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五十三話「危うしっっっ!!ゼンソン号 つゆ知らず編」
1999年8月8日13:30 日本 珠洲 ヘミングウェイ海岸其の椀
盛り上がりも絶頂に達したころ、団長の携帯が小さく鳴った。
「はいはい、団長でしっっっ(*^¬^*)/」しこたま飲んだ団長が酔っ払って大声で応える。
しかし数秒後、団長の顔から見る見る血の気が引いていった。
あたりはシ〜ンと静まり返り、黙って団長を見守っていた。
「え?うんうん、大丈夫だよ・・・」携帯を耳にあてたまま、言葉少な気にすっくと席を立つ団長。どうにも様子が変であった。
「ポリタンの君かぁ〜?」囁くheadsの声を遮るようにして手を降る団長。
凍りついた笑顔のまま後ずさりして出口の方向に退いていった。
そして、まるで怪しんでくれとばかりに店から飛びだしていった。
テラスハウスの表にまわって様子を見ようとして歩き始めた矢先、謎の男の目の前を団長が大童で駆け抜けていった。
小走りで携帯を耳に当てたまま大声で電話の相手に詫びを並べながら、ホテルの方に向かっていった。
びっくりした謎の男はもんどりを打ってシャワ〜の方へ逃げこんだ。
5分しても帰ってこなかった。5分が10分となり、やがて30分を過ぎる頃、皆は不審に思い始めた(モチロン最初から不審だったが)
しかし、面倒くさかったので誰も団長を探しに行こうとは言い出さなかった。
ひとしきり、飲んで騒いでいるうちに、誰も彼もの心の中から団長の存在は忘れ去られていた。
「ミケくん、ビ〜チパラソルのような物って貸してくれるのかなあ?ここって」真夏の強烈な日差しに目を細めてHirokoが云った。
「どうだろ、売店にきいてみよう」ミケくんとHirokoはテラスハウス内の売店に行ってみた。
売店で尋ねたところ、ここでは貸してなく、ホテルのフロントで貸し出しているとのことだった。
それっとばかりにミケくんとHirokoはすぐ脇にあるビ〜チホテルに向かった。
再びテラスハウス内に進入しようと思い、表の様子を見るために謎の男は建物の脇から慎重に首を伸ばした。
その時、ミケくんとHirokoが笑いながら目の前に突然現れた。
謎の男は腰を抜かしてあたふたと踵を返した。先を急いでいたせいもあって、ミケくんはそれに気づかなかった。
二人は丁度、ゼンソン号の停めてあるあたりに差しかかった。木々を透かして20m程の雑草の中にゼンソン号が休んでるのが見えてきた。
「そうだ、Hirokoちゃん先に行ってて、ちとサイフ取ってくるわ」そう云うとミケくんはゼンソン号の停めてある芝生に入っていった。
「うん、先に行ってるねぇ」手を上げてHirokoはホテルの方に向かってゆっくり歩き始めた。
あたりでは、ちょうど食事の終わったかのようにミンミンゼミが一斉に泣鳴き始めた。
謎の男は足音を忍ばせてテラスハウスを離れると、ゼンソン号の方に向かうミケくんの後を追った。
ミケくんは足下に絡みつくイバラや野生の浜イチゴを踏み分けてゼンソン号に近づいていった。
ミケくんから、ほんの10mくらい離れていただろうか、男は生い茂った雑草をうまく遮蔽物にしてミケくんとの距離を詰めた。
古めかしい布製の靴を履いた男の地面の小枝を踏み締める音は足音は、あいにくのセミの大合唱のせいでミケくんには届かなかった。
日差しに煽られて一層激しさを増した蝉時雨が駐車場を見えない音のベ〜ルで包んでいた。
あせりながらポケットからキ〜を取り出すと、ミケくんは手早くゼンソン号のドアを開けた。
すぐに車内にこもった熱気が這い出してきた。
それをよけるようにして一旦後ずさりすると、自分のバッグを探した。
男は、5mほど離れた木陰にしゃがみ込みジっとその様子を見守っていた。
バッグは荷台に乗せていたことを思い出し、舌打ちすると運転席のドアを締めて、次に後ろに回ってハッチのドアを開けにいった。
今度はヒグラシが一斉になきはじめた。
Hirokoはもうホテルについただろうか?心配になってホテルの方角を振り返ってみた。
しかしHirokoの姿は確認できなかった。
もうロビ〜に着いて待ってるかもしれない。
荷物の山からようやく自分のバッグを探し当てると、ミケくんはサイフを取り出した。
サイフをポケットにしまって、バッグをもとどりにして、ゆっくりとした動作でハッチに手をかけるミケくん。
謎の男は額の汗を拭いながら食い入るように身を前に乗り出した。
目に入るなにもかもが気だるく、そして物憂げな影を落としていた。


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