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第五十九話「マニュアル左ハンドルランチアとドッカン槍騎兵」
1999年8月8日17:00 日本 珠洲 ヘミングウェイ海岸其の柔詩
一方、山を二つほど隔てたヘミングウェイ海岸のカニカニ団たちは、再び海に繰り出していた。
すでに5時を回ったとはいえ、砂浜は明るく気温は30度を保っていた。
日没の七時近くまでは泳げるだろう。
Saka、Maro、クロネコ、Hirokoは砂浜に寝そべり、のんびりと雑談をしていた。
団長、MBX、heads、KM、あつこたちは、子供のように浮輪にのって海と戯れていた。
「あっち、ほら、見えるカナぁ見付島ってのがココから見えるんだよね」Sakaが目を細めて遠くを指さしていた。
有名な景勝地である別名軍艦島がこのヘミングウェイ海岸からも望めるのだそうだ。

ジュ〜スを飲みながら思い切ってたつゆきはミケくんに云ってみた。
「ねぇ〜コラさん、ものは相談なんだケド」
「あ?なになに?金なら無いよ」全部飲み切れなかったジュ〜スを足下にハデに振りまきながらミケくんが云った。
「どっちの車を運転するにも、難しいと思うんだケド」たつゆきが仲良く並んで停っているランチアとランサ〜を指さして言った。
「ああ・・・そなの?」ミケくんはあまり気にしてない様子でしゃがみ込んだ。
「片方は左ハンドルのマニュアルだし、片方はドッカンタ〜ボなんよ」二台をチラと見てたつゆきも隣にしゃがみ込んだ。
「なにそり?ドッカン何とかって」ミケくんは煙草を一本抜き出すと口に銜えながら聞いた。
「ロケットみたいなタ〜ボ」わらってたつゆきが答えた。
そこで初めてミケくんは、なるほどと頷いた。
いずれも乗り慣れていない者には運転しにくい車なワケだった。
確かにマニュアルの左ハンドルも辛いケド、ドッカン急加速で自衛隊機のように民家に突っ込むのも辛い。
しかし、どちらかがどちらかの車を運転して行かなければならない状況だった。
ミケくんとたつゆきは顔を見合わせた。
「ど〜する?」
「ど〜しまひょ?」
その会話は聞き取れなかったが、そのやり取りを二階から見下ろしていた男は大笑いだった。
結局、皆が待っているのだから急ごうということになって、ジャンケンで決めようかと思った矢先、たつゆきの口からお剃るべき事実が飛び出した。
「あのね、最初に云っとくケド、KMさんの槍騎兵は禁煙車なんですよ」たつゆきが思い出したように云った。
「ええええ?マジで?KMちゃんって煙草吸ってなかったっけ?」ミケくんが驚いて真顔で尋ねた。
「いや、本人はバコバコ吸うんですケド、この槍騎兵は禁煙なんですよ」困ったような表情で説明するたつゆき。
「んじゃ、決まりだなヽ(^。^)ノうははは」ミケくんは笑いながらランチアのキ〜を受け取って、そそくさと歩き始めた。
「うががが ( ̄◇ ̄; アンタってひとは・・・」たつゆきも空きカンをゴミ箱の中に投げ入れて駐車場に向かった。
たつゆきの発言でミケくんはランチアを、たつゆきは槍騎兵を運転することが簡単に決定してしまったのだ。
"コノヤロ〜っっ早く言えよ〜"とまでミケくんは云っていたのだった。

ヒグラシの合唱が海沿いの風にのって運ばれてくるヘミングウェイ海岸では、Sakaたちが砂浜のかたずけを始めていた。
「そろそろ、折り返しくらいかなぁ、あと20分くらいで戻ってくるでしょ、彼らは」
Sakaがビ〜ルのカンをゴミ袋に入れながらしゃがんだ。
「迷ってたりしてないですかね?」一緒にかたずけを手伝いながら不吉な事を言い出す団長。
まだ、海岸は明るく沖の遠くまで見通せた。
白く毛の長い洋犬をつれた地元の人が乾いた砂浜に足跡を点々と残していった。
かたずけもそこそこに、犬好きのSakaがその犬を戯れていた。
海水浴客は着替えのためにテラスハウスに向かい、少しずつ少しずつ景色にフィルタがかかり始めた。
「今夜は例のウマいギョウザを食べにいくからねぇ、楽しみにしといて」Sakaが白い歯をのぞかせた。
「うわ〜腹減ったぁ〜」どこからともなく、食べ物の話になると団員たちが集まってきた。いったいなんという団体だろう。
「ミケくんたちが帰ってきたら、東くんの仕事場にいってみよう」Sakaが黄金色の夕日に染まったビ〜チホテルを指した。
そのおいしいギョウザを食べさせてくれるソバ屋というのは去年の旅行の時に立ち寄り大変感動したソバ屋の事であった。
予約は七時からにしてあるので、少し時間があった。その間にエアロビ東のスタジオにお邪魔しようと目論んでいた。
幾重にもうねりながら岬の裾に霞むまで続く砂浜、繰り返しくりかえし波の音を聞いていた。


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