・ ゼンソン号は大きく左にうねると、いきなり開けた海沿いの道に出た。 それは絵に描いたような緩やかな海岸線を持つ漁村だった。 湾には数隻の中型漁船が停泊していた。 左手に半島を貫く山脈、右手には月に照らし出された、静かな日本海が広がっていた。 集落が近くなってくるとランチアの速度が落ちた。 かなり近くなったせいだろう。 左手には古い民宿や民家が立ち並んでいた。 夜も更けていたからだろうか、どこか寂れた雰囲気だった。 ついにカニカニ団は能登半島の最先端に位置する狼煙町に入ったのだ。 ランチアが二三度止まりかけては、先に進んだ。 Sakaも見当はついてるのだろうが、どれも似たような造りなので確証がもてないのだろう。 しばらくして目的の『狼煙館』を探し当てたのか、自信あり気にランチアの左のウインカ〜が点滅した。 |