第七十話「お剃るべしっっっっ(゚〇゚;) Saka兄ィ博士の『ヤンキ〜理論』」 1999年8月9日03:00 日本 珠洲 狼煙館其の柔笈 |
まだ納得出来ない表情で不承不承の呈で階段を上り始めるミケくん、見下ろした浴場からは、先ほどの女将の鼻歌が聞こえてきた。 古い木で出来た階段の手摺りは、年月を経て薄明かりの中で黒光りしていた。 首をかしげながら、ミケ部屋の障子を開けると、怪談話が佳境に入っていたのだろうか、一瞬その場で皆の顔が凍りついた。 「おお!ミケくんドコに行ってたの?」代表してSakaが不思議そうな面持ちで尋ねた。 「ん、ちとトイレに」ミケくんは何故か咄嗟にごまかした。 ミケくんが中座しているうちに、怪談話は進んでいたようで、心なしか竹の間全体がヒンヤリとしていた。 会話が止った時、コオロギの泣き声がフル回転のク〜ラ〜の音と共に流れ込んできた。 それにしても不可解だった。ゲシュケと名乗る白髪だらけの外国人の顔はどこかで見かけた様な気がして・・・ ミケくんはほのかな黄色の灯を見つめて記憶の糸を懸命に辿った。 「いや、マジでマジで、本当にこういう商売やってるとそういう写真ってあるんだよね」Sakaが意味深に間を置いて皆の顔を眺めた。 「怖い〜やっぱり幽霊とか写ってたらどうするんですか?」Hirokoが恐る恐るSakaに尋ねた。 「きにしないのが一番だよ、ふ〜んそんなモンかぁ〜って感じで」身振りを交えてSaka が続けた。 Sakaによると、足や手が写ってないとか、そこに居なかったヤツが写ってるとか、今まで無数の心霊モノっぽい写真を目の当たりにしたそうだった。 薄暗い竹の間では物音一つしない中、首筋になにやら冷気の様なものが滑り落ちていった。 そうこうしているうちに、ロケット花火の購買層の話になった時だったろうか、百物語はひょんなコトから脱線し始めた。 「ヤンキ〜ってさぁ、遺伝なんだおね」Sakaの声が一際大きくなった。 「絶対に或種の法則性がアルと思うんだよ、共通事項ってのかな、ヤンキ〜には」 意外な展開に酔いも手伝ってか爆笑ヽ(^◇^)ノするカニカニ団、さらに驚くべき真実がSakaの口を突いて出てきたのだった。 「だって、あの色彩感覚って普通の人には無いものだよね、生まれつきとしか考えられないんだよね」 「ってコトは、毎年何%かがヤンキ〜としてこの世に生を受けるワケでしね?」たつゆきがあぐらをかいたまま前に乗り出した。 「最初から運命は決まってると思うよ」Sakaが伸びをしながら頷いた。 「ヤンキ〜が結婚が早いのは何でなんだろな???」MBXが首をかしげながら云った。 「ヤツらって危険な生き方するじゃん?事故とかで途中で死んじゃうのも多いんだよね」 Sakaが最後まで言い終わらないうちに爆笑の渦であった。あははヘ(^0^)ヘ ☆爆笑☆ ヘ(^0^)ヘ 「だから種の保存本能が働いちゃうんだろ〜ね、危険の多い動物ほど子だくさんなんだおね」 「おお、Sakaさんのヤンキ〜理論出たァ」おもむろに誰かが叫んだ。 布団に入りながらおとなしく聞いているもの、まだあぐらをかいて酒を呷って居るもの、様々なカニカニ団の夜だった。 都会の喧騒から遠く離れた狼煙町に集まった者たちに共通しているのは、ちょっとした些細な理由からだった。 ミケくんは、ふとそんなコトを考えていた。 帰ってきて旅館に入る前に見上げた今夜の月は鳥肌が立つほど奇麗だった。 「今夜が最後の夜かぁ」ツブやいたミケくんの声は誰の耳にも届かなかった。 次に巻き起こった爆笑に掻き消されてしまったからだった。 そのころゲシュケは、一階に宛てがわれた小さな部屋で、布団に入り天井を見つめていた。 明日は大仕事が待ってる、そう思うと身体が小刻みに震えているのがわかった。 身じろぎもしないで、頭の中で明日の計画を念入りに思い描いてみた。 これが終わったら、すぐに日本から去ろう。 短い間だったが、妙に懐かしくて、もうすでに思い出の中に居るような気がした。 眠ろうと思っても目が冴えてしまって、気づくと節だらけの天井を見つめてしまう。 間もなくゲシュケは静かな寝息を立てていた。 表情は安らかだったが、明日の事が頭から離れないのだろうかその口元だけは、真一文字に堅く結ばれていた。 |