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第六十話「どしたんよ〜??ランチア様っぁ・・・・ゴゲキンななめなの?」
1999年8月8日17:30 日本 珠洲 ヘミングウェイ海岸其の柔碁
重々しくランチアのドアが開いた、いかにも気密性のよさそうな音だった。
たつゆきがしゃがみながら心配そうにランチアの下の地面をのぞき込んでいた。
「オイル漏れってことじゃないみたいですね」ク〜ラ排水を指でなぞって慎重に見つめていた。
「エンジンかけてみよう」座席を調節して、シ〜トベルトを閉めるミケくん。
ボンッッッッ、なにかの拍子にボンネットが跳ね上がった。
ミケくんが間違ってボンネットを開けてしまったのだった。
「うははは、コラサン違うって違うって」笑いながらたつゆきが立ち上がって前に回ってボンネットを閉めた。
イグニッションを回すと鋭いセルの回る音が響いた。
まちがえてワイパ〜がフロントガラスを掻きむしる。
「ギャグやってる場合じゃないってばぁ〜、まだ点いてますねぇランプ」インディケ〜タを覗き込むたつゆき。
いずれにせよ、オイルが無いにしても、ここでは給油できない、とりあえずすぐにどうなるもんでもなさそうだったので、
一刻も早くビ〜チに戻って、Sakaに報告しようということになった。
たつゆきが槍騎兵に乗り込むやいなや、ミケくんはギアをバックに入れた。
先に出ようと思ったミケくんは最初のエンストを経験した。
空振りして繋げないのだった。
たつゆきは、手慣れた操縦で槍騎兵をスルスルと海岸通りに出し、道を横切って反対側の漁業共同組合の敷地に停車してミケくんを待っていた。
槍騎兵の半分開いた窓から心配そうな表情のたつゆきの顔が見える。
ランチアは非常にデリケトなパワ〜コントロ〜ルを要求されるのだった。
ミケくんはまだ本当のランチアの恐ろしさを知ってなかったのだ。
ゥイイイイイイン・・・・ウイイイイイイン・・・フィフィフィ・・・
アクセルをフカしたり、戻したり・・もがき喘ぐランチア、どうにもギアが繋がるポイントが掴めなかった。
男は二階の障子の隙間をピシャリと乱暴に閉じるなり、笑い転げた。
ようやくコツを掴んでゆっくりと海岸通りに出るミケくん。
遅れることを心配したのか、たつゆきが手振りで先を走れと指示していた。
いつしか黄金色に染まった狼煙町の海岸通り、早すぎる4速シフトが災いしてパワ〜を出し切れない、哀れランチアであった。

「大丈夫かなぁ〜コラさんたち」心配そうに時計を見ながらMBXが顔を上げる。
「ん〜もうすぐ着くっしょ、これでみんな宿に帰れるね」どうと云うほどのものではないとSakaが笑顔で答えた。
沖合から順に薄紫色のベ〜ルが次第に濃さを増してきた海を、眺めていた。
目一杯まで泳ごうと思っていた団長とheadsは沖に風で煽られて飛んでいったビ〜チボ〜ルを追いかけていた。
あつこが砂で築いたお城が満ちてきた波に洗われていた。
宝石のようにキラキラと輝く砂が海の中に戻っていった。

ミケくんは迂闊だった。
運動性能は抜群なのに思うようにスピ〜ドの上がらないランチアの走りに疑問を感じ始めていた。
たつゆきの駆る槍騎兵に後ろにピッタリとくっつかれていた。
オ〜トマしか乗ったコトがないミケくんにとっては未知の体験だった。
こんなハズじゃない・・・そういう思いが頭をかすめた。
次の信号でスタ〜トした時にロ〜のままで思いっきり引っ張ってみた。
加速は軽かった。
セカンドにシフトした時にそれに気づいた。
背中に大きな加速Gがかかると鬼のようにグングン伸びていった。
必要な回転数を稼いでいなかっただけの事だった。
両脇の景色が飛ぶように過ぎていく。
サ〜ドに入れると加速はさらに力強くなっていった。
「スゴいや、こりゃ・・・」
シ〜トに押し付けられるような躍動が車全体を包み路面と一体化していった。
それからは早かった。
珠洲の海岸通りまでは、文字通りあっというまだった。
すでに我が家の庭のような町並を駆け抜け蛸島のビ〜チまでは目をつぶってもたどり着ける(うそ)
虹の架かったような不思議な色合いを見せる空の下にビ〜チホテルが見えてきた。
どうせビ〜チホテルに行くのだからと云うことで、ミケくんたちはホテルの駐車場に停めることにした。
ホテルの足下には松林が、そよそよと落ち着かなげに真夏の夜の始まりを待っていた。


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