第四十三話「森の木陰で賭けドンジャラ」 1999年8月8日01:30 日本 珠洲 狼煙館其の貭 |
本能的にミケくんは用心深く目をそらし、咄嗟に気付かないふりをして、すぐそばのたつゆきに声をかけるそぶりをした。 すぐさま横目で慎重にもう一度確かめると、すでに路地から人影は消えていた。 目の錯覚だろうか、それとも単に人違いだろうか、ミケくんは階段を登りながら逡巡した。 灯のない階段の下の方は闇の底に沈み、たとえどんな魔物が潜んでいようと不思議ではない。 「しかし、本当に出そうですね」headsがワザと声を震わしていった。 「なにが見えてもおかしくないよねぇ、あっちとか」脇道を指さしながらたつゆきがそれに応える。 「指さしたらアカンって」Yayoiがたつゆきの腕を払う。 冗談とはわかっていても、この場にいたら笑えない状況であった。 百段を越えるころには、次第にみんなの息が荒くなってきた。 不気味にザワザワと音を立てながら、風に森が揺れていた。 階段は脆い安山岩で作られており、崩れやすい岩質なので所々補強してあった。 それでも、踏む場所が悪いと砕けて小さな岩片となって下に転がり落ちていった。 しばらくすると、体力差のためか、縦に長い隊列になった。 それは先行する者たちと、遅れをとる者たちの間であっという間に50mほど離れてしまい、 ライトを持った者を中心にマラソンのような集団を形成しはじめた。 なにしろ13人なのに集まった懐中電灯はなんと 4つだけ、つまり三人に一つの数しか都合できななかったのだ。 ミケくんは最後尾のグループにいた。 後ろが気になっていたからだった。 「おーーーい、みんな大丈夫かぁー」さすがに息の上がったSakaの大声がいきなり静寂を破った。 「ほーい、大丈夫だよー」10mほど前を行くグループのMaroが叫んだ。 見上げると先行組みの持つライトがまるで火の玉のように宙を舞っていた。 せわしない息遣いだけが聞こえるようになり、階段が緩やかにカーブしてるせいだろう、 気づくと先頭を行くSakaのグループの灯は視界から消えていた。 空気は澄んでおり、前をゆく者たちのヒソヒソ声まではっきりと聞こえてきた。 呼吸が苦しいからだろうか、自然と皆声を潜めている。 いたずらに団長がライトを脇の林に向けてみた、木々の梢が乱反射して、まるで何かを形取るように不気味な輝きを帯びた。 「こえぇーー、なんか今見えなかった?」団長がそばにいたheadsに訪ねた。 「やめてよぉーただでさえ怖いんだから」あつこが悲鳴をあげる。 「どうしたんー?」振り返ったMaroの眼鏡がライトに照らし出されて光った。 「Maroさん・・・後ろ・・・後ろ・・・」MBXが震えた声でMaroを背後を指さした。 一緒にいた者たちは一瞬凍りついて指さされた方向を見た。 「なにがやねん」Maroは少しも動ぜず振り向くと、また登り始めた。 「ひっかかんないかぁー、チェっっ」MBXが残念そうにいった。 そんな中、珍しくRankerが無口になっていた。 先程から一言もしゃべらない。 なんでも、 Rankerは子供のころから異常なほど霊感が強かったらしい。 「どうしたの?Rankerさん」MBX がRankerの顔を見て訊ねた。 「・・・ヤバいよぉ、マジでここらは絶対」 Rankerが珍しくボソりと一言だけ呟いた。 その時、はるか下の林で不審な音をたてたのをその場に居合わせた者は聞き逃さなかった。 皆一斉に振り返った。 「おーいSakaさーん、ちょっとーSakaさーん、何か変ですよっ」上に向かって団長が叫んだ。 Sakaからの応答は無かった。 「どうしたっっっ?」血相を変えて慌てて戻って降りてくるMaroとKMたち。 「ヤバいよぉ、マジで」Rankerがその音のした林の方向を凝視したまま凍りついたように動かなかった。 |